飲み会でのセクハラ|該当事例や対処法を弁護士が解説
「会社の飲み会で足を触られ、嫌な気分になった。これってセクハラになるの?」
このような疑問をお持ちではありませんか?
職場の飲み会では気が緩みがちで、不必要なボディタッチや性的な発言が横行することがよくあります。
被害者の方も、雰囲気を壊したくないなどの気持ちから、我慢してしまうこともあるでしょう。
この記事では、飲み会でよくあるセクハラの具体例から、被害に遭ったときの対処法、相談先、会社の責任までわかりやすく解説します。
職場のハラスメントに詳しい弁護士が解説しておりますので、参考になさってください。
目次
飲み会でのセクハラとは?
セクハラの定義
セクハラとは、セクシュアルハラスメントの略で、職場において行われる相手方の気持ちを無視した性的な発言や性的な行動をいいます(執筆者の定義)。
飲み会は、居酒屋などの「職場」で行われないことも多いと思いますが、後ほど詳しく説明するとおり、飲み会の場でもセクハラについて会社が責任を負うこともあり得ます。
飲み会でセクハラが起きやすい理由
飲み会でセクハラが起きやすい理由としては以下のようなものが挙げられます。
断れない「暗黙の強制参加」となっている
本当に任意の飲み会であれば、参加自体を断ることもできるでしょう。
もっとも、「例年全員参加している」などと言われ、暗黙の強制参加となっているケースもあるかと思います。
そのような飲み会では、様々な方が参加することになり、上司のお気に入りの従業員はターゲットになりやすいと考えられます。
実質的に仕事の延長線上で上下関係が影響する
飲み会自体が業務といえなくても、その場では仕事上の立場は影響するといえます。
上下関係が影響することによって、下の立場の方が上の立場の言動等に対して明確な拒否をしづらいということもセクハラが起きやすい原因といえます。
お酒による判断力の低下と言い訳できる環境
セクハラが起きた場合、「酔っていて覚えていない」などの言い訳をよく耳にします。
本当に覚えていないかどうかはさておき、このような言い訳ができてしまう環境もセクハラが起きやすい原因の一つです。
場の空気を壊したくないという環境
職場の飲み会は、今後も業務上の関係性が続くコミュニティでの宴会であるため、今後の関係性を気にして、言動等に対する声を挙げにくいということも挙げられます。
飲み会でのセクハラのよくある事例
以下では飲み会でよくある事例をご紹介いたします。
ボディタッチをする
必要以上に身体を触ったりすることはセクハラの典型です。
太ももを触ったり、肩を寄せたりすることが飲み会では起こりやすいです。
説教をする
性的な質問を執拗に繰り返したり、プライベートな性に関する話を聞き出し、それに対して自分の価値観を押し付けたり、説教をしたりする行為もセクハラにあたります。
二次会と称して二人きりになろうとする
相手が嫌がっているにも関わらず、二次会と称して個別に「二人きりになろう」と誘う行為も、セクハラになり得ます。
ひどいケースだと、タクシーに無理やり二人で乗り込もうと力ずくで車両に押し込むなどの行為も見受けられます。
飲み会でのセクハラで会社に責任を問うことはできる?
業務外でも問えるケースとは?
飲み会は職場外(例えばレストランや居酒屋)で行われることも多く、厳密に言えば「職場」ではないため、セクハラとはいえないのではないかと考える方もいらっしゃるかもしれません。
結論から申し上げると、職場外での飲み会でも、業務の延長といえるような飲み会であれば、会社は使用者責任(民法715条)や安全配慮義務違反による債務不履行責任(民法415条)により損害賠償責任を負う可能性があります。
参考:民法|e-Gov法令検索
業務の延長の飲み会とは以下のようなケースが挙げられます。
- 強制参加の飲み会
- 会社の業務上の会議も予定されている飲み会
- 会社が全て費用負担をし、会社名で予約をする飲み会
- 取引先との接待を含む飲み会
飲み会でのセクハラの実際の判例
判例 福岡地判平成27年12月22日(事案の概要)
派遣社員として働いていた女性が、2次会で男性社員からセクシュアル・ハラスメント(セクハラ)を受けたとして損害賠償請求をした事案です。
この事案では、新入社員歓迎会の2次会がスナックであり、その際、カラオケを歌っている女性の派遣社員の太ももを男性社員が抱え上げ、その女性のスカートがずり上がってしまったというものでした。
(裁判所の判断)
裁判所は、男性社員が「女性の承諾なく太ももに触れて持ち上げており、性的羞恥心を害する行為」であったと認定し、男性社員の行為をセクハラと判断しました。
また、勤務時間外、職場外で行われたため、会社も当該男性社員の責任を連帯して負うかが問題になりましたが、「本件行為は,勤務時間終了後に職場外の場所で行われたものではあるものの,原告ほか1名の新入社員歓迎会の二次会であったというのであるから,被告会社の業務に近接してその延長において行われたものと評価でき,被告会社の職務と密接な関連性があり,その事業の執行につき行われたと評価すべきである。」とし、会社にも損害賠償責任を認めました。
今回、会社の負う損害賠償責任は、「使用者責任」(民法715条)と呼ばれるものです。
民法715条1項によると、「その事業の執行について」従業員が第三者に損害を与えた場合に、使用者責任が認められることになります。
参考:民法|e-Gov法令検索
今回は、歓迎会の2次会の場でセクハラ行為が行われており、事業の執行についてといえるかが問題となりましたが、裁判所は職務との密接な関連を認めてこの要件を満たすと判断しました。
飲み会でセクハラ被害への具体的な対処法
セクハラされたその場での対処法
セクハラをされた場合に、その場でできることとしては以下のようなものが挙げられます。
拒否の意思表示を明確にする
セクハラ言動等を明確に拒否する意思表示をするのが理想的です。
場合によっては、「それはセクハラですよ。」と伝えることも重要です。
席を離れ距離を取る
さりげなく席を離れ別の席に移動して距離を取り、物理的にセクハラをされない環境を作ることも手段として挙げられます。
後日の対応のために必要な記録・証拠
セクハラは言った言わない、やったやらないの水掛け論になりがちです。
そのため、証拠を残しておくことが重要です。
例としては、動画や写真撮影、日記やメモに記録する、目撃していた方に後日の証言を頼むなどが考えられます。
どこに相談すべき?飲み会でのセクハラ被害の相談窓口
セクハラ被害者が相談すべき場所は、以下のとおりです。
- 会社のセクハラ相談窓口
- 労働基準監督署
- 労働組合(ユニオン)
- 弁護士
飲み会でのセクハラ被害を弁護士に相談すべきケース
精神的苦痛が大きい
セクハラの態様がひどく、精神的苦痛が大きい場合は弁護士に相談すべきです。
特に、会社を休みたいほどの気持ちになっている場合は、相当の精神的負担がかかっている表れですので、一度相談されることをお勧めいたします。
会社が対応してくれない
会社に相談してもそれ相応の対応がなされない場合もありますので、専門家のアドバイスを受けるべきでしょう。
損害賠償を求めたい
例えば、労働基準監督署に相談しても、損害賠償請求の代理は行ってくれません。
そのため、加害者や会社に損害賠償を考えている場合は、弁護士に相談するようにしてください。
訴訟を視野に入れたい
訴訟の代理は、一部の例外を除き、基本的には弁護士しかできないため、訴訟を視野に入れている場合は弁護士に相談するのが一番適切です。
飲み会でのセクハラを防ぐために会社が実施すべきこと
会社では、セクハラは絶対にやってはいけない行為であるということをトップのメッセージとして発信し、セクハラを未然に防ぐことが必要です。
また、どのような行為がセクハラに当たるのかということを社内に周知したうえ、定期的にセクハラ研修などを行うことで、従業員のセクハラに対する意識を高める必要があります。
よくある質問Q&A
飲み会の誘い自体がハラスメントになることはある?

飲み会に誘うこと自体は、原則的にハラスメントにはあたりません。
もっとも、相手方が嫌がっているにも関わらず、承諾するまでしつこく飲み会に誘う行為はハラスメントに該当する可能性が高いです。
飲み会でのアルハラとは?

例としては、一気飲みの強要、飲めない人を罵倒するなどの行為がアルハラに該当します。
職場での飲み会では、セクハラ、パワハラ、アルハラなどがそれぞれ起きやすいといえます。
まとめ
普段温厚な上司でも、飲み会になると豹変する方が少なからずいらっしゃいます。
本来は楽しいはずの飲み会が、セクハラをされると一生の傷を負ってしまう被害者の方もいて、決して軽視できる問題ではありません。
この記事をご覧になったセクハラ被害者の方に少しでも道筋を示すことができればと思い、執筆させていただきました。
最後までご覧いただき、ありがとうございました。
