コロナで有給の強制はNG?欠勤扱いや在宅勤務は?
従業員が新型コロナウイルスにかかった場合、従業員が働きたいと言ったら簡単に欠勤させることはできません。
また、有給休暇を取得するかどうかは従業員本人の意思であり、会社が強制することもできません。
デイライト法律事務所の労働事件チームには、企業から、このような新型コロナウイルス感染時の勤務に関するご相談が多く寄せられています。
このような場合の企業の労務管理について、労働事件に精通した弁護士が解説しますので、ご参考にされてください。
目次
新型コロナウイルスを理由に仕事を禁止できる?
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、2020年2月1日、感染症法に基づく指定感染症に指定された後、2021年2月13日、新型インフルエンザ等感染症に変更され、全数把握対象疾患として対策が講じられました。
2023年5月8日からは、感染症法上の5類に分類されることとなり、全数把握から定点把握に変更されました。
参考:厚生労働大臣公表文書
では、「会社」は従業員の就業を禁止することができるのでしょうか。
労働安全衛生法によって制限できる?
この点、労働安全衛生法第68条は、「事業者は、伝染性の疾病その他の疾病で、厚生労働省令で定めるものにかかった労働者については、厚生労働省令で定めるところにより、その就業を禁止しなければならない」と規定しています。
引用:労働安全衛生法
そして、この法律を受け、同法規則第61条は、次のとおり規定しています。
第61条 事業者は、次の各号のいずれかに該当する者については、その就業を禁止しなければならない。ただし、第一号に掲げる者について伝染予防の措置をした場合は、この限りでない。
一 病毒伝ぱのおそれのある伝染性の疾病にかかった者
二 心臓、腎臓、肺等の疾病で労働のため病勢が著しく増悪するおそれのあるものにかかった者
三 前各号に準ずる疾病で厚生労働大臣が定めるものにかかった者
2 事業者は、前項の規定により、就業を禁止しようとするときは、あらかじめ、産業医その他専門の医師の意見をきかなければならない。
引用:労働安全衛生法施行規則
このように、労働安全衛生法の就業禁止は、原則として、病毒伝ぱの伝染病等が定められていますが、「新型コロナウイルス」とは明記されていません。
感染症の場合、「病毒伝ぱのおそれのある伝染性の疾病」についての解釈が問題となりますが、この点について、厚労省の見解は、「伝染させるおそれが著しいと認められる結核にかかっている者」であるとしています(平成12年3月30日・基発第207号)。
したがって、新型コロナウイルスは、同条1項1号にはあたらないと考えられます。
そのため、新型コロナウイルスは、同条1項3号の「前各号に準ずる疾病で厚生労働大臣が定めるもの」に指定されなければ、同法による就業禁止はできないこととなります。
しかし、新型コロナウイルスによるパンデミックが発生していた2020年3月1日当時、厚労省は「感染症法により就業制限を行う場合は、感染症法によることとして、労働安全衛生法第68条に基づく病者の就業禁止の措置の対象とはしません」と発表していました。
そして、新型コロナウイルスが五類に移行した現在も「厚生労働大臣が定めるもの」に指定されていません。
そのため、会社は労働安全衛生法第68条を根拠として、従業員の就業を禁止することはできないと考えられます。
感染症予防法に基づき制限できる?
感染症予防法は、1類感染症から3類感染症及び新型インフルエンザに分類される感染症にかかった場合、就業制限ができると定めています(感染症予防法18条)。
類型 | 感染症の名称 |
---|---|
1類 | エボラ出血熱/クリミア・コンゴ出血熱/痘そう/南米出血熱/ペスト/マールブルグ病/ラッサ熱 |
2類 | 急性灰白髄炎/結核/ジフテリア/重症急性呼吸器症候群/中東呼吸器症候群/鳥インフルエンザ |
3類 | コレラ/細菌性赤痢/腸管出血性大腸菌感染症/腸チフス/パラチフス |
ー | 新型インフルエンザ等 |
なお、新型インフルエンザとは、毎年冬に流行する季節性のインフルエンザとは違い、これまでに人が感染したことのない、新しいタイプのインフルエンザのことをいいます。
厚生労働省は、上記感染予防法について、新型コロナウイルスが「新型インフルエンザ等」に該当しないものとし、2023年5月8日から「5 類感染症」に位置づけることを決定しました。
参考:厚生労働大臣公表文書
そのため、新型コロナウイルスは、同日以降、感染予防法に基づく就労制限もできなくなっています。
就業規則に基づく就業の禁止措置
法律上、会社が労働者に対して就業禁止を命じることができるのは極めて限定的な場合です。
しかし、上記のような「病者の就業禁止」について、就業規則を定めている場合、当該就業規則を根拠として、就業を禁止することが可能と考えます。
就業禁止の期間の給料はどうなる?
次に、新型コロナウイルスに感染した従業員や感染の疑いのある従業員を休ませる場合、給与を支払う義務があるかが問題となります。
上記のとおり、新型コロナウイルスは、労働安全衛生法及び感染予防法上の就業禁止の対象となりません。
そうすると、就業禁止は法的根拠があるものではなく、あくまで就業規則等を根拠とするものとなります。
そして、労働基準法第26条は、使用者の責に帰すべき事由による休業の場合、「平均賃金の100分の60以上」の休業手当を支払わなければならないと規定しています。
就業規則に基づく就業禁止が「使用者の責に帰すべき事由」に該当するかが問題となりますが、不可抗力といえない場合、上記休業手当を支払う義務があると考えられます。
不可抗力とは、①その原因が事業の外部より発生した事故であること、②事業主が通常の経営者として最大の注意を尽くしてもなお避けることのできない事故であることの2つの要件を満たすものでなければならないと解されています。
したがって、例えば、自宅勤務(テレワーク)などの柔軟な方法で就業させることが可能な場合は、不可抗力とはいえないと考えられます。
有給の強制は許される?
新型コロナウイルスで休んだときに、後日、有給や代休で消化する例が見受けられます。
これらは、本人の希望により、実施するのであれば問題はありません。
本人にとっても、欠勤控除がないので望ましいと思われます。
しかし、本人が希望していないのに、会社が一方的に有給を消化させるのは違法と考えられます。
有給については、従業員本人の自由な使用が認められなければならないからです。
柔軟な働き方の検討
上記のとおり、休業手当の支給の要否を判断する際、在宅勤務(テレワーク)の是非について検討すべきです。
しかし、在宅勤務等については、導入する上でのポイントがあるので注意が必要です。
在宅勤務の注意点については以下をご覧ください。
新型コロナ感染の疑いがある従業員への対応に関するQ&A


会社には、従業員の健康に配慮すべきという安全配慮義務を負っています。
新型コロナウイルスが感染症法により指定感染症と取り扱われている状況で、会社がクラスターを発生させて、職場内で従業員に新型コロナウイルスに感染させることは当然回避しなければなりません。
PCR検査については、ワクチンと異なり、唾液を採取するのみですので、注射が不要で、副反応の心配もありません。
したがって、PCR検査が従業員の身体に対する大きな不利益をもたらすものではないといえます。
そのため、会社が費用負担をした上で、PCR検査を実施し、従業員に検査を受けるよう指示することは可能といえるでしょう。
ただし、検査の費用を従業員側に負担させるということであれば、検査を会社から一方的に強制することは難しいでしょう。
従業員に少なからず経済的な負担を強いるからです。


従業員の家族などが新型コロナウイルスに感染した場合、保健所から濃厚接触者として指定される可能性があります。
この場合、会社としては無症状であっても新型コロナウイルスに感染している可能性が一定程度あると判断せざるを得ないでしょう。
そうすると、当該従業員は検査結果が出るまで自宅待機になると予想されます。
この場合の休業補償の支払が必要かについては、非常に微妙です。
なぜなら、保健所が濃厚接触者として指定している以上、会社ではなく保健所が自宅待機を要請しているケースもあるためです。
保健所が自宅待機を要請しているケースでは、不可抗力として、使用者の責に帰すべき事由ではないといえる可能性が出てきます。
しかしながら、職場内の同僚が新型コロナウイルスに感染し、保健所から濃厚接触者として指定された従業員の場合には不可抗力として休業補償は不要といいきれないケースも予想されます。
このように、濃厚接触者としての自宅待機は、陽性者との関係性、保健所からの指示内容等によって休業補償の必要性を判断していくことになります。
専門家である弁護士に相談しながら対応を検討しましょう。
また、自宅待機になった場合には在宅勤務をしてもらう、有給休暇を利用してもらうなど、あらかじめどのような選択肢が自社で取れるかも検討しておくべきでしょう。
まとめ
以上、新型コロナウイルス感染と会社勤務の関係について、詳しく説明しましたがいかがだったでしょうか?
新型コロナウイルス感染の場合、法律上は就労禁止事由となりません。
しかし、企業は、他の従業員の健康やその他の問題を十分考慮して、適切に労務管理を行う必要があります。
また、就業規則は出来合いのものではなく、会社にとって、適切な内容となっているかをチェックすべきです。
しかし、労務管理や適切な就業規則の作成には専門知識が必要です。
そのため、労働問題に精通した弁護士へ相談されることをお勧めいたします。
デイライト法律事務所には、企業の労働問題を専門に扱う労働事件チームがあり、企業をサポートしています。
まずは当事務所の弁護士までお気軽にご相談ください。
