パートにボーナスは必要?平均支給額と待遇差に関する法的リスクを解説
結論から申し上げると、パートにボーナスの支給は必須ではありませんが、状況によっては、正社員との格差が違法と判断される場合には、パートにも支給が必要となるケースもあります。
現在の法律には、同一労働同一賃金という考え方があり、正社員とパートの間で不合理な格差は許されません。
本記事では、パートにボーナス(賞与)が必要かどうかについて、労働問題を多く扱う弁護士が解説しております。
これからパートにボーナスを支給するかどうか検討している方や、支給はしていない運用をしているがそれが法的に許されるか悩んでいる方は、ぜひ最後までご覧ください。
目次
パートにボーナス(賞与)は必要?
パートにボーナス(賞与)が必要かどうかはケースバイケースです。
この点について、パート有期労働法(正式名称は「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」)8条においては以下のように定められています。
引用元:短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律|e−Gov法令検索
パートにボーナスを支給するかどうかについて、このパート有期労働法8条の定めに違反するかどうか問題になることがあります。
法律上の義務ではないが、状況次第で必要
そもそもですが、ボーナスは労働基準法等の法律で支給が義務付けられているものではありません。
そのため、ボーナスという制度を作らずに、正社員を含めて従業員全員に一切ボーナスを支給しないということも法律上は可能です。
もっとも、問題となるケースは、ボーナスを正社員には支給してパートには支給しないという待遇差を設けることです。
後ほど述べるとおり、状況次第ではパートにボーナスを支給しないことが違法と判断されることもあります。
正社員と同等な場合、ボーナスの差がトラブルになる可能性も
パートと正社員を比較した場合に、有期雇用かどうかや労働時間が違うだけで、業務内容や責任等に違いはないということになれば、パート有期労働法8条に違反することになり、トラブルになる可能性があります。
また、マネジメントの観点からも、不合理な格差はパート従業員の不満が蓄積される原因となり、最終的には退職者の増加につながることも予想されます。
パートにボーナス(賞与)を支給する企業は増えている?
中小企業にも同一労働同一賃金が適用されるようになった2021年4月以降、パートの賞与について、大企業で約8〜9割、中小企業では約7割〜9割が、見直し後に増加(新設を含む)と回答しているデータがあります。
参考:パートタイム・有期雇用労働法及び労働者派遣法の施行状況等について 令和7年5月21日第21回同一労働同一賃金部会 参考資料3 44頁|厚生労働省
このデータから、パートにボーナスを支給している企業は増えているということがいえます。
実際にボーナス(賞与)を支給している企業の例
実際にボーナス支給をしている企業の例は以下のとおりです。
イオングループ
イオングループでは、パートに年2回(8月、12月)にボーナスがあるようです。
しまむらグループ
しまむらグループでは、年に2回ボーナスがあるようです。
参考:しまむらグループ パート・アルバイト採用サイト|しまむらグループ
参考:しまむらグループ パート・アルバイト採用サイト|しまむらグループ
※本記事執筆時点での情報です。最新情報は直接ご確認をお願いいたします。
パートのボーナス(賞与)支給の平均額と判断基準
最新版:パートのボーナス(賞与)相場
パートのボーナス支給の平均額に関する公的なデータはほとんど存在しませんが、東京都産業労働局が都内の企業を対象に実施した調査(令和3年対象)では、一人当たりの年間平均支給額は12.7万円でした。
また、支給の判断基準(計算式)は、上位3つを見ると、「平均賃金月額×支給率」が 18.9%と最も多く、次いで、「業績評価による」(14.9%)、「金一封を支給」(11.9%)という回答割合でした。
参考:パートタイマーに関する実態調査 令和4年3月 20頁〜21頁|東京都産業労働局
ボーナス(賞与)なしは違法?待遇差に関する法的な注意点
パートにボーナスを支給しないことは違法かどうかについて、ガイドラインと裁判例に照らし合わせて検討する必要があります。
以下、それぞれ説明いたします。
パートのボーナス(賞与)に関する最新ルール|改正法とガイドラインでの扱いとは
正社員とパートで、同一の職務を行う場合等には、不合理な待遇格差をなくすという考え方があり、これを同一労働同一賃金といいます。
この同一労働同一賃金の考え方を示している法律が、前述のパート有期労働法8条になります。
参考:短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律|e−Gov法令検索
パート有期労働法8条やボーナス格差に関して、厚生労働省のガイドラインがあります。
ボーナス格差に関して、ガイドラインでは以下のように記載されています。
【同一労働同一賃金ガイドライン】
2 賞与
賞与であって、会社の業績等への労働者の貢献に応じて支給するものについて、通常の労働者と同一の貢献である短時間・有期雇用労働者には、貢献に応じた部分につき、通常の労働者と同一の賞与を支給しなければならない。
また、貢献に一定の相違がある場合においては、その相違に応じた賞与を支給しなければならない。
・・(中略)
(問題となる例)
イ 賞与について、会社の業績等への労働者の貢献に応じて支給しているA社において、通常の労働者であるXと同一の会社の業績等への貢献がある有期雇用労働者であるYに対し、Xと同一の賞与を支給していない。
ロ 賞与について、会社の業績等への労働者の貢献に応じて支給しているA社においては、通常の労働者には職務の内容や会社の業績等への貢献等にかかわらず全員に何らかの賞与を支給しているが、短時間・有期雇用労働者には支給していない。
参考:短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針|厚生労働省
このようにガイドラインでは、問題となる具体例が記載されており、参考になります。
裁判例
正社員とアルバイト職員(パートと同義語です)のボーナス格差に関する有名な裁判例として、大阪医科薬科大学事件(最判令和2年10月13日労判第1229号77頁)があります。
参考判例:最判令和2年10月13日労判第1229号77頁|最高裁ホームページ
この裁判例では、正社員とアルバイト職員の業務内容や責任の違い、配置転換の有無の違い、アルバイト職員には正社員登用制度が設けられていたことなどから、アルバイト職員にボーナスを支給していなくても違法ではないとされました。
違法かどうかの判断基準のまとめ
パートのみボーナスを支給しないとすることが違法となるかの判断基準としては、以上のガイドラインと裁判例をまとめると、以下の要素で判断することになります。
以下の要素について、「同一」と判断されれば、違法になる可能性があります。
- ① 業務内容の同一性
- ② 責任の同一性
- ③ 貢献度の同一性
- ④ 配置転換の可能性の同一性
ボーナス(賞与)制度を検討・導入している企業が抑えておきたい4つのポイント
パート社員に対してボーナスを支給する企業は、以下の4つのポイントを抑えるようにしましょう。
①支給対象者を明確にする
どのような社員に対してボーナスを支給するか、支給対象者を明確にするように努めるべきです。
明確にする方法としては、就業規則や賃金規程で支給対象者の定義規定を整備するなどが考えられます。
②支給基準・金額・タイミングを一貫させる
支給基準や金額、支払いのタイミングなどについて、ある程度基準化した場合には、その運用を一貫させる必要があります。
ただし、金額については、評価次第で異なることもあるでしょうから、その場合に違いはあっても差し支えありません。
③待遇差がある場合は説明義務に備える
パートと正社員に待遇差がある場合、パート社員から待遇差の理由について説明を求められた場合には、会社はその理由について説明する義務があります(パート有期労働法14条2項)。
参考:短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律|e−Gov法令検索
そのため、いつでも待遇差の説明ができるよう、しっかり準備しておく必要があります。
④制度内容を就業規則や契約書に明記・周知する
ボーナスに関する制度内容を就業規則や雇用契約書に明記して周知するようにしましょう。
実務上では、就業規則に詳細を記載して、雇用契約書には支給の有無などを簡単に明記して、「詳細は就業規則◯条〜◯条に記載のとおり」などと記載しておくことが多いです。
就業規則や雇用契約書の記載方法は非常に重要ですので、専門家である弁護士に確認してもらうのが望ましいです。
パートとボーナス(賞与)に関するQ&A
アルバイトにボーナスは支給されますか?

アルバイトは、短時間労働者や有期雇用のことを意味し、法律的にはパートと同じ意味です。
そうすると、上記で説明したパートの賞与に関する同一労働同一賃金の考え方があてはまります。
すなわち、業務内容・責任・貢献度・配置転換の可能性などが同じ場合には、その範囲でボーナスが支給される可能性があります。
パートにボーナスがない理由はなぜですか?

ガイドラインや裁判例の内容を考慮すると、業務内容・責任・貢献度・配置転換の可能性などに違いを設けられている場合には、パートのボーナスを支給しないことも許されると考えられます。
このような考え方を基礎として、パートにボーナスを支給していない会社が多いものと推察されます。
扶養内で働くパートに賞与を支給する際、注意すべき点はありますか?

103万円(所得税)の壁や、106万円(社会保険)の壁などを算出するにあたっては、基本的に賞与を含めて計算されるため、これらの壁を意識している方々は、賞与も含めて各壁を超えるかどうかを把握しておく必要があります。
まとめ
パートにボーナスが必要か否かは、パートの労働条件がどのように定められているかによって結論が異なります。
要するに、制度設計を間違えると、パートにもボーナスを支給していない会社は違法になってしまう可能性があります。
人事における制度設計を適切に行うためには、ガイドラインや裁判例の正確な理解が不可欠です。
パートにボーナスを支給しなければいけないかどうかは、労働問題に詳しい弁護士に確認するようにしてください。
デイライト法律事務所の労働事件チームでは、パートの待遇差に関するご相談を承っておりますので、お気軽にお問い合わせください。
