弁護士コラム

小保方さんは論文捏造?STAP細胞論文の不正と懲戒処分・解雇問題

執筆者
弁護士 西村裕一

弁護士法人デイライト法律事務所 北九州オフィス所長、パートナー弁護士

保有資格 / 弁護士・入国管理局申請取次者

解説する男性のイメージイラスト今回は、今話題の小保方さんの問題について、労働問題に絡めて考えたいと思います。

この問題については、報道等でも様々な意見や見解が出されていますが、二つに分けて考える必要があると思います。

 

問題点

一つは、STAP細胞が実在するか否かという問題です。

生物学の常識を覆す発見とのことですので、これは真実であってほしいですね。

私は、科学には疎いので、この問題については触れません。

もう一つは、小保方さんの論文の撤回を含めた処遇の問題です。

ここでは、処遇の問題で、今後予想される労働法上の論点について説明します。

 

 

労働法上の論点

研究者のイメージ画像小保方さんは、論文を不正と認定した理化学研究所に対して、代理人弁護士を通じて不服申立を行っていますが、これにはどのような意味があるのでしょうか。

仮に、論文が不正行為と認定されると、小保方さんの雇用契約上の地位にも関わってきます。

理化学研究所は、公的な側面を有していますが、民間企業のようなものであり、小保方さんとの関係は雇用契約(労働契約)に基づくものです。

世間を騒がせている、この一連の問題を早期に解決するため、今後、理化学研究所は、小保方さんを懲戒解雇するという幕引きが考えられます。

しかし、解雇はそう簡単には認められません。懲戒解雇となるともっとハードルが高くなります。

解雇について、説明すると、まず、就業規則に定めた解雇事由に該当することが求められます。

その上で、解雇は、労働契約法16条によって、①客観的に合理的な理由と②社会通念上の相当性が必要となります。

今回、論文が不正と認定されると、上記の「就業規則に定めた解雇事由に該当すること」の要件は満たすこととなるでしょう。

では、①の客観的に合理的な理由はどうでしょうか。

これについては、理化学研究所に「小保方さんが論文を改ざん、捏造したこと」について、客観的な証拠による立証が求められるでしょう。

昨日の記者会見を見ていると、小保方さんは、「改ざん」について、「画像の切り張りは見やすくするため。」と反論し、「捏造」について、「データの整理が不十分で画像を取り違えた」と説明されているようです。

しかし、小保方さんの言い分を前提としても、厳正さが求められる科学論文において、見やすくするための切り貼りは問題があるように思えます。

 

次に、②の社会通念上の相当性はどうでしょうか。

難しい問題ですが、「STAP細胞が実在し、それを小保方さんが証明できた場合」は、この社会通念上の相当性を満たさないのではないかと考えます。確かに、論文の不正は問題ですが、この場合、「生物学の常識を覆す発見を小保方さんが成し遂げた」という事実は動かせません。その功績は評価されるべきと思われます。

小保方さんは記者会見でSTAP細胞を「200回以上作成した」と仰っています。表情からすると、とても嘘をついているような印象は受けませんでしたが、真実であってほしいと思います。

 

弁明の機会を与えること

今回、小保方さんは、理化学研究所の調査に対して、「調査委員からの質問に答えるだけで、弁明させてもらう機会は少なかった。」と反論されています。

解雇する場合、使用者には、非違事実に該当するか否かについて、慎重な判断が求められます。

懲戒解雇となれば、いわば極刑(小保方さんの研究者生命に関わります。)に該当する処分に相当するため、より慎重な事実確認が必要です。

そのため、被処分者に対して、十分な弁明の機会を与えることを求められます。このような手続を踏まえていないと、上記の解雇の要件を満たさないことになるでしょう。

しかも、今回の騒動は、日本だけではなく世界中が関心を持っており、社会に対する影響も甚大です。

理化学研究所は、なぜ不正といえるのか、データと十分なヒアリングに基づいて、客観的に判断することが求められます。

このような十分な弁明の機会を与えたか否かについては、不利益処分を課す理化学研究所の方に証明責任が求められると考えます。

理化学研究所の中間報告から最終報告までは、わずか2週間程度でした。早く事態を収拾したいがために、拙速な判断を行ったのではないかという疑念が拭えません。

なお、解雇問題について、くわしくはこちらからどうぞ。

 

 




  

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