弁護士コラム

インフルエンザ・コロナ感染の勤務の注意点とは?【弁護士解説】

執筆者
弁護士 宮崎晃

弁護士法人デイライト法律事務所 代表弁護士

保有資格 / 弁護士・MBA・税理士・エンジェル投資家

疑問従業員がインフルエンザやコロナにかかったら、会社は休ませるべき?

従業員が働きたいと言ったらどうなる?

インフルエンザやコロナで注意すべき労務管理のポイントとは?

 

デイライト法律事務所の労働事件チームには、企業から、このようなインフルエンザやコロナ感染時の勤務に関するご相談が多く寄せられています。

このような場合の企業の労務管理について、労働事件に精通した弁護士が解説しますので、ご参考にされてください。

 

インフルエンザにかかったら休ませるべき?

インフルエンザは毎年、冬季に流行します。

他の病気よりも比較的感染力が高く、罹患すると症状が悪化しやすいため、冬場になると、会社を休む方々が出てきます。

このような場合、企業の人事労務担当者から「会社を休ませるべきでしょうか?」というご相談をよく受けます。

人手不足の中、簡単に休まれてしまうと、業務に支障が生じたり、他の従業員の負担が増加するなどの問題が生じるからです。

そこで、このような場合、法律上どうなるのか、という点について解説します。

「インフルエンザで出勤停止は当たり前じゃないか。」と感じる方が多いでしょう。

これは、学生時代、インフルエンザは通学禁止と先生や医師から言われていたことが影響しているのだと思われます。

しかし、法律上、通常のインフルエンザの場合、就労禁止とはなっていません。

通常とは、冬場に流行する季節性インフルエンザの場合です。

学校の場合は、学校保健安全法施行規則により、インフルエンザの場合、出席停止期間が設けられています。

なお、出席停止期間は「解熱後2日を経過するまで」(幼児の場合は「3日を経過するまで」)かつ「発症した後5日を経過するまで」となっています。

これに対し、会社の場合は、上記のような法律上の制限がありません。

これは、「働くことが労働者の権利」であり、よほどのことがないと法律上、制限できないという考え方が根底にあると考えられます。

就労が禁止されると、通常の労働者()の方は、給料が下がってしまいます。※完全月給制等ではなく、欠勤控除が行わる会社の場合

有給がある方は有給を使うという方法も考えられますが、それで複数日が消化されるので、従業員としては、「会社をできれば休みたくない」と考える方も多いと思われます。

したがって、季節性インフルエンザの場合、会社が出勤を命じても、それだけでは違法とはならないということになります。

なお、新型インフルエンザについては、エボラ出血熱などと同様に、通常の季節性よりも感染のリスクが高いため、法律上、就労が禁止されています。

【感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律第18条1項〜2項の抜粋】
第18条 都道府県知事は、・・・・新型インフルエンザ等感染症の患者・・・に係る第十二条第一項の規定による届出を受けた場合において、当該感染症のまん延を防止するため必要があると認めるときは、当該者又はその保護者に対し、当該届出の内容その他の厚生労働省令で定める事項を書面により通知することができる。
2 前項に規定する患者・・・は、当該者又はその保護者が同項の規定による通知を受けた場合には、感染症を公衆にまん延させるおそれがある業務として感染症ごとに厚生労働省令で定める業務に、そのおそれがなくなるまでの期間として感染症ごとに厚生労働省令で定める期間従事してはならない。

また、労働安全衛生法は、事業主の責務としても、就業の禁止を義務付けています(第68条)。

したがって、新型インフルエンザについては、法律上も会社を休ませるべきです。

 

 

従業員が働きたいと言ったらどうなる?

上記のとおり、季節性インフルエンザの場合、社員を強制的に休ませる法的根拠はありません。

そのため、会社が命令によって、当該従業員を休ませると「使用者の責に帰すべき事由による休業」となり、休業手当()を支払う必要があります(労働基準法第26条)。
※労基法では賃金の60%で大丈夫ですが、民法上100%が原則(民法第526条第2項の危険負担。ただし、労使間の合意で危険負担は除外可能)。

 

 

インフルエンザのときに注意すべき労務管理のポイントとは?

パワハラに注意

指導季節性インフルエンザの場合、法律上、休ませる必要はありませんが、本人が休みたいと言っているのに、無理やり働かせることはできません。

インフルエンザに罹患しているのに、就労を強要したりすれば、パワハラ()となるおそれがあるので注意が必要です。
※不法行為(民法第709条)が成立して慰謝料の請求の対象となるという意味

また、インフルエンザでの欠勤を理由に、人事評価上、不合理といえるほどの不利益(降格や転勤など)を与えても同様と考えられます。

 

有給での消化は許される?

インフルエンザで休んだときに、後日、有給や代休で消化する例が見受けられます。

これらは、本人の希望により、実施するのであれば問題はありません。

本人にとっても、欠勤控除がないので望ましいと思われます。

しかし、本人が希望していないのに、会社が一方的に有給を消化させるのは違法と考えられます。

有給については、従業員本人の自由な使用が認められなければならないからです。

 

健康配慮義務に注意

季節性インフルエンザの場合、上司から療養するように説得しても、本人が働くと言い張った場合、上記のとおり、法律上、これを拒むことは難しくなります。

しかし、会社は、従業員に対して、健康配慮義務があります。

他の従業員がインフルエンザに感染することを回避するための措置をとるべきです。

そこで、このような場合、就業規則の規程が重要となります。

すなわち、就業規則の中で、法律上、就労が禁止される伝染病以外の病気でも、会社の判断で、就労を禁止できる場合があることを規定しておきます。

(病者の就業禁止)
第〇〇条 会社は、次の各号のいずれかに該当する従業員については、その就業を禁止する。
①病毒感染の恐れのある感染症にかかった者
②心臓、腎臓、肺等の疾病で労働のため病勢が著しく憎悪するおそれがあるものにかかった者
③前各号に準ずる疾病で、厚生労働大臣が定めるもの及び感染症予防法で定める疾病にかかった者
2 前項の規定にかかわらず、会社は、次の各号のいずれかに該当する者については、
その就業を禁止することがある。
①従業員の心身の状況が業務に適しないと判断したとき
②当該従業員に対して、国等の機関から、外出禁止又は外出自粛の要請があったとき
③前項第1号以外の感染の恐れのある疾病にかかった者又は疾病のため他人に害を及ぼす恐れのある者で、医師が就業不適当と認めたとき
3 第1項目及び第2項目の就業の禁止の間は無給とする。

就業規則は、労使間の権利義務を規律する根拠となります。

したがって、従業員は、就業規則を順守しなければなりません。

適切な就業規則を作成しておくことで、各種トラブルの防止が可能となります。

就業規則の重要性について、詳しくはこちらのページをご覧ください。

 

コロナに感染している場合

コロナウイルスは、2020年3月1日現在、世界的に感染が拡大しています。

会社の経営陣・人事労務担当の方は、これについてどのように対応すればよいか、頭を抱えている方もいるのではないでしょうか。

そこで、ここでは従業員がコロナウィルスに感染している場合、又は、そのおそれがある場合のポイントについて、解説いたします。

 

就業を禁止できる?

質問コロナウイルスは、2020年2月1日付で、指定感染症として定められています。

したがって、上記のとおり、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(以下「感染症法」)第18条2項により、都道府県知事は、該当する労働者に対し、就業制限や入院の勧告等を行うことが可能です。

これは「都道府県知事」の権限について定めた規定です。

では、「会社」は従業員の就業を禁止することができるのでしょうか。

この点、労働安全衛生法第68条は、「事業者は、伝染性の疾病その他の疾病で、厚生労働省令で定めるものにかかった労働者については、厚生労働省令で定めるところにより、その就業を禁止しなければならない」と規定しています。

そして、この法律を受け、同法規則第61条は、次のとおり規定しています。

 

第61条 事業者は、次の各号のいずれかに該当する者については、その就業を禁止しなければならない。ただし、第一号に掲げる者について伝染予防の措置をした場合は、この限りでない。

一 病毒伝ぱのおそれのある伝染性の疾病にかかった者

二 心臓、腎臓、肺等の疾病で労働のため病勢が著しく増悪するおそれのあるものにかかった者

三 前各号に準ずる疾病で厚生労働大臣が定めるものにかかった者

2 事業者は、前項の規定により、就業を禁止しようとするときは、あらかじめ、産業医その他専門の医師の意見をきかなければならない。

 

このように、労働安全衛生法の就業禁止は、原則として、病毒伝ぱの伝染病等が定められていますが、「コロナウイルス」とは明記されていません。

感染症の場合、「病毒伝ぱのおそれのある伝染性の疾病」についての解釈が問題となりますが、この点について、厚労省の見解は、「伝染させるおそれが著しいと認められる結核にかかっている者」であるとしています(平成12年3月30日・基発第207号)。

したがって、コロナウイルスは、同条1項1号にはあたらないと考えられます。

そのため、コロナウイルスは、同条1項3号の「前各号に準ずる疾病で厚生労働大臣が定めるもの」に指定されなければ、同法による就業禁止はできないこととなります。

そして、2020年3月1日現在、厚労省は「感染症法により就業制限を行う場合は、感染症法によることとして、労働安全衛生法第68条に基づく病者の就業禁止の措置の対象とはしません」と発表しています。

そのため、会社は労働安全衛生法第68条を根拠として、従業員の就業を禁止することはできないと考えられます。

 

就業規則に基づく就業の禁止措置

法律上、会社が労働者に対して就業禁止を命じることができるのは極めて限定的な場合です。

しかし、上記のような「病者の就業禁止」について、就業規則を定めている場合、当該就業規則を根拠として、就業を禁止することが可能と考えます。

 

就業禁止の期間の給料はどうなる?

給料次に、コロナウイルスに感染した従業員や感染の疑いのある従業員を休ませる場合、給与を支払う義務があるかが問題となります。

上記のとおり、コロナウイルスは、労働安全衛生法上の就業禁止の対象となりません。

そうすると、就業禁止は法的根拠があるものではなく、あくまで就業規則等を根拠とするものとなります。

そして、労働基準法第26条は、使用者の責に帰すべき事由による休業の場合、「平均賃金の100分の60以上」の休業手当を支払わなければならないと規定しています。

就業規則に基づく就業禁止が「使用者の責に帰すべき事由」に該当するか問題となりますが、不可抗力といえない場合、上記休業手当を支払う義務があると考えられます。

不可抗力とは、①その原因が事業の外部より発生した事故であること②事業主が通常の経営者として最大の注意を尽くしてもなお避けることのできない事故であることの2つの要件を満たすものでなければならないと解されています。

したがって、例えば、自宅勤務(テレワーク)などの柔軟な方法で就業させることが可能な場合は、不可抗力とはいえないと考えられます。

 

柔軟な働き方の検討

上記のとおり、休業手当の支給の要否を判断する際、自宅勤務の是非について検討すべきです。

また、コロナウイルスにかからないようにするために、現在、時差出勤(人混みを避けて通勤する)などが推奨されています。

しかし、これらについては、導入する上でのポイントがあるので注意が必要です。

自宅勤務の注意点についてはこちらをごらんください。

 

時差出勤(フレックスタイム制)の注意点についてはこちらをごらんください。

 

 

インフルエンザ・コロナ感染と勤務のまとめ

以上、インフルエンザ・コロナ感染と会社勤務の関係について、詳しく説明しましたがいかがだったでしょうか?

通常のインフルエンザやコロナ感染の場合、法律上は就労禁止事由となりません。

しかし、企業は、他の従業員の健康やその他の問題を十分考慮して、適切に労務管理を行う必要があります。

また、就業規則は出来合いのものではなく、会社にとって、適切な内容となっているかをチェックすべきです。

しかし、労務管理や適切な就業規則の作成には専門知識が必要です。

そのため、労働問題に精通した弁護士へ相談されることをお勧めいたします。

デイライト法律事務所には、企業の労働問題を専門に扱う労働事件チームがあり、企業をサポートしています。

まずは当事務所の弁護士までお気軽にご相談ください。

ご相談の流れはこちらをご覧ください。

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執筆者
弁護士 宮崎晃

弁護士法人デイライト法律事務所 代表弁護士

所属 / 福岡県弁護士会・九州北部税理士会

保有資格 / 弁護士・税理士・MBA

専門領域 / 法人分野:労務問題、ベンチャー法務、海外進出 個人分野:離婚事件  

実績紹介 / 福岡県屈指の弁護士数を誇るデイライト法律事務所の代表弁護士。労働問題を中心に、多くの企業の顧問弁護士としてビジネスのサポートを行なっている。『働き方改革実現の労務管理』「Q&Aユニオン・合同労組への法的対応の実務」など執筆多数。



  

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