配置転換とは?違法・拒否できる場合を解説

監修者
弁護士 西村裕一

弁護士法人デイライト法律事務所 北九州オフィス所長、パートナー弁護士

保有資格 / 弁護士・入国管理局申請取次者

配置転換とは配置転換とは、会社が従業員を別の職務・職種や勤務地などに異動させることです。

企業は、経営上の必要性から、人事権の行使として配置転換を実施します。

ただし、配置転換は無制限に行えるわけではなく、従業員の同意なしに行える範囲には一定の制限があります。

配置転換命令が正当とされるためには、一定の条件を満たす必要があります。

これらの条件を満たさない配置転換命令は、権利の濫用として無効となる可能性があります。

配置転換は、企業にとって、人材の適正配置や能力開発などのメリットがあります。

また、従業員にとっても、新たなスキルを習得できる機会となることもある一方、生活環境の変化などのデメリットも伴うことがあり得ます。

この記事では、配置転換について、その意味や目的、出向や転籍との違い、配置転換が違法となるケース、メリット・デメリットや注意すべき点などを、弁護士が解説します。

配置転換とは?

配置転換とは

配置転換とは、会社が従業員を別の職務・職種や勤務地などに異動させることです。

配置転換は、円滑な事業運営のために人材配置を最適化する手段であり、日本の雇用慣行の中で重要な位置を占めています。

配置転換は、労働契約の当事者である会社と従業員の双方に影響を与えるため、その実施には法的な側面からの理解が不可欠です。

ここでは、配置転換の基本的な意味から、その目的や他の制度との違いについて、詳しく見ていきましょう。

 

配置転換の意味

配置転換とは、同一企業内で、従業員の職務内容や勤務場所を変更することを指します。

具体的には、部署の異動、職種の変更、勤務地の変更などが含まれます。

具体例 部署の異動

営業部から総務部へ異動

具体例 職種の変更

技術職から事務職への変更

具体例 勤務地の変更

大阪支社から東京本社への異動

以上のような変更を伴わない、単なる「昇進」が配置転換に当たるかは、そのときのニュアンスによります。

一方で、昇進も「ポジション」の転換であると捉えて、配置転換に含める考え方があります。

他方で、「昇進は縦の異動、配置転換は横の異動」として整理する考え方もあり、この場合は、昇進は配置転換とは区別することになります。

配置転換は、雇用関係を維持したまま行われるため、雇用主は変わりません。

労働契約の本質的な部分(雇用関係)は継続したまま、労働の具体的な内容や提供場所が変更されるのが、配置転換です。

配置転換は、企業の人事権に基づいて行われるものですが、労働者の権利との調整が必要な場面も多くあります。

 

配転とは?

「配転」とは、「配置転換」の略称で、実務上よく用いられる表現です。

書類や規定などでは「配置転換」と正式名称が使われることが多いですが、日常会話では「配転」と略して呼ばれることも多いです。

また、配置転換を命じるときには、「配転命令」という表現をすることもあります。

 

なぜ会社は配置転換させる?配置転換の目的

会社が配置転換を行う目的は、多岐にわたります。

経営戦略上の理由から行われることもあれば、従業員のキャリア開発を目的とする場合もあります。

配置転換は、企業にとって重要な人事施策のひとつであり、適材適所の人員配置を実現するための手段です。

 

人材の最適配置

企業が配置転換を行う目的のひとつは、組織の効率化や人材の最適配置です。

事業環境の変化に応じて、人材を必要な部署に配置することで、企業全体の生産性を高めることができます。

たとえば、新規事業の立ち上げ時に経験豊富な人材を異動させたり、業績不振の部門を立て直すために優秀な人材をシフトさせたりするケースが、これに当たります。

また、数の上での最適配置として、忙しい部門へ追加人員を割り当てることで、業務量の平準化を目指すこともあります。

 

キャリア開発

次に、従業員の能力開発やキャリア形成を目的とした配置転換があります。

従業員にさまざまな職務や部署を経験させることで、幅広い知識と経験を持つ人材を育成することができます。

特に、日本企業では、ジョブローテーションとして計画的に配置転換を行い、将来の管理職候補を育成するという方法がよく見られます。

 

組織の活性化

組織の活性化を目的とした配置転換も行われます。

ずっと固定されたメンバーではなく、定期的に人を入れ替えることで、組織に刺激を与えて活力や創造性の向上を目指すことがあります。

 

不正の防止

従業員による不正を防止する観点で、定期的に配置転換を実施することもあります。

たとえば、金融機関などで、不正や癒着などを生じさせないために、同じ業務をひとりの人間にずっと担当させることを避けることがあります。

 

人間関係の調整

部署内の人間関係のトラブルを解消するための手段としても、配置転換が用いられることがあります。

ハラスメントの問題や、人同士の相性が悪い場合などに、これを考慮した配置に変更するといったケースです。

以上のほか、従業員の健康上の理由による業務調整や、本人の希望の考慮など、さまざまな状況に応じて配置転換が実施されます。

 

配置転換と出向との違い

配置転換と出向は、どちらも従業員の勤務場所や業務内容が変わるという点で似ていますが、法的な位置づけや実務上の取り扱いに違いがあります。

配置転換は、基本的に同一企業内での異動であり、雇用主(使用者)は変わりません。

部署や職種、勤務地が変わっても、労働契約の当事者は変わらず、給与の支払いや人事管理は、元の会社が継続して行います。

一方、出向は、従業員が元の会社(出向元)との雇用関係を維持したまま、別の会社(出向先)で働くことを指します。

出向には、「在籍出向」と「移籍出向」があります。

在籍出向では、出向元との雇用関係を維持したまま、出向先でも雇用関係が生じる「二重の雇用関係」となります。

これに対し、移籍出向では、出向元との雇用関係を解消して、出向先との間に新たな雇用関係を結びます。

いずれの場合であっても、労務の提供先が出向先企業となる点で、配置転換とは異なります。

出向についての詳しい解説は、以下のページをご覧ください。

 

配置転換と転籍との違い

配置転換と転籍は、従業員の職場環境が変わるという点では似ていますが、法的に異なる性質を持っています。

配置転換は、同一企業内での異動であり、雇用主は変わらず、労働契約関係も継続します。

これに対し、転籍は上記の「移籍出向」に該当し、元の会社との労働契約を終了させて新たな会社との間で新しい労働契約を結ぶことになります。

つまり、転籍の場合は、雇用主そのものが変わるという点が、配置転換との大きな違いです。

転籍は、法的には退職と入社の組み合わせであり、元の会社での退職金の清算が行われたり、新会社での労働条件が新たに設定されたりすることもあります。

また、転籍には退職が伴うことから、従業員の同意が必須であり、会社が一方的に転籍を命じることはできません。

これに対し、配置転換は、労働契約で定められた範囲内であれば、会社の人事権として一定の裁量で行うことができます。

転籍は、主に企業グループ内での人材交流や、子会社への移籍、会社分割に伴う従業員の移動などの場面で行われることが多いです。

出向や転籍についての解説は、以下のページをご覧ください。

 

配置転換と左遷との違い

配置転換と左遷は、その目的や性質に大きな違いがあります。

配置転換は、業務上の必要性や、組織の活性化、従業員のキャリア形成などを目的として行われる人事異動を指します。

一方で左遷は、閑職への異動など、従業員の地位や処遇を意図的に下げることを目的とした、処分的な意味合いを持つ人事異動を指します。

つまり、左遷とは、処分目的で行われる配置転換の一種と考えることができます。

左遷に当たるケースでは、職責の軽減や賃金の低下、勤務条件の悪化などの不利益が伴うことが多いです。

配置転換自体は企業の人事権の範囲内で認められていますが、左遷のように従業員に不利益を与えるものは、その必要性や正当性が厳しく問われることになります。

もし、左遷が嫌がらせや報復的な目的で行われていれば、権利の濫用として無効とされる可能性があります。

左遷と配置転換の境界は、必ずしも明確ではありません。

同じ人事異動でも、企業側は「正当な配置転換」と主張し、従業員側は「不当な左遷」と主張するケースもあります。

最終的には、その異動の必要性や目的の正当性、従業員への影響などを総合的に考慮して判断されることになります。

 

配置転換と人事異動との違い

配置転換と人事異動は、しばしば混同されることがありますが、厳密には異なる概念です。

人事異動は、従業員の職務や勤務地を変更する会社の人事施策全般を指す広い概念であり、配置転換は、その一形態と位置づけられます。

人事異動には配置転換のほか、昇進や昇格、降格、出向、転籍など、さまざまな形態が含まれます。

人事異動の中心は配置転換であり、両者は大きく重複しますが、厳密には配置転換に当たらない人事異動も存在します。

つまり、配置転換は人事異動の一種であり、特に、職務内容や勤務場所の変更に焦点を当てた概念といえます。

実務上は、「人事異動」と「配置転換」を明確に区別せずに使うことも多く、特に、一般的な会話では同じような意味で用いられることもあります。

 

 

配置転換するとどうなる?

配置転換が行われると、従業員の働き方や生活にさまざまな変化が生じます。

職務内容や勤務場所が変わることによって、業務内容や通勤時間、職場の人間関係など、労働環境が大きく変わる可能性があります。

ここでは、配置転換によって生じる主な変化と、その影響について説明します。

配置転換するとどうなる?

 

①職務内容の変更に伴う変化

異なる部署や職種への配置転換の場合、これまでとは全く異なる業務に従事することになります。

新しい知識やスキルの習得が必要となり、一時的に業務効率が低下することもあります。

しかし、新たな経験を通じて視野が広がり、キャリアの幅が拡大するというプラスの側面もあります。

 

②勤務地の変更による影響

遠隔地への配置転換の場合、転居を伴うこともあり、家族関係や生活環境に大きな影響を与えることがあります。

特に、配偶者の仕事や子どもの教育、親の介護などの事情がある場合は、単身赴任という選択を迫られることもあります。

 

③人間関係の変化

配置転換では、職場の人間関係の変化も見逃せません。

長年築いてきた職場での人間関係を一旦リセットし、新しい環境での人間関係を構築する必要が生じます。

これは、新たな人脈を広げるチャンスである一方、適応に時間がかかることもあります。

 

④労働条件の変更

労働条件についても、配置転換に伴って生じることがあります。

基本給は通常変わらないものの、職種手当や地域手当などの各種手当が変更されることで、実質的な収入が変動する可能性があります。

また、勤務時間や休日体制が異なる部署への異動の場合、ワークライフバランスにも影響を与えることがあります。

 

⑤キャリアへの影響

配置転換に伴って、キャリアパスに影響が出ることもあります。

配置転換がキャリアアップにつながるケースもあれば、一時的にキャリアが停滞すると感じられるケースもあります。

特に、専門性の高い職種から全く異なる職種への配置転換の場合、これまで培ってきた専門性が活かせなくなる可能性もあります。

 

⑥会社の対応

こうした変化に対応するために、会社側もさまざまなサポート体制を整えることが重要です。

たとえば、新しい業務に関する研修の実施、メンター制度の導入、定期的な面談による適応状況の確認などが有効です。

また、従業員自身も、配置転換を前向きに捉え、新たな経験を自身のキャリア形成に活かす姿勢を持つことが大切です。

配置転換は、一時的には負担を感じることもありますが、長期的には自身の成長やキャリアの幅を広げるチャンスとなる可能性を秘めています。

 

 

配置転換命令を拒否できる?

配置転換に不服がある場合、命令を拒否できないかと考えたくなるかもしれません。

会社は、事業目的達成のために、広範な人事権ないし人事裁量を有しています。

基本的に、会社の人事権の範囲内で行われる配置転換については、従業員に受け入れる義務があるとされています。

しかし、内容を問わず、すべての配置転換命令に従わなければならないというわけではありません。

ここでは、配置転換命令の法的な根拠と、従業員が配置転換を拒否できる可能性について解説します。

 

配置転換の法的な根拠

配置転換の法的根拠は、主に就業規則や労働契約、労働協約などに求められます。

多くの企業では、就業規則に「会社は、業務上の必要がある場合、従業員に配置転換を命じることがある」といった規定を設けています。

このような規定がある場合、その規定は労働契約の内容となります。

また、労働契約締結時に、「会社の命じる業務に従事する」という包括的な合意がなされていることも多く、これも配置転換命令の根拠となり得ます。

さらに、企業には、経営上の必要性に基づいて人事配置を行う「人事権」が認められています。

これにより、適正な範囲内であれば、企業は従業員に対して配置転換を命じることができるとされています。

ただし、この人事権も無制限ではなく、労働契約の範囲内で行使されなければなりません。

たとえば、職種や勤務地を限定して雇用された従業員(職種限定社員、地域限定社員など)に対しては、その限定を超える配置転換を命じることはできません。

また、配置転換命令が権利の濫用に当たる場合は、違法な命令として無効となります。

 

配置転換の拒否についての裁判例

配置転換をめぐる紛争は多く、配置転換命令の有効性に関する判断基準が、判例によって形成されています。

ここでは、配置転換の拒否に関する代表的な裁判例を紹介します。

 

東亜ペイント事件

東亜ペイント事件は、配置転換命令の効力に関する重要な判例のひとつです。

この事件は、会社が従業員に対して遠隔地への配置転換を命じたところ、従業員がこれを拒否したことから解雇されたというケースです。

この事件では、次のいずれかのような場合に、配置転換命令が権利の濫用になると示されました。

  1. ① 業務上の必要性がない
  2. ② 不当な動機・目的である
  3. ③ 労働者に通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものである

そして、このような事情がないとして、本件では会社の配置転換命令は有効であると判断しました。

この判例は、現在でも配置転換命令の効力を判断する際の、基本的な枠組みとなっています。

参考判例:最判昭和61年7月14日|全国労働基準関係団体連合会

 

滋賀県社会福祉協議会事件

滋賀県社会福祉協議会事件は、上記の権利濫用の枠組みとはまた別の観点から、配置転換命令を無効と判断しました。

この事案は、福祉用具の改造、製作、技術開発等の業務を行う技術職として採用された職員に、その同意を得ずに総務課への配置転換を命令した事案です。

裁判所は、労働契約で職種や業務内容を特定のものに限定する合意がある場合には、従業員の同意なく合意に反する配置転換を命じることはできないと判断しました。

参考判例:最判令和6年4月26日|最高裁ホームページ

 

 

配置転換命令が違法となるケース

企業の人事権は無制限ではなく、一定の制約があります。

その限度を超えた場合、違法な配置転換命令として無効になることがあります。

ここでは、配置転換命令が違法と判断される主なケースを見ていきます。

 

権利濫用に当たる場合

先述の東亜ペイント事件では、配転命令が権利濫用に当たる場合として①業務上の必要性がない、②不当な動機・目的で行われている、③労働者に通常甘受すべき程度を著しく超える不利益が生じる、という3つの場合を挙げています。

 

業務上の必要性がない場合

業務上の必要性がない配転命令は、権利濫用として違法となります。

業務上の必要性とは、人員配置の適正化、業務の効率化、従業員の能力開発、組織の活性化などの、企業経営上の合理的な理由を指します。

こうした必要性が認められない場合、配置転換命令は違法となる可能性があります。

たとえば、人を異動させる合理的理由がなく、配置転換のされた従業員の能力や適性にも問題がないような場合などは、業務上の必要性を欠くと判断される可能性があります。

ただし、裁判所は通常、業務上の必要性の判断については企業側に広い裁量を認める傾向にあります。

明らかに業務上の必要性がない場合を除き、企業側の主張が認められるケースも多いです。

 

動機や目的が不当な場合

配置転換命令の動機や目的が不当である場合、その命令は権利の濫用として違法となります。

不当な動機・目的の典型例は、嫌がらせや報復目的での配置転換です。

たとえば、会社の方針に反対意見を述べた従業員に対する報復として行われる配置転換は、不当な動機によるものとして違法となる可能性が高いです。

他にも、個別の法律で不利益な取り扱いが禁止されている場合、違法な配置転換となることがあり得ます。

 

労働組合活動を理由とする場合:労働組合法7条1項

参考:労働基準法|e-Gov法令検索

 

育児・介護休業の取得を理由とする場合:育児・介護休業法10条

参考:育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律|e-Gov法令検索

 

妊娠・出産を理由とする場合:男女雇用機会均等法9条3項

参考:雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律|e-Gov法令検索

 

内部通報を理由とする場合:公益通報者保護法5条1項

参考:公益通報者保護法|e-Gov法令検索

上記のような従業員に対して、配置転換をすること自体が否定されるわけではありません。

たとえば、産休からの復帰者に、体調を考慮して業務負荷の少ない部署への配置転換を命じることは、不当な動機によるものとはいえません。

もっとも、丁寧な説明を行わないと、出産を理由とする左遷と受け取られる可能性もあります。

また、真の動機が不当な配置転換命令は、たとえ表面的には業務上の必要性があるように装われていても、違法と判断される可能性があります。

 

従業員に与える不利益が著しい場合

配置転換命令が従業員に与える不利益が著しく大きい場合、たとえ業務上必要な配置転換であっても、権利の濫用として違法な配転命令となる可能性があります。

配置転換が違法となるかは、従業員に与える不利益が「通常甘受すべき程度を著しく超える」かどうかによって決まります。

たとえば、介護が必要な家族がいる場合や、配偶者の転勤が困難な場合など、家庭の事情によって転居が極めて困難なケースがあります。

そうした事情を全く考慮せずに行われる遠隔地への配置転換は、従業員に過大な負担を強いるものとして、違法となる可能性があります。

健康上の理由が無視された配置転換も、問題となります。

従業員の健康状態や身体的特性を無視した配置転換は、健康被害という重大な不利益をもたらす可能性があります。

たとえば、特定の疾患を持つ従業員をその症状を悪化させるような環境に配置転換するような場合です。

専門性や適性を無視した職種変更も、著しい不利益と判断されることがあります。

長年特定の専門分野で経験を積んできた従業員を、全く異なる分野に配置転換した場合、それまでの専門性やキャリアが全く活かせなくなることがあり得ます。

そのような場合、従業員のキャリア形成に重大な影響を与えるものとして、問題になる可能性があります。

賃金など労働条件の著しい低下を伴う配置転換も、不利益が大きいと判断される要素となります。

配置転換に伴って基本給や各種手当が大幅に減少するなど、経済的に大きな不利益を被る場合は、その配置転換命令の有効性が疑問視されることがあります。

ただし、これらの不利益の存在だけで直ちに配置転換命令が違法となるわけではありません。

業務上の必要性の程度や、企業側が講じている配慮措置なども含めて、総合的に判断されます。

 

職種限定合意がある場合

労働契約において、職種を限定する旨が合意されている場合、その限定を超える配置転換命令は、無効となる可能性があります。

職種限定の合意は、採用時の求人広告や、雇用契約書、辞令などに明示されていることが多いです。

こうした明示的な合意がある場合、企業は、原則としてその限定を超える配置転換を命じることはできません。

たとえば、「営業職として雇用する」と明記された雇用契約を結んでいる場合に、製造ラインへの配置転換を命じることは、職種限定の合意に反するため無効となる可能性があります。

ただし、職種限定合意の存在や範囲について争いになることも多いです。

「総合職」「一般職」などの広い枠組みでの採用の場合、どこまでが職種限定に含まれるのかは、個別の状況に応じて判断されることになります。

 

勤務地限定合意がある場合

労働契約において勤務地を限定する合意がある場合、その限定を超える配置転換命令は、無効となる可能性があります。

特に、「地域限定社員」として明確に区分されて採用されている場合は、その限定を超える転勤命令は無効となる可能性が高いです。

しかし、勤務地限定の合意がどの程度明確に存在するかは、個別のケースごとに異なります。

採用時の経緯や労働条件通知書の記載内容、その後の就労実態などを、総合的に判断して決められることになります。

また、勤務地限定合意があっても、会社の本社移転や事業所の統廃合など、経営上の必要性が高い場合には、例外的に勤務地変更が認められる可能性もあります。

この場合も、企業側は従業員の個別事情に配慮し、過度の負担を強いることのないよう適切な措置を講じる必要があります。

 

 

配置転換の企業のメリットとデメリット

配置転換は企業経営において重要な人事施策ですが、実施にあたってはさまざまなメリットとデメリットが存在します。

ここでは、企業側から見た配置転換のメリットとデメリットについて、詳しく解説します。

配置転換の企業のメリットとデメリット

 

メリット

人材の適正配置

人材の適正配置は、配置転換の最も重要なメリットの一つです。

従業員の能力や適性を見極め、最も力を発揮できる部署や職種に配置することで、企業全体の生産性を効率的に高めることができます。

特に、業績不振の部門から人員を減らし、成長部門に人材を集中させることで、経営資源の効率的な配分が可能になります。

 

人材育成の促進

人材育成の促進も、配置転換の大きなメリットです。

さまざまな部署や職種を経験させることで、従業員の視野を広げ、多様なスキルを身につけさせることができます。

特に、将来の管理職候補には、さまざまな部門を経験させることで、会社全体を俯瞰できる能力を養うことができます。

 

組織の活性化

組織の活性化も、配置転換の重要な効果です。

定期的に新しい人材が入ることで、新鮮な視点や革新的なアイデアが生まれやすくなります。

また、部署間の人事交流によって、組織全体の一体感や協力関係が強化されることもあります。

 

リスク分散

リスク分散の観点からも、配置転換は有効です。

特定の従業員に特定の業務の知識やスキルが集中すると、その従業員が退職した際に業務に支障が生じるリスクがあります。

配置転換によって、複数の従業員に知識やスキルを分散させることで、このようなリスクを軽減することができます。

 

人間関係の調整

人間関係の調整にも、配置転換は役立ちます。

職場内で対立や摩擦が生じた場合、関係者を別々の部署に配置転換することで、問題を解消できることがあります。

また、ハラスメント問題が発生した場合の対応策としても有効です。

 

デメリット

一時的な生産性の低下

一時的な生産性の低下は、配置転換に伴うデメリットのひとつです。

新しい業務や環境に慣れるまでには時間がかかるため、配置転換直後は一時的に業務効率が低下することが考えられます。

特に、専門性の高い職種では、新しい知識やスキルを習得するまでに、相当の時間を要することもあります。

 

教育・研修コストの増加

教育・研修コストの増加も、無視できません。

配置転換に伴い、新しい業務に関する教育や研修が必要となり、これには時間とコストがかかります。

また、指導役となる先輩社員の負担も増加し、部署全体の生産性に影響を与えることもあります。

 

従業員の不満やモチベーション低下

配置転換では、従業員の不満やモチベーション低下のリスクもあります。

特に、本人の希望に反する配置転換の場合、従業員の不満やストレスが増大し、モチベーションの低下や退職につながる可能性があります。

また、転勤を伴う配置転換は、従業員の生活環境を大きく変えるため、特に慎重な対応が求められます。

 

法的リスクの増加

法的リスクが増加する可能性も、考慮すべきポイントです。

配置転換が不当な動機で行われた場合や、従業員に過度の不利益を与える場合は、訴訟リスクが高まります。

また、職種限定や地域限定の合意がある場合は、その範囲を超える配置転換ができないことがあります。

このようなリスクを最小限に抑えるために、配置転換にあたっては、法的な面からの検討を丁寧に行う必要があります。

 

 

配置転換の従業員のメリットとデメリット

配置転換は、従業員にとってもさまざまな影響をもたらします。

キャリアの幅を広げる機会となる一方で、生活環境の変化などの負担も伴います。

ここでは、従業員側から見た配置転換のメリットとデメリットについて解説します。

配置転換の従業員のメリットとデメリット

 

メリット

スキルや知識の幅を広げられる

スキルや知識の幅を広げられることは、配置転換の大きなメリットの一つです。

異なる部署や職種を経験することで、多様なスキルや知識を身につけることができ、市場価値を高められる可能性があります。

特に、若手のうちにさまざまな部署を経験することは、自分の適性や興味を見つける良い機会となります。

 

キャリアアップの機会

配置転換をきっかけに、キャリアアップの機会が得られることもあります。

配置転換が昇進や昇格を伴う場合は、責任ある立場や上位の職位に就くチャンスとなります。

また、将来の昇進に必要な経験を積む機会となることもあり、長期的なキャリア形成にも寄与します。

特に、管理職を目指す場合は、複数の部門を経験していることが評価されることも多いです。

 

人脈の拡大

人脈の拡大も、見逃せないメリットです。

さまざまな部署を経験することで、社内の幅広い人脈を構築することができます。

いろんな部署に「顔が利く」ようになることは、業務を円滑に進めていく上でのアドバンテージとなります。

また、異なる専門知識や視点を持つ人々との交流は、自身の視野を広げることにもつながります。

 

職場環境の改善

配置転換によって、より好ましい職場環境へと移れる場合があります。

職場の人間関係に悩んでいた場合、配置転換によって新しい環境に移ることで、そうしたストレスから解放されることがあります。

また、業務に適正を感じていなかった場合、次の配置先ではより自分にフィットした業務にることも期待できます。

 

デメリット

生活環境の変化

生活環境の変化は、特に転勤を伴う配置転換の場合などに大きな負担となります。

転居によって、通勤時間や住環境が変わるだけでなく、家族の生活にも影響を与えることがあります。

配偶者が仕事を辞めざるを得なくなったり、子どもが転校を余儀なくされたりといったケースもあります。

また、単身赴任となる場合は、家族との別居というストレスに加え、二重生活による経済的負担も生じます。

 

環境に適応するストレス

新たな業務や職場環境に適応するストレスも、配置転換のデメリットです。

新しい業務や職場環境に慣れるまでには時間がかかり、その間は不安やストレスを感じることもあります。

特に、全く異なる職種への配置転換の場合は、一からの学び直しが必要となり、大きな負担となることがあります。

また、人間関係を新たに構築する必要もあり、これもストレス要因のひとつとなり得ます。

 

専門性やキャリアの中断

配置転換の内容によっては、専門性やキャリアの中断も懸念されます。

全く異なる分野への配置転換など、長年かけて築いてきた専門性や経験が活かせなくなるケースもあります。

特に、専門職の場合、専門性を深める機会が失われることで、長期的なキャリア形成に影響を与えることもあります。

また、特定の資格や専門知識が必要な職種から離れることで、その知識やスキルが陳腐化するリスクもあります。

 

収入の減少

配置転換によって、収入の減少が生じることもあります。

配置転換では、従業員の待遇を一方的に悪化させることは通常許されず、単に給料を下げられるといったことはないのが一般的です。

ただし、配置転換により残業が減少したり、各種手当の支給要件を満たさなくなったりといったことによって、結果的に収入が減少することはあります。

 

モチベーションの低下

自分の希望や適性に合わない配置転換は、モチベーションの低下や仕事への不満につながることがあります。

また、低い評価を理由に配置転換されたという印象を持つと、自己肯定感が低下する可能性もあります。

長期的には職場への帰属意識が薄れ、離職につながるリスクもあります。

これらのデメリットは、配置転換そのものを否定するものではなく、配置転換に伴って生じ得る課題として認識し、適切に対処することが重要です。

企業側も、従業員の状況や希望を考慮し、適切なサポートを提供することで、これらのデメリットを最小限に抑えることができます。

 

 

配置転換させるときに企業が注意すべきこと

配置転換を実施する際、企業はさまざまな点に注意を払う必要があります。

適切な準備や手続きを行わないと、従業員のモチベーション低下や、法的トラブルの原因となることがあります。

ここでは、配置転換を実施する際に企業が注意すべきポイントについて解説します。

配置転換させるときに企業が注意すべきこと

 

法的根拠の確認

配置転換を実施する前に、その法的根拠を確認することが重要です。

就業規則や労働契約に配置転換に関する規定があるか、その規定が明確で合理的なものであるかを確認しましょう。

配置転換命令の有効性は、業務上の必要があるか、不当な動機・目的でないか、従業員に著しい不利益を与えないか、といった観点から判断されます。

これらの要件を満たさない配置転換命令は、権利の濫用として無効となる可能性があります。

特に、職種限定や地域限定の合意がある場合は、その範囲を超える配置転換ができないケースがあるため、労働契約の内容を再確認する必要があります。

 

業務上の必要性の明確化

配置転換を行う際は、その業務上の必要性を明確にしておくことが重要です。

組織の再編や業務の効率化、人材育成など、配置転換の目的が合理的なものであることを示す根拠が必要です。

業務上の必要性の有無は、配置転換命令の有効性を判断する上で重要な要素の一つです。

必要性がない、または極めて低い場合、配置転換命令は権利の濫用として無効とされる可能性があります。

業務上の必要性は、具体的かつ客観的な事実に基づいて説明できるようにしておきましょう。

たとえば、「業績不振の部門から好調な部門への人員シフト」「特定スキルを持つ人材の重点配置」といったように、理由を明確にしておくことが重要です。

また、配置転換の必要性を従業員に対して説明できるよう、適切な資料や説明材料を準備しておくことも有効です。

 

従業員への説明と同意の取得

配置転換を実施する際は、対象となる従業員に対して事前に説明を行い、可能な限り同意を得ることが望ましいです。

突然の配置転換は、従業員に大きな不安やストレスを与えるため、十分な説明と準備期間を設けることが重要です。

配置転換の目的や必要性、新しい職務内容や勤務条件、配置転換後のサポート体制などについて、丁寧に説明しましょう。

また、従業員からの質問や懸念に対して誠実に対応し、可能な限り配慮することも重要です。

従業員の納得が得られていれば、配置転換に伴うトラブルの可能性を大幅に低下させることができます。

 

個別事情への配慮

配置転換を実施する際は、従業員の個別事情に配慮することが重要です。

家族の状況、健康上の問題、キャリアプランなどを考慮し、過度の負担を強いることのないよう配慮しましょう。

特に、介護や育児を行っている従業員、健康上の問題を抱える従業員に対しては、特別な配慮が必要です。

育児や介護を行っている従業員に対する遠隔地への転勤は、育児・介護休業法による転勤制限の対象となる可能性があります。

健康上の問題がある従業員に対しては、産業医の意見を聞くなど、健康管理面での配慮も必要です。

また、従業員のキャリアプランや専門性にも可能な限り配慮し、配置転換がキャリア形成にプラスとなるよう工夫することが望ましいです。

これらの配慮は、単に法的リスクを回避するだけでなく、従業員のモチベーションや企業への信頼感を維持する上でも重要です。

 

 

配置転換の雛形・サンプル

配置転換を実施する際には、適切な文書を作成することが重要です。

ここでは、配置転換辞令や配置転換同意書の書式について解説します。

 

配置転換辞令の書式

配置転換辞令は、従業員に対して配置転換を正式に通知するための文書です。

配置転換の趣旨が正しく伝わるよう、明確で誤解のない内容で作成することが重要です。

異動申請書

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配置転換同意書の書式

配置転換を円滑に進めるためには、可能な限り従業員の同意を得ることが望ましいです。

配置転換同意書は、従業員が配置転換に同意したことを文書で確認するためのものです。

特に、職種限定や地域限定の合意がある場合や、労働条件の変更を伴う配置転換の場合は、同意書を取得しておくことでトラブルを防止できます。

異動申請書

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労働問題に関する書式については、以下のページをご覧ください。

 

 

配置転換のトラブルを防止するために弁護士に相談

配置転換をめぐるトラブルは、企業にとって大きなリスクとなります。

適切な手続きや配慮を欠いた配置転換は、従業員との紛争や訴訟につながるおそれがあります。

そのようなリスクを回避し、円滑な配置転換を実現するためには、専門家である弁護士への相談が有効です。

配置転換は、従業員のキャリアや生活に大きな影響を与える重要な人事施策です。

特に、大規模な組織再編に伴う場合や、職種の大幅な変更を伴う場合など、従業員への影響が大きいケースでは、法的リスクも高くなります。

弁護士に相談することで、配置転換の法的有効性や、適切な手続き、考慮すべき法的リスクなどについて、専門的な助言を得ることができます。

特に、従業員への影響が大きいケースでは、弁護士への相談が強く推奨されます。

職種限定や地域限定の合意がある従業員の配置転換を検討している場合、そのような合意の有効性や範囲について、専門的な判断が必要になります。

不利益変更を伴う配置転換行う場合なども、その必要性と合理性について法的な観点からの検討が重要です。

弁護士は、法令の専門家として、配置転換に関する最新の法律や判例に基づいてアドバイスします。

また、個別のケースに応じた、実務的な対応策を提案することも可能です。

配置転換に関する弁護士への相談は、トラブルが発生してからではなく、計画段階から行うことが望ましいです。

事前に法的リスクを把握し、適切な対応策を講じることで、トラブルを未然に防ぐことができます。

労働問題における弁護士選びの重要性については、以下のページをご覧ください。

 

 

配置転換についてのQ&A

配置転換に選ばれる人はどのような人ですか?

配置転換の対象者は、企業の人事戦略や業務上の必要性に基づいて選ばれます。

新規事業や重要プロジェクトには、高い能力や経験を持つ人材が選ばれることがあります。

一方で、業績不振部門からの異動では、広範囲の従業員が対象となることもあります。

公平性の観点から、勤続年数や年齢、前回の異動時期なども考慮されます。

 

うつ病で配置転換を拒否できますか?

うつ病などの健康上の問題がある場合、配置転換を拒否できる可能性があります。

特に、配置転換が症状を悪化させる恐れがある場合は、企業は安全配慮義務の観点からも、配慮する必要があります。

ただし、最終的にはすべての事情を総合的に考慮して判断されるため、うつ病という一点のみをもって、配置転換を常に拒否できるとまではいえません。

まずは、診断書を提出し、産業医や人事部と相談することをお勧めします。

 

 

まとめ

この記事では、配置転換について、その意味や目的、出向や転籍との違い、配置転換が違法となるケース、メリット・デメリットや注意すべき点などを解説しました。

記事の要点は、次のとおりです。

  • 配置転換とは同一企業内で従業員の職務内容や勤務場所を変更することであり、企業の人事権に基づいて行われる。
  • 配置転換命令が有効とされるためには、業務上の必要性があること、不当な動機・目的でないこと、労働者に通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせないことが必要である。
  • 職種限定や勤務地限定の明確な合意がある場合、その限定を超える配置転換命令は原則として無効となる。
  • 配置転換は企業にとって人材の適正配置や組織の活性化などのメリットがある一方、一時的な生産性の低下などのデメリットもある。
  • 従業員にとっては、スキルや知識の幅を広げられるメリットがある反面、生活環境の変化や専門性の中断などのデメリットも生じる。
  • 配置転換をめぐるトラブルを回避するためには、労働問題に詳しい弁護士へ相談することが効果的である。

当事務所では、労働問題を専門に扱う企業専門のチームがあり、企業の労働問題を強力にサポートしています。

Zoomなどを活用したオンライン相談も行っており全国対応が可能です。

労働問題でお困りの際は、当事務所の労働事件チームまで、お気軽にご相談ください。

この記事が、労働問題にお悩みの企業にとってお役に立てれば幸いです。

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