労働審判の費用とは?弁護士・裁判所・解決金等の相場を徹底解説!
労働審判とは、会社と従業員等とのトラブルを、迅速に解決するための手続きのことをいいます。
労働審判にかかる費用は、申立てを行う際の収入印紙代や郵便切手代で数千円〜1万円程度です。
弁護士に依頼する場合は、これに加えて弁護士費用が必要になります。こうした費用を事前に把握しておくことが大切です。
労働審判は通常の裁判と比べて早く解決できるというメリットがありますが、申立側は労働審判申立書を、相手側は答弁書などの書類を提出しなければなりません。
さらに、とても短い期間内で自らの主張を裏付ける証拠資料を集める必要があります。
そのため、労働審判で有利に進めるには専門的な知識や経験が欠かせません。
ここでは、労働問題に注力する弁護士が、労働審判の手続の流れや必要な書類、実際にかかる費用、注意点などについてわかりやすく解説します。
ぜひ参考になさってください。
目次
労働審判の費用とは?
労働審判の費用とは、通常、裁判所に支払う印紙代や切手代、弁護士に支払う報酬等の合計額を言います。
労働審判の相手方(通常は会社側)の場合、これに加えて解決金等も含まれることとなります。
労働審判とは?
労働審判とは、会社と従業員等とのトラブルについて、簡易迅速に解決するための手続きのことをいいます。
労働審判の内容・流れについて、くわしくは以下のページをご覧ください。
労働審判にかかる費用の内訳
労働審判に要する費用は、弁護士費用と実費にわかれます。
また、労働審判の相手方(通常は会社側)となる場合、多くの事案で、会社は解決金等の金銭を労働者側に支払うこととなります。
したがって、会社の場合、この解決金等も労働審判の費用に含まれることとなります。
労働審判の弁護士費用の相場とは?
労働審判を弁護士に依頼する場合、費用はいくつかの内訳に分かれます。まずは代表的な項目を確認しておきましょう。
弁護士費用の主な内訳
- 相談料:法律相談をするときに支払う費用
- 着手金:事件を依頼するときに支払う費用
- 報酬金:事件終了時に出来だけに応じて受け取る金額
- 実費:弁護士が事件を処理するためにかかる実費費用
労働審判の解決金とは?
労働審判の解決金というのは、和解(調停)の際に、相手方(通常会社側)が申立人(通常労働者側)に対して支払う金銭のことをいいます。
労働審判では、通常、「未払い残業代として◯◯円を支払え。」などの文言を申立書に記載し、「解決金を支払え。」という文言は記載しません。
解決金は、申立人の権利として要求するものではなく、和解の際に双方が譲歩して、一定額を支払う代わりに円満解決をするための金銭です。
したがって、申立書には記載しないのです。
しかし、労働審判は、その大部分が和解によって終了しています。
したがって、解決金の額がいくらになるかは労働者側、会社側双方にとって非常に重要となります。
解決金の金額は、労働者側と会社側の交渉等によって決まるため、もちろん、法律上の決まりはありません。
また、算出方法が定めてあるわけでもありません。
しかし、一般には下記のような要素が解決金の額に影響してくると考えられます。
- 裁判所(労働審判委員会)からの和解案の内容
- 審判や判決が出た場合に労働者側が獲得するであろう金額
- 和解による早期解決の希望の程度
- 義務者(会社側)の財力
弁護士費用に相場はある?
現在、弁護士費用は自由化されており、「必ずこの金額でなければならない」という決まりはありません。各法律事務所が独自に料金体系を設定しています。
ただし、自由化前に日本弁護士連合会が定めていた「旧弁護士報酬基準(以下、報酬基準)」を参考にしている事務所も多く、この基準が相場の目安とされています。
報酬基準における労働審判の費用目安
旧報酬基準では、労働審判のような事件について以下のとおり定められていました。
この報酬基準の金額が一応の目安になるかと思われます。
報酬の種類 | 弁護士報酬の額 |
---|---|
着手金 |
事件の経済的利益の額が
※着手金の最低額は10万円 |
報酬金 |
事件の経済的利益の額が
|
引用元:(旧)日本弁護士連合会弁護士報酬基準
弁護士費用のシミュレーション
イメージしやすいように具体例を用いて計算してみましょう。
具体例 労働者側
会社に対し、700万円の未払い残業代を請求し、500万円を獲得した場合
①着手金
700万円を請求しているので、上表の「300万円を超え3000万円以下の場合 5% + 9万円」を適用して計算
700万円 × 5% + 9万円 = 44万円
着手金 → 44万円
②報酬金
500万円を獲得したので、上表の「300万円を超え3000万円以下の場合 10% + 18万円」を適用して計算
500万円 × 10% + 18万円 = 68万円
報酬金 → 68万円
以上から、上記のケースでは、着手金44万円、報酬金68万円となります。
具体例 会社側
労働者から600万円の未払い残業代を請求されて、400万円に減額した場合
①着手金
600万円を請求されたので、上表の「300万円を超え3000万円以下の場合 5% + 9万円」を適用して計算
600万円 × 5% + 9万円 = 39万円
着手金 → 39万円
②報酬金
600万円を400万円に減額→差額の200万円を経済的利益と見た場合、「300万円以下の場合16%」を適用して計算
200万円 × 16% = 32万円
報酬金 → 32万円
以上から、上記のケースでは、着手金39万円、報酬金32万円となります。
上記はあくまで一例です。
労働者が請求する内容は、未払い残業代だけでなく、他に不当解雇の撤回などもあります。
このような場合、着手金や報酬金をどうするのかは依頼者と弁護士との契約内容によります。
弁護士費用が気になる方は、相談時に弁護士に見積書を発行してもらうようにお願いされると良いでしょう。
明瞭会計の法律事務所であれば、依頼を検討されている相談者に対しては、見積書を出してくれると思われます。
労働審判において、裁判所に支払う費用の相場
労働審判で必要となる実費の大部分は、裁判所に支払う費用です。主に 印紙代 と 切手代(郵券代) があります。
- 切手代:数百円〜2,000円程度
- 印紙代:請求する金額(訴額)によって決まる
印紙代の目安
印紙代は、請求金額ごとに定められています。以下は一部抜粋です。
訴額 | 申立手数料(印紙代) |
---|---|
100万円 | 5,000円 |
300万円 | 10,000円 |
500万円 | 15,000円 |
1,000万円 | 25,000円 |
2,000万円 | 37,000円 |
参考:手数料額早見表|裁判所
例えば、相手に300万円を請求する場合、印紙代は1万円となります。
また、2000万円を請求する場合、印紙代は3万7000円となります。
なお、上記以外にも、例えば、弁護士の裁判所までの交通費、コピー代等の諸費用も実費となり、通常は依頼者が負担することになります。
不当解雇の撤回を求める場合、印紙代の計算においては訴額を160万円と見なされます。
したがって、上記の早見表に当てはめて、印紙代は6500円となります(民事訴訟費用等に関する法律4条2項)。
では、会社に未払い残業代300万円と不当解雇の撤回を求める場合の労働審判の印紙代はいくらになるのでしょうか。
この場合、300万円(未払い残業代の訴額)に160万円(不当解雇の訴額相当額)を合計するという扱いではなく、金額の多い方の訴額をもとに算出します。
したがって、上記の例では300万円の訴額と考えて、印紙代は1万円となります。
不当解雇の場合、労働者側の弁護士は通常、解雇が無効である前提で将来賃金を求めます。
例えば、2022年3月に解雇された従業員(月額給与30万円)について、不当解雇の撤回を同月、労働審判で申し立てる場合、労働者側の弁護士は解雇されていなかったら得ることができるであろう2022年4月以降の賃金も合わせて請求します。
この場合、裁判所からは3ヶ月分の賃金相当額である90万円を訴額として印紙代を求めると思います(東京地裁の運用)。
この3ヶ月の根拠は労働審判の平均審理期間のようです。
ただし、裁判所によって運用が異なる可能性もあります。また、印紙代の計算は面倒と思われますので、算出にあたっては労働法専門の弁護士に任せることをお勧めいたします。
労働審判の費用は誰が払う?会社側が負担する?
労働審判では、弁護士に依頼するときに、その費用を誰が負担することになるのか気になる方が多いです。
弁護士費用については、その弁護士に依頼された方が支払う必要があります。
相手に支払ってもらうことは原則としてできません。
具体例 従業員が会社に対して未払賃金を請求するために、弁護士に依頼して労働審判を申し立てた場合
結果として、未払賃金300万円を支払ってもらえたものの、弁護士費用が50万円かかったとします。
この場合、その弁護士費用は依頼者本人が負担することとなります。
依頼する側としては、会社が賃金を支払ってくれなかったため、弁護士に依頼したのだから、弁護士費用も会社に負担してもらいたい、と考えるのは自然です。
しかし、日本の裁判実務では、そのような扱いは原則として認められません。
例外:不法行為に基づく損害賠償請求のケース
弁護士費用は依頼者本人負担が原則ですが、例外があります。
それは、不法行為に基づく損害賠償請求のケースです。
労働問題では、ハラスメントや労災の慰謝料請求などが考えられます。
このようなケースでは、裁判において、依頼者の損害額に弁護士費用として10パーセントの上乗せが認められる傾向です。
具体例従業員が会社に対してセクハラの200万円の慰謝料を請求するために、弁護士に依頼して労働審判を申し立てたとします。
この場合、通常、弁護士費用として、10パーセント(20万円)を加算して損害賠償を請求することとなります。
実際の弁護士費用が50万円だったとしても、加算できるのは損害額の10パーセントとなります。
また、筆者の経験上、加算が認められるのは、裁判で判決が出たときです。
基本的には和解等で解決する場合、弁護士費用の加算まで含めないことが多いのです。
労働審判の費用に関するよくあるQ&A
労働審判を自分でできるか?

したがって、理屈上は自分だけでも可能です。
しかし、労働審判は、原則として3回以内の期日で終了するため、申立ての段階から十分な準備をして、的確な申立書を作成し、かつ、裏付けとなる証拠を集めて提出しなければなりません。
そのため、法律の専門家である弁護士に依頼する方が望ましいと考えます。
労働審判で費用倒れになることがある?

そのため、できるだけ労働問題に詳しい弁護士に相談し、結果についての見通しや弁護士報酬の見積もりをもらっておかれることをお勧めいたします。
パワハラ事案の労働審判の費用とは?

しかし、特に深刻な健康被害等が出ていない場合、通常は100万円から300万円程度を請求することが多いという印象です。
仮に会社に対し、300万円の損害賠償を請求し、100万円を獲得した場合、上記の報酬基準に当てはめれば、弁護士費用は、着手金24万円、報酬金10万円となります。
労働審判で負けた場合、どうなりますか?

異議の申立があった場合、労働審判は効力を失います。
この場合、自動的に労働裁判手続きへと移行します(労働審判法22条)。
異議を申し立てない場合、労働審判が確定するため、争うことはできません。
労働審判は会社側に不利ですか?

筆者の経験上、一般的に、解雇や未払賃金のケースは会社に不利なことが多いです。
他方で、ハラスメント問題の場合、一定程度減額できることもあります。
ただし、具体的な状況によって異なるため、くわしくは労働問題に強い弁護士に相談されることをおすすめいたします。
まとめ
以上、労働審判の費用について、詳しく解説しましたがいかがだったでしょうか。
労働審判では、弁護士費用が実費が必要となります。
また、会社側はこれに加えて、解決金等を支払う可能性があります。
このページでは、具体例を踏まえて、それぞれの金額を算出しましたが、労働審判の請求内容は様々であり、一概には言えません。
また、弁護士の報酬は自由化されているため法律事務所によっても異なります。
そのため、あくまで参考程度にとどめて、具体的な金額については弁護士にご相談されてください。
この記事が労働問題で苦しむ方々のお役に立てれば幸いです。

弁護士法人デイライト法律事務所 代表弁護士
所属 / 福岡県弁護士会・九州北部税理士会
保有資格 / 弁護士・税理士・MBA
専門領域 / 法人分野:労務問題、ベンチャー法務、海外進出 個人分野:離婚事件
実績紹介 / 福岡県屈指の弁護士数を誇るデイライト法律事務所の代表弁護士。労働問題を中心に、多くの企業の顧問弁護士としてビジネスのサポートを行なっている。『働き方改革実現の労務管理』「Q&Aユニオン・合同労組への法的対応の実務」など執筆多数。
