同一労働同一賃金ガイドライン|わかりやすく解説
同一労働同一賃金ガイドラインは、雇用形態の違いによる不合理な待遇差を解消するための指針であり、正社員とパート・アルバイトなどの非正規社員との間の不当な待遇格差の是正を目的としています。
今日の日本では、多様な働き方が広がっています。
その中で、同じ仕事をしていても、雇用形態によって賃金やボーナス、福利厚生などに大きな差があることが社会問題となっています。
このような状況を改善するため、政府は同一労働同一賃金ガイドラインを策定しています。
そこでは、企業に対して具体的にどのような待遇差が不合理とされるのかが示されています。
このガイドラインは、単なる指針ではなく、労働者が不合理な待遇差について裁判などで争う際の重要な判断基準にもなっています。
企業側も、このガイドラインに沿って自社の待遇制度を見直し、改善を行う必要があります。
対応が不十分な場合、従業員からの訴訟リスクや、社会的信用の低下などの問題に直面する可能性があります。
この記事では、同一労働同一賃金について、ガイドラインの目的や具体的内容、違反した場合の影響、相談窓口などを弁護士が解説します。
目次
同一労働同一賃金とは?
同一労働同一賃金とは、労働者がどのような雇用形態であるかにかかわらず、同じ仕事をしている労働者には同じ賃金を支払うべきという考え方です。
この原則は、パートタイマーや有期契約労働者、派遣労働者といった非正規雇用の労働者と、正社員との間の不合理な待遇差をなくすことを目指しています。
日本では長らく、正社員と非正規雇用の労働者の間には、賃金や賞与、福利厚生などのさまざまな面で、大きな格差が存在してきました。
そのような中で、同じ職場で同じような仕事をしているのに、雇用形態が異なるというだけで待遇に差があるのは不公平ではないか、という問題意識が高まってきたのです。
この問題に対応するため、政府は「働き方改革」の一環として、同一労働同一賃金の原則を法制化しました。
その基本となる法律が、「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律(パート・有期雇用労働法)」です。
この法律では、パートや有期雇用の従業員と正社員との間に、基本給や賞与、その他の待遇について、「不合理と認められる相違を設けてはならない。」と定めています(8条)。
参考:短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律|電子政府の総合窓口
このような法律の制定により、企業は、雇用形態の違いを理由とした不合理な待遇差を設けることが禁止されるようになりました。
ただし、同一労働同一賃金は、「完全に同一の賃金」を求めるものではありません。
職務内容や責任の程度、職務の内容・配置の変更の範囲、その他の事情を考慮して、不合理な待遇差をなくすことを求めているのです。
つまり、合理的な理由があれば一定の待遇差は認められるという、「均衡待遇」の考え方を基本としています。
このような法改正の具体的な運用指針として作られたのが、同一労働同一賃金ガイドラインです。
同一労働同一賃金ガイドラインの目的
同一労働同一賃金ガイドラインは、雇用形態の違いによる不合理な待遇差を解消するための具体的な指針として、厚生労働省が公表しているものです。
正式には、「短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針」といいます。
参考:平成30年12月28日厚生労働省告示第430号|厚生労働省ホームページ
このガイドラインの目的は、正規雇用労働者と非正規雇用労働者との間の不合理な待遇差の解消を促進することにあります。
具体的には、どのような待遇差が不合理と評価されるのか、あるいはされないのかを示すことで、企業の自主的な是正を促すことを目指しています。
このガイドラインを活用することで、自社の人事制度や賃金体系が法律に適合しているかを、チェックすることができます。
また、労働者の側から見れば、自分が受けている待遇が不当なものかどうかを判断する基準にもなります。
このガイドラインは、法的拘束力こそありませんが、裁判において重要な判断基準として参照される可能性が高く、実質的には大きな影響力を持っています。
ガイドラインの策定以前は、何が「不合理な待遇差」に当たるのかが明確でなく、これがパートや有期雇用の従業員と正社員との間の待遇差につながっていました。
ガイドラインの策定によって、基本給、賞与、各種手当、福利厚生といった待遇について、具体例が示されました。
これにより、企業は自社の制度を見直す際の指針を与えられたことになります。
また、労働者にとっても、自分の待遇が法律に照らして適切かどうかを判断する材料ができたことになります。
ガイドラインの策定により、必要に応じて企業と交渉したり、行政機関に相談したりする際の根拠として活用できるようになりました。
同一労働同一賃金ガイドラインは、労使双方にとって有用な指針です。
このガイドラインは、雇用形態間の不合理な格差の是正を通じて、より公正で納得感のある労働環境の実現を目指すものなのです。
同一労働同一賃金ガイドラインの内容
同一労働同一賃金ガイドラインは、多岐にわたる労働条件について、どのような場合に不合理な待遇差が生じるのか、あるいは生じないのかを、具体的に示しています。
ガイドラインが実際にどのような内容を定めているか、主要な項目ごとに詳しく見ていきましょう。
パートタイム・有期雇用労働者
パートタイムや有期雇用の労働者は、派遣社員とは異なり、正社員と同じ企業に直接雇われています。
両者は、単に契約の期間や労働時間が異なるだけにすぎません。
正社員との間に不合理な待遇差を設けることは、同一労働同一賃金の原則に反します。
基本給
正社員と同一のスキルや経験を持つパートタイム・有期雇用労働者は、正社員と同等の基本給を受け取る権利があります。
勤続年数に応じた給与も、正社員と同等の基準で支給されます。
たとえば、契約更新を通じて長期間勤務した有期雇用労働者の勤続年数は、正社員と同等に評価され、適切な給与が支給される必要があります。
同等のスキルや勤続年数を持つにもかかわらず、パートタイム・有期雇用労働者に低い基本給を設定することは、禁止されています。
A社においては、同一の職場で同一の業務に従事している有期雇用労働者であるXとYのうち、能力又は経験が一定の水準を満たしたYを定期的に職務の内容及び勤務地に変更がある通常の労働者として登用し、その後、職務の内容や勤務地に変更があることを理由に、Xに比べ基本給を高く支給している。
→ 登用後のYには職務内容や勤務地の変更という負担が生じるため、その対価として賃金差は合理的
基本給について、労働者の能力又は経験に応じて支給しているA社において、通常の労働者であるXが有期雇用労働者であるYに比べて多くの経験を有することを理由として、Xに対し、Yよりも基本給を高く支給しているが、Xのこれまでの経験はXの現在の業務に関連性を持たない。
→ 現在の業務に関連しない経験を理由とした賃金差は合理的とは認められない
賞与
職務の成果や会社の業績に基づく賞与は、同じ職責を持つパートタイム・有期雇用労働者にも、正社員と同等に支給する必要があります。
たとえば、会社に対する貢献が同程度のパートタイム労働者には、正社員と同額の賞与を支給しなければなりません。
賞与について、会社の業績等への労働者の貢献に応じて支給しているA社において、通常の労働者であるXと同一の会社の業績等への貢献がある有期雇用労働者であるYに対し、Xと同一の賞与を支給している。
→ 同一の貢献に対して同一の賞与を支給しており、公平な処遇が実現されている
賞与について、会社の業績等への労働者の貢献に応じて支給しているA社において、通常の労働者であるXと同一の会社の業績等への貢献がある有期雇用労働者であるYに対し、Xと同一の賞与を支給していない。
→ 同一の貢献があるにもかかわらず、雇用形態の違いだけで賞与に差をつけており不合理
手当
各種の手当て(役職手当、特殊勤務手当、時間外・深夜・休日労働手当、通勤手当など)は、同じ条件で働く正社員と同等に支給する必要があります。
同じ業務を遂行しているのに、パートタイム労働者に正社員より低い特殊勤務手当を支給することは認められません。
管理職手当のように、担当する職責に着目して支給される手当については、その職責の違いに応じて差が生じることは、通常は合理的なものとして許容されます。
A社においては、通常の労働者であるXと時間数及び職務の内容が同一の深夜労働又は休日労働を行った短時間労働者であるYに、同一の深夜労働又は休日労働に対して支給される手当を支給している。
→ 同一の時間・内容の深夜・休日労働に対して同一の手当を支給しており公平
A社においては、通常の労働者であるXと時間数及び職務の内容が同一の深夜労働又は休日労働を行った短時間労働者であるYに、深夜労働又は休日労働以外の労働時間が短いことから、深夜労働又は休日労働に対して支給される手当の単価を通常の労働者より低く設定している。
→ 深夜・休日労働自体は同一なのに、他の労働時間が短いことを理由に手当の単価を下げるのは不合理
福利厚生
同じ事業所で働く場合、食堂、休憩室、更衣室などの福利厚生施設は、正社員と同等に利用できる必要があります。
たとえば、パートタイム労働者が、正社員に開放されている社内食堂を利用できないのは、違反です。
その他
パートタイム・有期雇用労働者は、職務に必要な教育訓練や安全管理措置を、正社員と同等に受ける権利があります。
たとえば、新しいシステムの研修や安全講習は、正社員と同等の機会が提供されなければなりません。
同一労働同一「賃金」とはいうものの、実際には、賃金以外も含めた「待遇」について、合理性のない区別は禁止されています。
派遣労働者
派遣労働者は、派遣元企業に雇用され、派遣先企業の指揮命令の下で働く労働者です。
このガイドラインでは、派遣労働者について、派遣先の正社員と同等の待遇を確保することが求められています。
基本給
派遣先の正社員と同等のスキルや経験を持つ派遣労働者は、同じ基本給を受け取る必要があります。
たとえば、同じ資格や経験を持つ派遣労働者は、派遣先の正社員と同額の基本給が支給されなければなりません。
同じ業務を担当しているのに、派遣労働者に正社員より低い基本給を設定することは禁止されています。
基本給について、労働者の能力又は経験に応じて支給している派遣先であるA社において、ある能力の向上のための特殊なキャリアコースを設定している。A社の通常の労働者であるXは、このキャリアコースを選択し、その結果としてその能力を習得したため、その能力に応じた基本給をXに支給している。これに対し、派遣元事業主であるB社からA社に派遣されている派遣労働者であるYは、その能力を習得していないため、B社はその能力に応じた基本給をYには支給していない。
→ 職務に関連する能力の習得の有無による賃金差は合理的
派遣先であるA社及び派遣元事業主であるB社においては、基本給について、労働者の能力又は経験に応じて支給しているところ、B社は、A社に派遣されている派遣労働者であるYに対し、A社に雇用される通常の労働者であるXに比べて経験が少ないことを理由として、A社がXに支給するほど基本給を高く支給していないが、Xのこれまでの経験はXの現在の業務に関連性を持たない。
→ 現在の業務に関連しない経験を理由とした賃金差は、合理的とは認められない
賞与
派遣労働者が派遣先の業績に正社員と同等に貢献した場合、同じ賞与を受け取る権利があります。
たとえば、売上目標達成に同等に貢献した派遣労働者は、正社員と同額の賞与を受け取る必要があります。
派遣先であるA社及び派遣元事業主であるB社においては、賞与について、会社の業績等への労働者の貢献に応じて支給しているところ、B社は、A社に派遣されている派遣労働者であって、A社に雇用される通常の労働者であるXと同一のA社の業績等への貢献があるYに対して、A社がXに支給するのと同一の賞与を支給している。
→ 同一の業績貢献に対して同一の賞与を支給しており、公平な処遇が実現されている
派遣先であるA社及び派遣元事業主であるB社においては、賞与について、会社の業績等への労働者の貢献に応じて支給しているところ、B社は、A社に派遣されている派遣労働者であって、A社に雇用される通常の労働者であるXと同一のA社の業績等への貢献があるYに対して、A社がXに支給するのと同一の賞与を支給していない。
→ 同一の業績貢献があるにもかかわらず、雇用形態の違いだけで賞与に差をつけており不合理
手当
役職手当、危険作業手当、時間外・深夜・休日労働手当、通勤手当などは、派遣先の正社員と同等に支給する必要があります。
深夜勤務を行う派遣労働者には、正社員と同額の深夜手当を支給する必要があります。
同じ条件で働く派遣労働者に対して、正社員より低い食事手当や地域手当を支給することは、認められません。
派遣先であるA社及び派遣元事業主であるB社においては、役職手当について、役職の内容に対して支給しているところ、B社は、A社に派遣されている派遣労働者であって、A社に雇用される通常の労働者であるXの役職と同一の役職名(例えば、店長)であって同一の内容(例えば、営業時間中の店舗の適切な運営)の役職に就くYに対し、A社がXに支給するのと同一の役職手当を支給している。
→ 同一の役職内容に対して同一の役職手当を支給しており、公平な処遇が実現されている
派遣先であるA社及び派遣元事業主であるB社においては、役職手当について、役職の内容に対して支給しているところ、B社は、A社に派遣されている派遣労働者であって、A社に雇用される通常の労働者であるXの役職と同一の役職名であって同一の内容の役職に就くYに対し、A社がXに支給するのに比べ役職手当を低く支給している。
→ 同一の役職内容であるにもかかわらず、雇用形態の違いだけで役職手当に差をつけており不合理
福利厚生
派遣労働者は、派遣先の事業所で働く場合、正社員と同等の福利厚生施設(休憩室、食堂など)を利用することができます。
たとえば、派遣労働者が派遣先の休憩室を利用できないのは、違反です。
その他の事項
派遣労働者は、派遣先の正社員と同等の教育訓練や安全管理措置を受ける権利があります。
業務遂行上必要な安全講習は、正社員と同等の機会が提供されなければなりません。
協定対象派遣労働者
協定対象派遣労働者とは、派遣元企業と労働者の間で締結された労使協定に基づいて、賃金やその他の待遇が決定される派遣労働者のことです。
通常の派遣労働者が、派遣先の従業員との均等な待遇が求められるのに対し、協定対象派遣労働者は、労使協定の中で待遇が決定される点で相違します。
賃金の決定方法
賃金は、労使協定に基づき、同一職務の一般労働者の平均賃金以上でなければなりません。
また、賃金の決定方法は、職務の内容や成果、意欲、能力又は経験等の向上に応じて、賃金が改善されるものでなければなりません。
たとえば、協定対象派遣労働者の賃金は、業界の平均賃金以上で、業務貢献度やスキルに応じて設定されます。
福利厚生
協定対象派遣労働者は、福利厚生施設(給食施設、休憩室、更衣室など)の利用について、派遣先の正社員と同等の権利が保障されます。
また、慶弔休暇や病気休職などについて、派遣元企業の従業員と同等のものを認めなければなりません。
派遣元事業主であるB社においては、長期勤続者を対象とするリフレッシュ休暇について、業務に従事した時間全体を通じた貢献に対する報償という趣旨で付与していることから、B社に雇用される通常の労働者であるXに対し、勤続10年で3日、20年で5日、30年で7日の休暇を付与しており、協定対象派遣労働者であるYに対し、所定労働時間に比例した日数を付与している。
→ 業務従事時間に応じた貢献への報償という趣旨に照らして、所定労働時間比例の付与は合理的
同一労働同一賃金に違反?チェックリスト
有期雇用や派遣社員であっても、正社員と同等の待遇が保障されなければなりません。
両者の間に不合理な待遇差がある場合、同一労働同一賃金の原則に違反することになります。
同一労働同一賃金の原則に違反していないか、次のような点を確認してみてください。
- 正社員と非正規社員の職務内容を比較しているか
- 職務の内容・配置の変更範囲を検討しているか
- 個々の待遇ごとに合理的な理由を整理しているか
- 待遇差を設ける場合、その理由を労働者に説明できるか
- 就業規則や賃金規程を見直しているか
- 労使で話し合いの場を設けているか
- 定期的に待遇制度を見直す仕組みがあるか
正社員と非正規社員の職務内容を比較しているか
同一労働同一賃金の基本は、職務内容が同じであれば、待遇も同等であるべきという考え方です。
まずは、正社員と非正規社員が、実際にどのような業務を担当しているのか、その内容と責任の程度を把握し、比較することが必要です。
たとえば、同じ営業職であっても、正社員には新規開拓の責任があり、非正規社員は既存顧客の対応のみを担当しているといった違いがあることがあります。
このような場合、その違いが待遇差の合理的理由になることはあり得ます。
職務の内容・配置の変更範囲を検討しているか
正社員には全国転勤や部署異動があるのに対し、非正規社員は地域や部署が限られているというケースがあります。
このような違いも、待遇差を設ける合理的な理由となり得ます。
ただし、転勤の可能性が待遇差の理由となるのは、実際に転勤が行われている場合です。
形式的に就業規則に規定があるだけでは、待遇を区別する理由としては不十分と考えられます。
個々の待遇ごとに合理的な理由を整理しているか
同一労働同一賃金の判断は、給与総額ではなく、基本給、賞与、各種手当など個々の待遇ごとに行われます。
それぞれの待遇について、正社員との間に待遇差がある場合、その理由が合理的かどうかを検討し、説明できるようにしておく必要があります。
たとえば、皆勤手当は出勤率を確保する目的で支給するものであるため、正社員と非正規社員で出勤を確保する必要性に違いがなければ、同一の支給が求められます。
待遇差を設ける場合、その理由を労働者に説明できるか
非正規社員から求められた場合、待遇差の内容や理由について説明する義務が企業に課されています(パートタイム・有期雇用労働法14条2項)。
もし説明を求められて答えられないようであれば、合理的な理由なく待遇に差をつけてしまっているのかもしれません。
説得力のある説明ができるよう、待遇の決定基準を明確化し、文書化しておくことが重要です。
就業規則や賃金規程を見直しているか
法改正に対応するためには、既存の就業規則や賃金規程の見直しが必要になることがあります。
特に、正社員と非正規社員で別々の規程を設けている場合、不合理な差異がないか確認することが重要です。
労使で話し合いの場を設けているか
待遇制度の見直しは、労働者の理解と協力なしには進めることができません。
特に、協定対象派遣労働者がいる場合、不当な不利益を与えることのないよう、適切な賃金体系を労使で合意する必要があります。
労使で話し合いの場を設け、賃金のあり方について共通の理解を形成することが、円滑な組織運営のためには不可欠です。
定期的に待遇制度を見直す仕組みがあるか
同一労働同一賃金への対応は、一度行えばそれで終わりではありません。
業務内容や責任の変化に応じて、継続的に見直していく必要があります。
定期的に点検・評価を行い、必要に応じて改善する仕組みを整えることが望ましいでしょう。
自社の待遇制度を点検し、必要な改善を行うことで、同一労働同一賃金の原則に沿った公正な職場環境を実現することができます。
その際には、上記のようなチェック項目を参考にしてみてください。
このような取り組みは、労働者のモチベーション向上や人材確保にもつながり、企業にとってもメリットがあります。
同一労働同一賃金の原則に違反していないかを確認することは、労働紛争の予防という観点からも重要と言えるでしょう。
同一労働同一賃金に違反したらどうなる?
同一労働同一賃金のルールに違反した場合、企業はさまざまなリスクや不利益に直面することになります。
そのようなリスクや不利益を正しく認識しておくことは、同一労働同一賃金を徹底する上での動機づけにもなります。
同一労働同一賃金に違反した場合のリスクとしては、たとえば次のようなものがあります。
訴訟リスク
同一労働同一賃金に違反した場合、労働者から訴訟を提起される可能性があります。
パートタイム・有期雇用労働法では、雇用形態を理由とした不合理な待遇差を禁止しています。
正社員との間の待遇差に合理的な理由がないと判断された場合、裁判所はその待遇差を無効と判断し、損害賠償を命じることがあります。
たとえば、正社員には支給されている賞与や各種手当が非正規社員には全く支給されておらず、その差に合理的な理由がないと判断されるようなケースです。
このような場合、企業は過去の未払い分を支払わなければならない可能性があります。
特に、対象となる従業員が多数に上る場合、賠償額が膨大になることもあり得ます。
行政指導のリスク
同一労働同一賃金の違反では、行政指導の対象となる可能性もあります。
労働基準監督署や都道府県労働局による調査で法令違反が発覚した場合、是正勧告や是正指導が行われます。
行政指導は、あくまで任意の改善を求めるものであり、強制力はありません。
しかし、これに従わない場合、企業名の公表などの措置がとられることもあります。
同一労働同一賃金は、法律の整備が進むなど、重要なトピックとなっています。
そのため、違反企業への取り締まりが厳格に行われることも予想されます。
是正勧告で企業名が公表されるかについては、以下のページをご覧ください。
企業イメージの低下
さらに、企業イメージの低下という問題もあります。
同一労働同一賃金に違反しているという事実が明るみに出れば、「従業員を大切にしない企業」というネガティブなイメージが広がる可能性があります。
現代の就職活動では、企業の労働環境や社会的責任への取り組みが重視される傾向にあります。
このようなイメージダウンは、採用活動に大きな影響を与えかねません。
また、取引先に対する印象も悪くなり、ビジネス面に悪影響を及ぼすおそれもあります。
従業員のモチベーション低下
同一労働同一賃金が徹底されない場合、従業員のモチベーション低下も懸念されます。
同じ仕事をしているのに、雇用形態の差だけで給料が異なるとなると、不満に思うのも当然です。
まして、今ではそのような取扱いは違法であることが定められているのですから、不満もいっそう強いものになります。
不合理な待遇差があると、不利益を受けている従業員の仕事へのやる気低下につながります。
また、その従業員だけでなく、組織全体に「やってられない」という士気の低下が蔓延することもあり得ます。
やがて生産性の低下や職場の雰囲気悪化につながり、長期的には企業の競争力を弱める要因にもなり得るでしょう。
以上のように、同一労働同一賃金に違反することは、企業にとって法的リスクだけでなく、経営上のさまざまな不利益をもたらす可能性があります。
法令遵守はもちろん、従業員が納得できる公正な待遇制度の構築を目指すことが、現代の企業には求められているのです。
同一労働同一賃金の相談窓口
同一労働同一賃金に関する問題や疑問がある場合、さまざまな相談窓口が用意されています。
適切な窓口を知っておくことで、問題が生じた際に迅速かつ適切に対応することができます。
労働基準監督署・労働局
まず、公的な相談先として、「労働基準監督署」や「都道府県労働局」が挙げられます。
これらの機関では、労働問題に対する全般的な相談に対応しており、中には「総合労働相談コーナー」が設けられていることもあります。
同一労働同一賃金に関する法律の解釈や、企業の対応が法律に適合しているかどうかなどについて相談することができます。
働き方改革推進支援センター
厚生労働省は、「働き方改革推進支援センター」を全国に設置しています。
こちらは主に、事業者向けの相談窓口となります。
このセンターでは、同一労働同一賃金を含む働き方改革関連法への対応について、特に中小企業を対象に無料で相談に応じています。
専門家によるアドバイスや、就業規則の見直しなどについてのサポートも受けることができるため、制度改革を進める企業にとって心強い味方となるでしょう。
労働組合
非正規雇用の待遇に不合理な格差がある場合、労働組合も重要な相談先です。
労働組合がある職場では、組合を通じて待遇改善の交渉を行うことができます。
個人で企業と交渉するよりも効果的な場合が多いため、組合員であれば積極的に活用すべきでしょう。
労働組合がない職場でも、地域の連合(日本労働組合総連合会)や産業別の労働組合などが、相談窓口を設けていることがあります。
労働問題に強い弁護士
同一労働同一賃金に関する問題が深刻な場合や、すでにトラブルに発展している場合は、労働問題に強い弁護士への相談が効果的です。
労働問題に強い弁護士は、労働問題の全般について、幅広い知識と経験を有しています。
同一労働同一賃金に関しても、最新の判例や法律に精通しており、依頼者の状況に応じた具体的な解決策を提案することができます。
また、企業側としても、自社の待遇や賃金体系が法律に適合しているかを確認するため、定期的に弁護士に相談することで、将来の紛争リスクを低減することができます。
このように、同一労働同一賃金に関する問題については、状況に応じてさまざまな相談窓口を活用することが可能です。
問題の早期解決のためには、適切な窓口に相談し、専門家のアドバイスを受けることが重要です。
労働問題に強い弁護士への相談の重要性については、以下のページをご覧ください。
同一労働同一賃金についてのQ&A
同一労働同一賃金はおかしい?

同一労働同一賃金が「おかしい」という意見は、「正社員と非正規雇用では責任の重さや業務内容が異なるのに、待遇が一緒なのはおかしい」というものと思われます。
しかし、同一労働同一賃金の考え方は、正社員と非正規雇用の賃金を、形式的に同額にしようというものではありません。
同一労働同一賃金は、あくまで雇用形態による不合理な差別を解消するという原則です。
このため、真に職責が異なるのであれば、その違いに応じて合理的な待遇差を設けることは許容する考え方といえます。
同一労働同一賃金はいつから?

パートタイム・有期雇用労働法と改正労働者派遣法により、正社員と非正規社員の間の不合理な待遇差が禁止されました。
現在はすべての企業に適用されているため、企業規模にかかわらず、法令遵守が求められています。
同一労働同一賃金の抜け穴は?

このため、この原則が直接適用されない「フルタイム無期雇用」が、同一労働同一賃金の抜け穴であると言われることがあります。
つまり、正規雇用同士の間において、「業務は同じなのに給料が異なる」といった状況が生じても、直ちには違法といえない可能性があるのです。
もっとも、そのようなケースでも、「平等原則」のような一般的な考え方を適用して、違法と判断されることはありえるでしょう。
直接的な法の規定の有無にかかわらず、透明性が高く納得感のある給料体系を整備することが望まれます。
同一賃金同一労働は義務ですか?

パートタイム・有期雇用労働法では、正社員と非正規社員の間で不合理な待遇差を設けることを禁止しています。
これに違反した場合、裁判で待遇差が無効と判断され、損害賠償を命じられる可能性があります。
また、行政指導の対象ともなり得るため、企業は自社の待遇制度を見直し、不合理な差があれば是正する必要があります。
同一労働同一賃金には強制力はありますか?

しかし、これに違反した場合、裁判になると、本来支払うべきであった金額の賠償を命じられることになります。
この意味で、同一労働同一賃金は単なる努力義務ではなく、法的な強制力があるといえるでしょう。
まとめ
この記事では、同一労働同一賃金について、ガイドラインの目的や具体的内容、違反した場合の影響、相談窓口などを解説しました。
記事の要点は、次のとおりです。
- 同一労働同一賃金とは、雇用形態にかかわらず同じ仕事をしている労働者には同じ賃金を支払うべきという原則であり、不合理な待遇差の解消を目指すものである。
- 同一労働同一賃金ガイドラインは、どのような待遇差が不合理とされるかの具体例を示しており、企業の自主的な是正を促すための指針である。
- 基本給、賞与、各種手当、福利厚生など、個々の待遇ごとに不合理性が判断され、職務内容や責任の程度などを考慮した合理的な差は認められる。
- 同一労働同一賃金に違反した場合、訴訟リスクや行政指導、企業イメージの低下、従業員モチベーションの低下などの不利益が生じる可能性がある。
- 問題が生じた場合は、労働基準監督署、都道府県労働局などのほか、労働問題に強い弁護士などに相談することができる。
当事務所では、労働問題を専門に扱う企業専門のチームがあり、企業の労働問題を強力にサポートしています。
Zoomなどを活用したオンライン相談も行っており全国対応が可能です。
労働問題でお困りの際は、当事務所の労働事件チームまで、お気軽にご相談ください。
この記事が、労働問題にお悩みの企業にとってお役に立てれば幸いです。
