弁護士コラム

「欠勤で罰金」は違法?労働法の視点で読み解くセブンイレブン問題

執筆者
弁護士 西村裕一

弁護士法人デイライト法律事務所 北九州オフィス所長、パートナー弁護士

保有資格 / 弁護士・入国管理局申請取次者

アルバイトが欠勤した際に「罰金」を科すことは、原則として違法です。

労働基準法では、労働者に対する不当な金銭的ペナルティを禁止しており、体調不良による欠勤に対して罰金を課す行為は、法的に問題があると判断される可能性が高いといえます。

ところが、あるセブンイレブンのフランチャイズ店舗で、アルバイトが病欠した際に「シフトに穴を空けた」として罰金を科されていたという報道があり、大きな波紋を呼びました。

こうした対応は、なぜ問題なのか。この記事では、アルバイトにまつわる労働問題の一例として、このケースを取り上げ、法的観点から弁護士がわかりやすく解説します。

病気での欠勤は罰金になる?セブンイレブン「病欠罰金」問題を検証

小規模な店舗では、突然の欠勤が営業に大きな影響を及ぼすことがあります。

経営者としては、急な人手不足を避けるために、従業員の欠勤を抑止したいという気持ちも理解できます。

しかし、欠勤した従業員に対して「罰金」などの金銭的制裁を科すことは、果たして法的に許されるのでしょうか。

たとえば、かつてセブンイレブンのフランチャイズ店舗で、高校生アルバイトが風邪で2日間欠勤した際、「代わりの人を見つけなかった」ことを理由に、9350円が給与から差し引かれていたという報道がありました。

 

この対応の問題性について

アルバイトと使用者(本件ではコンビニのオーナー)は、雇用契約という契約関係にあります。

雇用契約においては、ノーワーク・ノーペイという原則があります。

これは、簡単に言えば、「労働者が労務を提供しなければ、賃金は支払わなくてよい」という原則です。

したがって、たとえ、病気や災害が理由であっても、アルバイトが欠勤すれば、基本的には賃金を支払う必要はありません。

今回、セブンイレブンの件が問題となっているのは、2日間欠勤した合計10時間分に相当する額(時給935円 ☓ 10時間 = 9350円)を賃金から控除するという形で、アルバイトに負担させたことです。

 

 

病欠=罰金は違法?3つの労基法に違反する可能性

今回のような「病欠に対して罰金を科す」対応は、以下の3つの労働基準法に違反する可能性があります。

 

①賠償予定の禁止に違反する可能性(労働基準法16条)

労働基準法16条は、「使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない」と規定しています。

今回、マスコミ報道によれば、セブンイレブンの加盟店は、欠勤時に代わりに働くアルバイトをさがさなかった場合、その欠勤した時間に応じた時給をペナルティとして給与から差し引いていたとのことです。

仮に、これが事実であれば、賠償額を予定していたといえ、労働基準法に違反する可能性があります。

 

②賃金全額払いの原則に反する可能性(労働基準法24条)

労働基準法24条1項は「賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。」と定めています。

したがって、仮に突然の欠勤で加盟店に損害が生じたとしても、その損害額を労働者の同意なく控除することは、同法に違反する可能性があります。

 

③正当な欠勤に対する制裁として不適切な可能性(労働基準法91条)

本件は、アルバイトの高校生が「病欠」だったと報道されています。

そうだとすれば、病気による欠勤は正当な理由がある欠勤であり、これに対する懲戒処分は認められないと考えられます。

 

無断欠勤だった場合の罰金は違法になる?

では、仮に無断欠勤だった場合はどうでしょうか。

無断欠勤のような非違行為があった場合、就業規則に基づき、懲戒処分を課すことは可能です。

懲戒処分には、譴責、戒告、減給、出勤停止などがあります。

しかし、労働基準法は、「減給は、1回の額が平均賃金の1日分の半額を超え、総額が1賃金支払期における賃金の総額の10分の1を超えてはならない」として減給の制限を設けています。

これは、賃金が労働者の生活にとって欠かせないものであることから設けられた規定です。

例えば、平均賃金の1日分が1万円の労働者の場合、減給の1回の上限は5,000円となります。

本件では、アルバイトの方の平均賃金は不明ですが、9,350円も控除しているため、この上限規制にも違反する可能性があります。

 

 

違法行為が招く企業が被るリスクと損失とは?

このような違法行為があった場合、企業はどのような損失を被るでしょうか。
訴訟等のリスク

賃金不払いの場合、労働者側から訴訟、労働審判等の法的措置を取られる可能性があります。

訴訟等で企業が敗訴した場合、当然、労働者に対して賃金を支払う必要があります。

訴訟等では、これに対応するための人件費、弁護士費用等も負担となります。

 

社会的信用の失墜

現代社会では、SNSの発達により、あらゆる情報が瞬く間に広がります。

企業の違法な労務管理が発覚すると、ブラック企業のレッテルが貼られ、企業の信用は失われかねません。

このような社会的信用の失墜は、訴訟よりも深刻です。

 

人材の不足

ブラック企業のレッテルが貼られると、採用が難しくなり、人材の確保が困難となる恐れがあります。

 

企業価値の毀損

上場企業等の不祥事は、株価の下落等を招き、企業価値が毀損する恐れがあります。

 

 

違法リスクを回避するために企業が取るべき対策

では、本件のような事態を未然に防止するため、どのようにすべきでしょうか。
違法リスクを回避するために企業が取るべき対策

 

フランチャイズ契約における留意点

本件は、セブンイレブンの直営店ではなく、フランチャイズ契約を締結した加盟店(フランチャイジー)の事案のようです。

フランチャイズ契約において、本部と加盟店は、独立性があり、本来、加盟店の賃金不払い問題について、本部は関係がないとも考えられます。

セブンイレブンも、自社のフランチャイズについて、「加盟店(セブンイレブン・ジャパン)と本部が対等の立場で、独立性を保ちながら取り組む共同事業である」と紹介しています。

しかし、たとえフランチャイズ契約であったとしても、世間はそのように捉えてくれないでしょう。

今回のような問題が発生すると、世論は、セブンイレブン全体の問題であると捉えられる恐れがあります。

おそらく、フランチャイズ契約書の中で、加盟店には法令遵守を義務付ける規定があると思います。しかし、それだけでは不十分です。

そのため、加盟店のオーナーに対して、労務管理のセミナーを実施したり、アドバイザーを派遣したりする等のより積極的な取り組みが必要といえます。

 

就業規則の徹底

欠勤した場合の取り扱いについて、適法な就業規則(賃金規定)を作成するのが出発点となります。

もっとも、就業規則は作成するだけでは意味がありません。

適法な就業規則を周知徹底し、例外的な運用がないようにすべきです。

 

管理職(店長)への教育

現在、管理職は、基本的な労働法令は把握しおくべきです。

そのため管理職に対して、労務管理についての教育を行うとトラブル防止につながります。

 

専門家への相談

信賞必罰は経営にとって重要ですが、減給等、従業員に対する不利益処分は、労使トラブルの原因となります。

懲戒処分等を課す場合、事前に労働問題に精通した弁護士へのご相談をお勧めします。

例えば、当事務所では、顧問先企業に対して、人事上の措置をする場合、事前に相談してもらうようにしています。

こうすることで、適切な措置を行い、トラブルを未然に防止できます。

 

柔軟な勤務体系

従業員が病気の場合、当然休ませなければなりません。

このような緊急時においては、他の従業員(例えば非番の者)に対して、勤務日や勤務時間の変更を命ずることができれば、店舗を運営することが可能です。

 

 

まとめ

もっとも、そのような柔軟な勤務体系をとれるようにするためには、就業規則や雇用契約書に明記しておく必要があります。

自社の就業規則等がどのようになっているか、確認し、必要があれば見直しを検討されてはいかがでしょうか。

当事務所の弁護士は、労使トラブルを未然に防止するため、企業や士業の方の相談に積極的に対応しています。

まずはお気軽にご相談ください。

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