弁護士コラム

日本は有給消化率ワースト1位! 計画年休を導入して有給休暇取得を促進する


計画年休の意義と導入の背景

計画年休とは?

労基法39条6項は、「使用者は、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、第一項から第三項までの規定による有給休暇を与える時季に関する定めをしたときは、これらの規定による有給休暇の日数のうち5日を超える部分については、前項の規定にかかわらず、その定めにより有給休暇を与えることができる」と定めています。

つまり、計画年休とは、過半数代表との労使協定にもとづき、労働者の年休の5日を超える部分に対して、計画的な年休の付与を認める制度をいいます。

計画年休導入の背景

カレンダー年次有給休暇の使用は、原則として労働者の自由に任されています。

しかしながら、日本の労働環境は、上司や同僚の目を気にして休暇が取得しにくいといわれています。

そこで、年休取得を促すために、あらかじめ計画的に、職場でいっせいに、またはグループ別の交代で年休を使用する制度として、1987年の労基法改正によって計画年休が認められました。

計画年休制度は、法改正から30年以上が経過しましたが、導入している企業はそれほど多くありません。

しかし、以下に述べる日本人の年休消化率や所定労働日数の状況を分析すると、多くの企業で計画年休の導入を検討すべきだと考えます。

 

 

日本人の年休取得の状況

日本の年休の消化率は世界最下位などとも言われています。

旅行サイトExpediaの2017年の調査結果(以下、「エクスペディア調査結果」という。※)によれば、日本人の年休消化率は50パーセント(平均有休支給日数20日に対して消化日数は10日)にとどまり、2年連続ワースト1位とのことでした。

※日本法人・エクスペディア・ジャパンが2017年12月に発表した調査結果:世界30カ国の有職者(18歳以上)1万5081人を対象とするアンケート調査

なお、厚生労働省の統計資料でも、1年間に企業が付与した年次有給休暇日数(繰越日数を除く。)は労働者1人平均18.2日、そのうち労働者が取得した日数は9日で、取得率は49.4パーセントであり、エクスペディア調査結果と同程度の数値でした(平成29年就労条件総合調査)。
また、エクスペディア調査結果によれば、労働者が転職活動において重要視することのトップが「より多くの有給が取得可能」とあげられています。

このようなデータからすると、年休の消化率を上げることは、従業員の満足度を向上させる一手段となりそうです。また、採用活動においては、自社の有給消化率をアピールすれば、より多くの人材が集まる可能性もあります。

 

日本人の休日数は意外に多い

休日日本人の年休消化率が低いことからすると、日本人は「働きすぎ」というイメージを持たれがちです。

しかし、日本人の休日数は、世界的に見ても多いようです()。

2018年の日本の祝日(振替休日を含む。)は20日で、このうち土日の7日を除外すると13日が土日以外の休日となります。

また、日本では、年次有給休暇とは別にお盆の夏季休暇と年末年始休暇を設けている企業があります。

例えば、夏季休暇が8月13日から15日、年末年始休暇が12月30日から1月3日までの場合、これらを祝祭日に加えると、土日とは別に年間21日が休日となります。

以上から、日本人の年休消化率が低いのは、そもそも休日の日数が多く、たくさんの年休を取得する必要がないともいえそうです。

※2017年5月のPRESIDENT Onlineによれば、日本の祝祭日は世界一と紹介されています。http://president.jp/articles/-/21927

 

計画年休の有効活用

従業員

前記のとおり、従業員満足度や人材獲得のために、有給の消化率を上げることは重要です。

しかし、あまり休日が多いと、企業の生産活動にブレーキがかかってしまい、成長は望めません。

企業の成長スピードが鈍ると、結果としてそこで働く従業員やその家族が困ることとなります。

大切なことは、「働きすぎ」でも「休みすぎ」でもない「適切な休日」を付与することです。

そのために、計画年休は有効と考えます。

すなわち、計画年休は、一定数の年休については、労働者に対して取得を強制する効果を有します。

そのため、年休の消化率は上がります。

また、例えば、8月13日から15日までの間を夏季休暇としてではなく、計画年休の対象とすれば、年休の消化率を上げながら、全体の休日数を増加させることはないので、「休みすぎ」を抑制できます(※)。

 

※すでに就業規則や労働契約において夏季休暇を付与すると規定している場合、これを廃止することになるため、「不利益変更」の問題が生じます。

具体的に、いつ、どの程度の日数を計画年休とすべきかについては、企業の実情によって検討すべきであり、一概には言えませんが、働き方改革が求められている現在、計画年休の導入は十分検討に値します。

すなわち、今国会(第196回国会)で成立した改正法のうち、年休について、使用者は、10日以上の年休が付与される労働者に対し、5日について、毎年、時季を指定して与えなければならないとされました(改正労基法39条7項)。

ただし、労働者が自ら年休を取得した場合か、又は、計画年休によって年休を取得した場合の当該日数分については、使用者が年休の強制付与の義務から解放されます(同条8項)。

この改正によって、年休消化率が低い企業は、雇用管理に多大な影響を受けることが想定されます。

そのため、年休消化率が低い企業ほど、計画年休の導入について、積極的に検討すべきでしょう。

 

計画年休の導入方法

計画年休を導入するためには、労使協定が必要です。

すなわち、使用者は、事業場の過半数労働者を組織する労働組合または過半数労働者を代表する者との書面による協定により年休を与える時季についての定めをすることで、計画年休を導入できます。

なお、この労使協定については労基署への届出は不要です。

労働者の同意や就業規則の定めが必要か?

解説する弁護士のイメージイラスト計画年休制度を導入する際、計画年休を定める労使協定のほかに、労働契約上の根拠(労働者の同意や就業規則の定め)が必要か否かについて問題となります。

すなわち、時間外労働に関する労使協定(いわゆる三六協定)は、免罰的効果しかないと解されており、労働者に時間外労働が認められるためには、労働者の同意や就業規則の規定などの労働契約上の根拠が必要であると考えられています。

そこで、計画年休の労使協定も、三六協定と同じように考えるべきか否かが問題となります。

この問題について、労働者の同意や就業規則の定めは不要と考える見解があります。

この見解は、計画年休制度の趣旨や、年休権が労働契約ではなく労基法にもとづいて成立するものであることを根拠としており、妥当であると解されます。

しかしながら、解釈上議論があるところであり、トラブル防止の観点からは、実務上、就業規則にも明記しておいた方がよいと考えます。

就業規則の記載例

第◯条(計画年休)

会社は、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においては、その労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては、労働者の過半数を代表する者と労働基準法第39条第6項に定められる労使協定を締結し、本就業規則で定める年次有給休暇のうち5日を超える部分については、その労使協定の定めるところにより計画的に付与するものとする。

 

計画年休の付与方式

計画年休の付与方式としては、次の3つがあるとされています(昭和63年1月1日基発1号)。

  1. 事業場全体でのいっせい付与方式
  2. 班(グループ)別の交替制付与方式
  3. 年次有給休暇付与計画表による個人別付与方式

導入に当たっては、上記の方法の中から、会社の実態に応じた方法を選択することになります。

以下、労使協定書のサンプルを示しますので、参考にされてください。

労使協定の記載例(いっせい付与)

 ◯◯株式会社(以下、「会社」という。)と従業員代表とは、○○年の年次有給休暇の計画的付与に関して、次のとおり協定する。

第1条(対象者)
この協定により年次有給休暇の計画的付与の対象となる者は、次のいずれかに該当する従業員を除き、会社に常時使用される者とする。
(1)年度初日に年次有給休暇日数が5日以下の者
(2)長期欠勤、休職および休業中の者
(3)産前産後休暇中の者
(4)育児休業・介護休業中の者
(5)その他対象外とすることが適当と認められる者

第2条(年次有給休暇の計画的付与)
会社は、本協定の定めるところにより、従業員の有する年次有給休暇のうち5日を超える日数の部分について、予め時季を指定して与えることができる。
2 ○○年の年次有給休暇のうち○日分については、次の日に与えるものとする。
○月○日、○月○日、○月○日
3 この協定の定めに関らず、業務遂行上やむを得ない事由のため、前項の休暇指定日に出勤を必要とするときは、会社と従業員代表との協議のうえ、休暇指定日を変更するものとする。

○年○月○日
○○株式会社
代表取締役○○○○ 印
従業員代表
◯◯◯◯ 印

 

 

 

次の様式は、計画年休の労使協定のうち、班(グループ)別に付与する場合の記載例です。

班別の場合、いっせい付与と異なり、一定数の人員を確保できます。事業場に一定数の従業員が必要な会社にとっては有効な休暇の付与方式といえます。

労使協定の記載例(班別付与)

(略)
第2条(年次有給休暇の計画的付与)
会社は、本協定の定めるところにより、従業員の有する年次有給休暇のうち5日を超える日数の部分について、予め時季を指定して与えることができる。
2 各課において、その所属の従業員をA、Bの2グループに分けるものとする。ただし、その調整と決定は各課長が行う。
3 各従業員が保有する○年度の年次有給休暇のうち○日分については各グループの区分に応じて、下表のとおり与えるものとする。
Aグループ 8月5日~9日
Bグループ 8月18日~19日
4 社員のうち、その保有する年次有給休暇の日数から○日を差し引いた日数が「5日」に満たない者を本協定の対象とする場合、その不足する日数の限度で、第3項に掲げる日に特別有給休暇を与えるものとする。
5 この協定の定めに関らず、業務遂行上やむを得ない事由のため、前項の休暇指定日に出勤を必要とするときは、会社と従業員代表との協議のうえ、休暇指定日を変更するものとする。
(略)

次の様式は、計画年休の労使協定のうち、個人別に付与する場合の記載例です。

この方式は、いっせい付与や班別付与の場合と異なり、従業員側に休暇時季選択の裁量が与えられています。

したがって、会社が従業員の休暇をあらかじめ指定したいという場合は不向きですが、 有給休暇の消化率を高める点では効果が期待できます。

労使協定の記載例(個人別付与)

(略)
第2条(年次有給休暇の計画的付与)
会社は、本協定の定めるところにより、従業員が保有する○年度の年次有給休暇(以下「年休」という。)のうち、5日を超える部分については6日を限度として計画的に付与するものとする。なお、その保有する年休の日数から5日を差し引いた日数が「6日」に満たないものについては、その不足する日数の限度で特別有給休暇を与える。
2 年休の計画的付与の期間及びその日数は、次のとおりとする。
前期=4月~9月の間で3日間
後期=10月~翌年3月の間で3日間
3 各個人別の年休付与計画表は、各回の休暇対象期間が始まる2週間前までに会社が作成し、通知する。
4 各従業員は、年休付与計画の希望表を、所定の様式により、各回の休暇対象期間の始まる1か月前までに、会社に提出しなければならない。
5 会社は、前項の希望表に基づき、各従業員の休暇日を調整し、決定する。
6 この協定の定めに関らず、業務遂行上やむを得ない事由のため、前項の休暇指定日に出勤を必要とするときは、会社と従業員代表との協議のうえ、休暇指定日を変更するものとする。
(略)

計画年休の活用例

計画年休は、さまざまな時季に活用できます。

以下、一例をご紹介します。

①夏季、年末年始に年次有給休暇を計画的に付与し、大型連休とする場合

例えば、夏季休暇(8月13日から8月15日)や年末年始休暇(12月31日から翌年1月3日)を特別休暇としている会社が、これに有給休暇を付加する形で指定する場合、次のような協定が考えられます。

「2018年の年次有給休暇のうち4日分については、次の日に与えるものとする。8月16日、8月17日、12月4日」

上記の場合、従業員は、特別休暇や土日と合わせると、夏季は8月11日から8月19日まで、年末年始は12月29日から1月6日まで、それぞれ9連休となります。

そして、労使協定で計画年休日として指定された日数分(上記の例では3日分)、労働者が休暇日として自由に指定できる日数は消滅します。

なお、上記は、従業員にいっせいに休暇を取得させる例ですが、例えば、ある従業員については、8月9日と8月10日、12月27日、28日と指定することで、交代制で休暇を取得させることも可能です。

②アニバーサリー(メモリアル)休暇制度を設ける場合

有給休暇の計画的付与を活用して「アニバーサリー休暇」と「多目的休暇」を設けることも考えられます。

例えば、「年次有給休暇のうち、6日分については、次のとおり与えるものとする。

アニバーサリー休暇として、誕生日、結婚記念日等を含む連続3日間。多目的休暇として、従業員個人が自由に設定する連続3日間。」

③閑散期に年次有給休暇の計画的付与日を設け、休暇の取得を促進する場合

例えば、1月と2月が閑散期の場合、次のような協定が考えられます。

「年次有給休暇のうち4日分については、次の日に与えるものとする。1月の第2、第4金曜日、2月の第2、第4金曜日」

 

 

上記のような労使協定で有給休暇日とされた日については、特別の事情が認められる場合を除き、労働者個人がその日に休暇を取る意思のあるなしにかかわらず、休暇日とされます。

なお、裁判例上は、計画年休協定には、「計画年休を与える時季及びその具体的な日数を明確に規定しなければならない。」とし、この要件を満たさない計画年休協定を無効としたものがあります(全日本空輸事件・大阪地判平成10年9月30日)。

しかし、学説上は、計画的に付与する日数とその特定方法(時期・手続など)のみを定めることでも適法とする見解が有力です。

 

 

運用上の注意点

①年休が不足している労働者への配慮

労使協定で計画年休日として指定された日数分、労働者が休暇日として自由に指定できる日数は消滅します。

ただし、労働者が自由に指定できる休暇日数として最低5日は残しておかなければなりません。

したがって、有給休暇の残日数が不足している者をも計画年休の対象とする場合には、特別の休暇を与える、付与日数の増加などの措置が必要となります。

また、そのような措置ととらずに当該労働者を休業させる場合、少なくとも労基法26条の休業手当(平均賃金の60パーセント)の支配が必要と解されます(昭和63.3.14基発第150号)。

ただし、従業員満足度を高めるためには、特別休暇や付与日数の増加を与える措置を取る方が望ましいと考えます。

②時季指定権・時季変更権

労働事件チーム年休は、労働者が請求する時季に与えることとされています(労基法39条5項)。これを時季指定権といいます。

また、労働者から指定される時季に休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合には、使用者に時季変更権が認められます(同条)。

では、計画年休によって、付与することとされた年休について、労働者が時季変更権を行使したり、使用者が時季変更権を行使したりすることは許されるでしょうか。

時季指定権・時季変更権と計画年休の優劣については、計画年休のほうが優先されます。

したがって、時季変更権・時季変更権は認められません。

裁判例においても、会社と過半数組合との間で締結された書面による協定で、年休の時季指定が集団的統一的に特定された場合、「その日数について個々の労働者の時季指定権及び使用者の時季変更権は、ともに当然に排除され、その効果は当該協定により適用対象とされた事業場の全労働者に及ぶと解すべきである」と判示されています(三菱重工業長崎造船所事件 福岡高判平成6年3月24日)。

 

 

 


この記事を書いた人

弁護士 宮崎晃

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