弁護士コラム

妊娠で降格は違法? 最高裁マタハラ判決に企業が学ぶべき教訓

執筆者
弁護士 西村裕一

弁護士法人デイライト法律事務所 北九州オフィス所長、パートナー弁護士

保有資格 / 弁護士・入国管理局申請取次者

2014年10月、最高裁判所はマタニティ・ハラスメント(通称「マタハラ」)に関する訴訟で、初めて明確な判断を示しました。

本件は、広島市内の病院に勤務する女性が、妊娠を理由に降格されたことが男女雇用機会均等法に違反するとして、勤務先の病院運営者に対し損害賠償を求めたものです。

一審・二審はいずれも女性側敗訴でしたが、最高裁はこれを破棄し、広島高裁に審理を差し戻しました。

判決では、「明確な同意や特段の事情がない限り、妊娠を理由とした降格は原則違法」という基準を示したうえで、「女性が降格を承諾していたとはいえない」と指摘。

さらに、降格の正当性や業務上の必要性について改めて検討するよう求めています。

本記事では、マタハラの基本的な考え方とこの裁判例から企業が学ぶべきポイントを、労働問題に精通した弁護士がわかりやすく解説します。

マタハラとは?

マタハラとは

マタハラとは、職場において、女性が、妊娠や出産を理由として受ける、精神的・肉体的嫌がらせを指す言葉です。

実際に、妊娠が発覚した際に上司から、「うちの会社は階段を使わなければいけなくて妊婦さんには危険だよ」と退職勧奨を受けたり、雇用時に「妊娠が発覚した場合は契約を更新しません」と妊娠時には解雇する旨の説明をされたりするなど、違法なマタハラと疑われるケースは非常に多いです。

しかし、妊娠や出産を理由とした解雇や降格などの不利益取り扱いについては、男女雇用機会均等法9条で禁じられています。

また、労働基準法19条では産前産後休業期間中及びその後30日間の解雇は禁止されています。

違法なマタハラと評価された場合、企業は、被害者から損害賠償請求をされたり、社会的イメージが低下したりするといったリスクを負うことになります。

参考:婚姻、妊娠、出産等を理由とする不利益取扱いの禁止等(第9条)

参考:労働基準法 | e-Gov 法令検索

 

 

 

 

マタハラを防ぐために企業がすべき対策

最高裁が原判決を破棄し、高裁に審理を差し戻したことで、女性側が逆転勝訴する可能性が高まりました。

この動きは、企業に対し、マタニティ・ハラスメント(マタハラ)防止への本格的な取り組みが強く求められていることを意味します。

万が一、マタハラが発生した場合、損害賠償責任だけでなく、企業イメージの悪化や職場の信頼低下にもつながりかねません。

以下に、企業が実践すべき具体的なマタハラ防止策を紹介します。

 

社員教育を徹底する

マタハラは、働く妊産婦に対する意識の低さが原因で生じます。

従業員に対し、マタハラは違法となりうることに加え、実際にどのような言動が違法なマタハラとなるおそれがあるのかなどという点について、意識改革のための研修を行うことが有用です。

 

育児・妊娠に配慮した制度(育児短時間勤務制度)を整備する

育児短時間勤務制度とは、3歳未満の子を養育する従業員が希望した場合、従来の勤務時間(日数等)を短縮して勤務することができる制度です。就業規則等で規定しておく必要があります。

妊娠中もしくは出産後の女性が、妊娠前のように働くことができない時期については、育児短時間勤務制度を用いて、配慮するといいでしょう。

少子高齢化の現代社会において、女性従業員は企業にとって貴重な戦力でもあります。早期にマタハラ対策を講じ、有用な人的資源を活用しましょう。

 

 




  

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