歩合給でも残業代は必要?裁判例からわかる正しい対応を解説
タクシー運転手など、歩合給制度を採用している企業では、「残業代は歩合給に含まれている」と考えられることもあります。
しかし、歩合給の中で通常の労働時間分の賃金と、時間外・深夜などの割増賃金分が明確に区別されていない場合には、
たとえ歩合給として一括で支給していたとしても、別途残業代を支払う義務があると判断されることがあります。
この記事では、歩合給と残業代の関係について、実際の裁判例をふまえながら、企業側がとるべき正しい対応を弁護士が解説します。
歩合給とは?残業代を含められる条件
タクシー運転手などに多く見られる歩合給や出来高払いの雇用形態でも、残業代(時間外・深夜の割増賃金)に関するルールは適用されます(労働基準法施行規則19条1項6号)。
そのため、会社が「歩合給の中に残業代も含めて支給している」としていても、
その内訳が明確に分かれていない場合には、別途、残業代を支払う義務があると判断される可能性があります。
特に重要なのは、以下の2つが明確に区別されているかどうかです。
- 通常の労働時間に対する賃金部分
- 時間外や深夜労働に対する割増賃金部分
もしこの区別がされていない場合、「歩合給に残業代が含まれている」という主張は通らないおそれがあります。
また、歩合給や出来高払いの基礎賃金(時間単価)を計算する際は、その月の総支給額を総労働時間で割った金額をもとに算出します(労基則19条1項6号)。
歩合給に残業代を含められる?裁判例で示された判断基準とは
歩合給に残業代が含まれていると主張する場合、明確な内訳がなければ認められないという考え方を示した、重要な裁判例を紹介します。
裁判の概要
この事件では、タクシー運転手の歩合給制度が問題となりました。
原告(運転手)は隔日勤務制で、
- 午前8時〜翌日午前2時まで勤務(うち2時間休憩)
- 賃金は、月間の売上高(水揚高)に42〜46%の歩合率をかけた額を支給
- 時間外や深夜の勤務があっても、割増賃金(残業代)は別途支給されていなかった
そのため原告らは、会社に対し未払い残業代の支払いを求めて提訴しました。
会社側の主張
会社側は、原告らに支給していた歩合率(42〜46%)について、他のタクシー会社と比べても十分な割合であり、その中には時間外や深夜労働に対する割増賃金相当分も含まれていると主張しました。
したがって、すでに残業代に該当する金額は歩合給として支払済みであり、追加の支払い義務はないと反論しました。
裁判所の判断
裁判所は、次のように判断しました。
- 歩合給は、時間外や深夜勤務をしても、支給額が増える仕組みにはなっていなかった
- また、支払われた金額の中で、通常の賃金分と割増賃金分を区別することができなかった
そのため、
「歩合給の中に残業代が含まれているとは認められないため、会社に残業代の支払い義務がある」と結論づけました。
裁判例からわかること
この判例は、以下のような重要なポイントを示しています。
- 歩合給であっても、時間外・深夜労働に応じて賃金が増える仕組みがない限り、残業代を別途支払う必要がある
- 「歩合給に残業代が含まれている」という主張を通すには、通常賃金と割増賃金が明確に区分されている必要がある
このように、歩合給だからといって自動的に残業代の支払い義務が消えるわけではありません。
制度設計や契約内容に不備があると、未払い残業代として請求されるリスクがあります。
まとめ
固定残業代の対策については、労働問題に詳しい専門家にご相談ください。
当事務所の労働弁護士は、使用者側専門であり、企業を護る人事戦略をご提案しています。
まずはお気軽にご相談ください。
