弁護士コラム

地域限定社員とは?導入ポイントを事例付きで解説

執筆者
弁護士 木曽賢也

弁護士法人デイライト法律事務所 パートナー弁護士

保有資格 / 弁護士

地域限定社員とは、就業場所を限定(異動に転勤を伴わない)した条件で雇用された労働者のことです。

企業が地域ごとのニーズに応じた柔軟な人材管理を行うための手段であり、転勤を避けたいという労働者にとっても魅力的な選択肢のひとつとなっています。

導入を検討している企業にとっては、メリットとデメリットを十分に理解し、慎重に制度設計を行うことが求められます。

本記事では、地域限定社員制度の導入ポイントを、実際の事例を交えて詳しく解説します。

ぜひ参考になさってください。

地域限定社員とは

地域限定社員とは

地域限定社員とは、就業場所を限定(異動に転勤を伴わない)した条件で雇用された労働者のことです。

従業員にとって転勤による引っ越しには仕事だけでなくプライベートにも負担がかかります。

企業側も優秀な人材を獲得し、定着させるためには、社員一人ひとりのワーク・ライフ・バランスに配慮する必要があります。

そのための施策の一環として、地域限定社員制度を導入する企業が増えてきています。

 

 

地域限定社員が求められる理由

相当数の労働者のニーズに合致している

労働政策研究・研修機構の発表※によれば、就職活動を始めた大学生の72.6パーセントが地域限定を志望する意向を示しています。

※独立行政法人労働政策研究・研修機構の平成29年12月26日付「大学生・大学院生の多様な採用に対するニーズ調査」

他方で、日本において、地域限定社員の普及率は高くありません。

同機構の調査では、全国に事業を展開している企業935社のうち、地域限定社員の採用枠を設けているのは14.3パーセントにとどまっています。

しかし、これはまだ導入していない企業にはチャンスとも考えられます。

他社の導入が進んでいない時期に先駆けて実施することで、他社との差別化が図れ、企業の魅力が向上する可能性があるからです。

人手不足に悩む企業は、自社への導入を検討されても良いのではないでしょうか。

 

 

地域限定社員のメリット

従業員の定着率

居住地は従業員にとって関心の高い事項です。

特に地元に残りたい、ある特定の地域は行きたくないと考えている従業員にとっては、勤務地の予測ができるという意味で、地域限定社員は魅力的といえます。

そのため、地域限定社員は従業員の定着に繋がることが期待できます。

 

 

ワーク・ライフバランスが取りやすい

家事や育児、介護などを行わなければならない従業員にとっては、家族と一緒に住むことや近所に住むことができるかは重要な要素になります。

地域限定社員は、そういった従業員のプライベートの都合にも合わせやすいため、ワーク・ライフバランスが取りやすいといえます。

 

 

地域限定社員のデメリット

待遇に差が出る場合がある

地域限定社員と、転勤があり得る正社員とでは待遇に格差が生じる場合があります。

具体的には、賃金について、地域限定社員の方が転勤があり得る社員よりも低いということです。

 

事業所や店舗の閉鎖・廃止で解雇になる可能性

事業所や店舗が経営上の不振によって閉鎖する場合、整理解雇されてしまう可能性があります。

他の事業所に転勤となるケースもありますが、会社の規模や状況によっては、整理解雇がやむを得ないこともあります。

 

 

地域限定社員導入のポイント

地域限定社員を導入する上でのポイントを解説します。

地域限定社員導入のポイント

 

①ニーズの把握

上記のとおり、新卒大学生の多くは、地域限定社員に対して関心を持っています。

しかし、企業のビジネスモデルによっては、ニーズに違いがあると思われます。

例えば、商社など幅広く国外に展開するビジネスの場合、エントリーする人材の多くは海外等での活躍を希望しており、地域限定に対して魅力を感じないでしょう。

そこで、エントリーする方や、社員に対してアンケートやヒアリングを実施するなどでして、ニーズの有無・程度を把握することが重要となります。

 

②労働者に対する限定の内容の明示

実際に導入する場合、労使トラブルを防止するために、限定の内容を明示する必要があります。

また、法律上も、使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して就業場所については、書面での明示を義務付けています(労基法15条1項、労基則5条)。

したがって、就業規則を改訂するだけではなく、労働条件通知書ないし雇用契約書でも明示すべきです。

就業規則の記載例としては下図のとおりです。パターンに応じていくつかの記載例をあげています。

 

図表 就業規則等の記載例

1 勤務地を一定地域(ブロック、エリア)内に限定する場合

「地域限定正社員の勤務地は、会社の定める地域内の事業所とする。」

「地域限定正社員の勤務地は、原則として、採用時に決定した限定された地区とする。」

「地域限定正社員は、勤務する地域を限定し、都道府県を異にし、かつ転居をともなう異動をしないものとする。」

「地域限定正社員は、原則として、本人の同意なく各地域ブロックを越えて転居をともなう異動を行わないものとする。」

 

2 勤務地を通勤圏内に限定する場合

「地域限定正社員の勤務地は、採用時の居住地から通勤可能な事業所とする。」

「地域限定正社員は、本人の同意なく転居をともなう異動を行わないものとする。」

「地域限定正社員は、自宅から通勤可能なエリア内で勤務するものとする。」

 

3 勤務地を特定の事業所に固定する場合

「地域限定正社員の勤務場所は、1事業所のみとし、事業場の変更をともなう異動は行わないものとする。」

「地域限定正社員の勤務場所は、労働契約書に定める事業所とする。」

 

③納得感がある待遇

人手不足に苦慮する企業が勤務地限定社員を導入する場合、通常(勤務地限定なし)の正社員との賃金格差を大きくすることはできません。

限定なし正社員よりも賃金が大幅に低くなるようであれば、当該企業の魅力がなくなるからです。

他方で、限定なし正社員としては、限定あり正社員と賃金等にまったく格差がなければ不満が生じるでしょう。

そこで、限定あり正社員と限定なし正社員、また、非正規社員などの全社員が納得する待遇を実現することがポイントです。

そのためには、勤務地を限定することで、実際に会社にどの程度の影響が生じるのかを検討しなければなりません。

その上で、賃金、昇進等の待遇の格差について、労使間で十分話し合い、説明会を開催するなどして納得感を得ることが重要です。

勤務地の限定の仕方は多様であり、人事労務管理、経営状況等、企業の事情も様々ですので、具体的に、どのような待遇にするかは各企業において異なりますが、賃金と昇進の格差についての考え方の例を以下のとおり示します。

 

賃金について

限定なし正社員と職務内容が変わらず、かつ、限定なし正社員の中に転勤しない者がいる場合には、賃金格差は小さくすべきです。

例えば、5~10パーセント程度の格差が現実的だと思われます。

これに対して、限定なし正社員の職務内容がより高度で専門的な場合や、限定なし正社員の中に転勤しない者がいない場合には賃金格差はもっと差があってもよいのではないかと考えます。

また、限定なし正社員と勤務地限定正社員間の賃金水準の差への納得性を高めるために、例えば、同一の賃金テーブルを適用しつつ、基本給等に転勤の有無等による係数を乗じたり、転勤の可能性に対する手当等を支給している方法も考えられます。

 

昇進について

勤務地が限定されていても、経験することができる職務の範囲や経験により習得する能力に影響が少ない場合には、昇進のスピードや上限は、限定なし正社員との差をできるだけ小さく設定することが望ましいと考えます。

また、一時的に勤務地限定正社員に転換した者が限定なし正社員に再転換した場合、同時期に限定なし正社員であった者と同格のポストに配置することが難しい場合には、勤務地限定正社員の時期の勤務実績や経験を適正に評価し、それにふさわしいポストに配置することが望ましいと考えます。

 

④事業所を閉鎖する場合

地域限定社員の場合、当該社員が勤務する事業所を閉鎖する場合、当該社員を解雇できるのかが問題となります。

例えば、東京に本社がある会社で、福岡事業所の業績悪化を理由に当該事業所を閉鎖する場合、通常(勤務地を限定していない)の正社員の場合、他の事業所へ転勤させるケースがほとんどです。

しかし、福岡事業所限定で採用した社員については、雇用契約上、他の事業所への転勤を命ずることに問題があります。

そこで、このような場合、解雇が認められるのかが問題となります。

結論としては、いきなりの解雇はリスクが大きく、適切ではありません。

まずは、他の事業所への転勤について当該労働者と協議し、同意が得られるようであれば転勤させるべきだと考えます。

この点、業績悪化が理由であれば整理解雇の場合※に準じて解雇が認められるとする見解も想定されます。

しかし、法律上、解雇のハードルは高く、よほどの事情がないと認められません(労契法16条)。

そのため、裁判等になれば、たとえ勤務地の限定が明確にされているとしても、直ちに解雇が有効とはなりません。具体的な勤務地限定の合意内容や企業の規模・実情に照らした解雇回避の努力が求められます。

 

 

地域限定社員導入の事例

以下では、実際に地域限定社員を採用している大手企業の例を紹介いたします。

 

ダイハツ工業株式会社

ダイハツ工業株式会社は、2020年度より、勤務地域を限定し、転居を伴う異動(転勤)がないことを条件として勤務する「エリアスタッフ」制度を導入しています。

ダイハツ工業株式会社が「エリアスタッフ」制度を導入した目的は、働き方改革の一環として、働き方の多様化と多様な人材の採用、育成、活躍の支援を進めるためと公言されています。

参考:ダイハツ 多様な働き方の実現を目指し、地域限定で勤務を行う「エリアスタッフ」制度を導入|ダイハツ工業株式会社

 

森永乳業株式会社

森永乳業株式会社は、2017年1月より、地域限定正規社員制度が導入しています。

地域限定社員の対象は、育児や介護などの転居を伴う異動が困難な事情を抱える社員です。

全国転勤がある社員を「N(ナショナル)社員」、転居を伴う異動のない社員を「A(エリア)社員」と区別し、「N社員」にのみ支給する「N社員給」を設けて待遇差を設けているようです。

参考:森永乳業株式会社|厚生労働省

 

株式会社ユニクロ

株式会社ユニクロは、2007年4月1日から、転居を伴う転勤が発生しない「地域限定正社員制度」を導入しています。

参考:地域限定正社員制度の運用開始に関するお知らせ|株式会社ユニクロ

 

 

地域限定社員についてよくあるQA

地域限定社員と正社員の違いは何ですか?

会社によって異なりますが、地域限定社員は正社員の中の一種となることがあります。

正社員とは、無期雇用契約のフルタイムの社員のことを指します。

そうすると、地域限定社員でも、無期雇用契約でフルタイムであれば、正社員と呼べることになります。

ただし、会社によっては、地域限定社員は有期雇用契約の方やパート・アルバイトの方に限定しているところもあると考えられるため、一概には正社員の一種とは呼べないでしょう。

 

地域限定社員の給与はいくらですか?

会社によって異なりますので、求人票などをしっかり確認する必要があります。

 

地域限定社員の給与をいくらにするかは、そこで想定されている業務はどのようなものか、転勤があり得る社員は何人いるかなどの具体的な状況によって決められると考えられるため、給与がいくらかを示すことは難しいです。

なお、一応の相場観としては、転勤があり得る社員の8〜9割程度が地域限定社員の給与ではないかと考えられます。

 

 

まとめ

プライベートを重視する社員が増えてきた現代では、人手不足の解消には地域限定社員の採用が鍵になる可能性が高いです。

優秀な人材の確保の手段としても、地域限定社員を採用することは有用な手段となり得ます。

もっとも、これらの制度設計は、同一労働同一賃金などの労働関係の法律知識や、マネジメントの観点を踏まえなければいけないなど、専門的な良識が必要となります。

有意義な制度設計を構築するためにも、労働問題に強い弁護士に相談されることをおすすめします。

デイライト法律事務所の労働事件チームでは、紛争化した案件だけでなく、採用に関するアドバイスなどの対応を行っております。

全国的に対応しておりますので、お気軽にお問い合わせください。

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