弁護士コラム

技能実習生の違反事例|企業の注意点

執筆者
弁護士 西村裕一

弁護士法人デイライト法律事務所 北九州オフィス所長、パートナー弁護士

保有資格 / 弁護士・入国管理局申請取次者

技能実習生の受け入れにあたっては、法律違反や制度の不適正利用といったトラブルが全国で発生しています。

例えば、不法就労、労働条件をめぐる問題など、典型的な違反事例は企業に大きなリスクをもたらします。

これらの違反は技能実習生本人だけでなく、受け入れ企業にも責任が及ぶため、事前に防止策を講じることが不可欠です。

本記事では、代表的な技能実習生の違反事例を紹介し、企業が注意すべきポイントをわかりやすく解説します。

ぜひ参考になさって下さい。

受入先企業で労働基準関係法令違反が多発

国も外国人の労働問題について、手をこまねいているわけではなく、労働基準監督署が労働法令違反の事業所を定期監督や申告監督などで取り締まっています。

令和5年の厚生労働省の調査報告では、外国人技能実習生を受け入れている企業のうち10,378件に監督を実施したところ、73.3%に当たる7,602件で労働基準関係法令違反が認められたとされています。

こうした労働基準法令違反について悪質と判断された場合には、企業は検察庁へ送検され、刑事罰を受けるリスクがあるとともに企業名を公表されるリスクが出てきます。

こうしたリスクは企業のイメージを一瞬にして低下させるものであり、容認できるリスクでは到底ありません。

したがって、外国人労働者をコストの安い労働力という考えは危険であるということを認識しておかなければなりません。

以下では、厚生労働省の技能実習生に対する報告書でまとめられているデータをみていきます。

まず、先ほどの違反が認められた事業所における違反内容の内訳ですが、下図のとおり、安全基準に関する違反が最も多く、次いで割増賃金、健康診断結果についての医師等からの意見聴取に関する違反と続いています。

また、最低賃金については、毎年10月に更新されており、令和6年10月時点での各都道府県の最低賃金は以下に示す表のとおりとなっています。

以前は最低賃金を下回っていなかったけれど、時給がずっと据え置きになっていて、最低賃金を下回ってしまったというケースもあるので、今一度見直しをしておくことが必要です。

 

表1 技能実習生を受け入れている企業の違反事項(令和5年)
違反事項 件数(割合)
安全基準(労働安全衛生法20〜25条) 2,447件(23.6%)
割増賃金の支払(労働基準法37条) 1,709件(16.5%)
健康診断結果についての医師等からの意見聴取(労働安全衛生法第66条の4) 1,685件(16.2%)
労働時間(労働基準法32条、40条) 1,527件(14.7%)
年次有給休暇 (労働基準法第39条) 1,303件(12.6%)
健康診断(労働安全衛生法第66条) 1,023件(9.9%)
就業規則(労働基準法89条) 937件(9.0%)
賃金の支払(労働基準法24条) 930件(9.0%)
衛生基準(労働安全衛生法20〜25条) 864件(8.3%)
労働条件の明示(労働基準法第15条) 670件(6.5%)
賃金台帳(労働基準法108条) 570件(5.5%)
時間把握(労働安全衛生法第66条の8の3) 485件(4.7%)

引用:技能実習生の実習実施者に対する監督指導、送検等の状況|厚生労働省

 

表2 各都道府県の最低賃金(令和6年 10月時点)
都道府県 最低賃金額 都道府県 最低賃金額
北海道 1,010円 三重 1,023円
青森 953円 滋賀 1,017円
岩手 952円 京都 1,058円
宮城 973円 大阪 1,114円
秋田 951円 兵庫 1,052円
山形 955円 奈良 986円
福島 955円 和歌山 980円
茨城 1,005円 鳥取 957円
栃木 1,004円 島根 962円
群馬 985円 岡山 982円
埼玉 1,078円 広島 1,020円
千葉 1,076円 山口 979円
東京 1,163円 徳島 980円
神奈川 1,162円 香川 970円
新潟 985円 愛媛 956円
富山 998円 高知 952円
石川 984円 福岡 992円
福井 984円 佐賀 956円
山梨 988円 長崎 953円
長野 998円 熊本 952円
岐阜 1,001円 大分 954円
静岡 1,034円 宮崎 952円
愛知 1,077円 鹿児島 953円
沖縄 952円

引用:地域別最低賃金の全国一覧|厚生労働省

 

 

技能実習生の違反事例

技能実習生の違反事例

以下では、具体的な違反事例を紹介します。

事例 事例 1

22名の技能実習生を雇用している企業が、労働時間を記録簿で管理していたところ、この記録簿とは別に実績簿を作成し、実績簿の方には18時以降の時間外労働を一切記録していなかった。

そして、実績簿に記録されている方の労働時間については割増賃金を適切に支払っていたものの、実績簿に載っていない18時以降の時間外労働については、時給400円〜600円しか支払っていなかった。

また、賃金台帳にも実績簿に記録されているものしか記入されていなかった。

この事例は、18時以降の就労に対する給料が低いということに気づいた技能実習生が労働基準監督署に情報提供をしたと推測されます。

これを受けて、労働基準監督署は18時以降に事業所に立入検査を実施し、就労の事実とそれに対する賃金の支払状況に関する資料を提出させたところ、記録簿と実績簿という2つの書類が作成されていた事実が判明しています。

この企業の対応は、割増賃金の支払についての違反(労働基準法37条)と賃金台帳の不誠実な記載という違反(労働基準法108条)があります。

 

事例 事例 2

1年単位の変形労働時間制を採用し、個々の労働者にはタイムカードを押してもらうことで労働時間を管理している企業で、技能実習生及びそれ以外の従業員合計12人に月80時間を超える時間外労働を行わせており、特別延長時間(1か月当たり100時間)の適用回数も年間6回という上限を超えていた。

この事例では、36協定を締結していたものの、その制限を大きく超える時間の労働を技能実習生に課していたという事案です。

日本人労働者でも起こりうるものですが、近年は長時間労働に対する規制や監督も厳しくなりつつあり、注意が必要です。

なお、平成30年の働き方改革関連法の成立により、労働基準法が改正され、36協定により労働者に時間外労働を行わせることができる時間が法律に明記されるようになりました。

具体的には、原則として1か月当たり45時間まで、年間を通じて360時間までとされています(今回の事例のような1年単位の変形労働時間制を採用し、3か月を超える期間を定めて労働させる場合には、1か月当たり42時間、年間を通じて320時間)(改正労基法36条4項)。

例外として、36協定で特別に定めることにより1か月当たりの上限を45時間より伸ばすことができますが、100時間未満で設定しなければならず、年間では720時間を超えてはなりません。

その回数も年間6回までです(改正労基法36条5項)。

改正法の適用ですが、2019年4月1日から(中小企業は2020年4月1日から)となっています。

 

事例 事例 3

労働時間を自己申告制で行っている企業で、時間外労働が支払われていないとして労働基準監督署に技能実習生が相談をした事案で、調査の結果、自己申告制といいながら、記録簿に記入された終業時刻が一律に同じ時間でそろっており、あまりに不自然であるとして、適切に実態を把握するよう是正勧告を受け、その結果総額30万円の未払いが確認された。

この事案は、日本人労働者にも起こりうるものです。

すなわち、営業職などの場合、外出などもあって、労働時間管理を自己申告制としている企業もあります。

しかし、このとき、企業側で残業が一切ないように申告するよう強制力を働かせたりすると、パワーハラスメントとなるばかりか、賃金不払いの問題も発生してしまいます。

残業時間が争点となる未払賃金の裁判において、こうした記録簿が証拠として提出されることが多くありますが、その際、この事例のように始業や終業の時刻がほぼ同じという場合には、恣意的な処理がなされているのではないかという心象を抱かせることになります。

 

事例 事例 4

技能実習生が領事館に相談をしたことから労働基準監督署へ情報提供がなされ、フルタイム勤務しているにもかかわらず、月額6万円しか賃金が支払われていないことが発覚し、技能実習生9名に対して、総額970万円の支払いを企業に勧告した。

この事例で特徴的なのが労働基準監督署の調査が領事館からの情報提供という点です。

外国人労働者は、日本にある海外領事館に出入りすることがありますが、そこで違法な労務実態が明らかにされることがあるということです。

企業としては、外国人労働者が領事館といった機関で、外国人同士で情報共有を行っているということを把握しておく必要があります。

次に、違反の内容や是正勧告後の対応が不十分であるなどの理由で、悪質な事案として送検手続が取られた件数ですが、平成29年は34件となっています。

送検された事例を以下で、紹介します。

 

事例 事例 5

縫製業の企業で技能実習をしている外国人労働者から最低賃金を下回った賃金しか支払われていないと労働基準監督署へ申告がなされた。

その結果、労働基準監督署が調査を行い、その結果、平成5年頃に技能実習生の受入れを開始した段階から、基本給を月額6万円として、最低賃金を下回る水準の給与しか払われておらず、未払賃金額が540万円に上っていた。

加えて、36協定を締結せずに、月190時間もの時間外、休日労働を行わせていた。

この事案では、平成5年から長年に渡って、最低賃金法に違反していたことや時間外労働の前提となる36協定をそもそも締結していなかったことなどを理由に送検されています。

最低賃金法違反に対する罰則は、罰金50万円(最低賃金法40条)となっています。

また、36協定を締結せずに、時間外労働をさせた場合には、6か月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金となります(労働基準法119条1号)。

 

事例 事例 6

入館当局から技能実習生のビザ更新の審査の過程で、長時間労働が疑われたため、労働基準監督署へ通報があり、労働基準監督署が調査したところ、36協定の限度を超えて、技能実習生を残業させていた。

この企業は過去にも、36協定を超えて時間外労働をさせていた事実で是正勧告を受けていた。

この事例も事例4と同じく、外国人労働者ならではのものです。

すなわち、調査のきっかけとなったのは、入国管理局のビザ審査です。

ビザを審査するに当たって、更新の場合であれば、現在勤務している企業での就労実績を雇用契約書だけでなく、給与明細や賃金台帳といった資料で審査していきます。

そのため、そこから労働法令違反の疑いが明るみにでることがあるわけです。

実際、労働基準監督署と入国管理局は、それぞれが相互に通報し、情報共有していることを明らかにしており、労働基準監督署から入国管理局へ通報した件数は平成29年で546件、入国管理局から労働基準監督署へ通報した件数は44件と公表されています。

 

事例 事例 7

造船工場内で、技能実習生が船体部品の取り付け作業中に誤って転落し、手足に重傷をおって、一週間の入院を余儀なくされた。

しかし、企業は労災申請することで労働基準監督署からの指導や是正勧告を恐れ、技能実習生に対し、自宅でけがをしたことにするように強要した。

この事例は典型的な労災隠しです。

労働安全衛生法100条違反として、50万円以下の罰金が科せられます(労働安全衛生法120条5項)。

 

 

まとめ

このように、技能実習生を受け入れるにしても、労務問題が生じないように適切にマネジメントしていかなければなりません。

特に、外国人は日本の法律についてはほとんど知らず、自分の都合のいいようにルールを解釈している可能性もあります。

したがって、企業側から労務管理のルールを技能実習生にも教育するといったことが必要になります。

 

 




  

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