弁護士コラム

病気にならなくても慰謝料は請求できる?長時間労働に関する判例を解説

執筆者
弁護士 鈴木啓太

弁護士法人デイライト法律事務所 パートナー弁護士

保有資格 / 弁護士

病気を発症していなくても、過酷な労働環境によって精神的苦痛を受けた場合には、慰謝料を請求できる可能性があります。

実際、長崎地方裁判所大村支部では、従業員に対して過去2年間にわたり毎月90時間を超える時間外労働(最大で月160時間)を強いていた会社に対し、30万円の慰謝料支払いを命じる判決が出されました。

この判決は、「長時間労働そのものが違法であり、精神的苦痛の原因となる」と裁判所が判断した点で重要です。

本記事では、この判例をもとに、長時間労働と慰謝料請求の関係について、労働問題に精通した弁護士がわかりやすく解説します。

長時間労働とも深く関係する「安全配慮義務」とは?

安全配慮義務違反とは

会社は、従業員の安全と健康を守る「安全配慮義務」を負っています。

これは、働く人が安心して労働できる環境を整えるという、企業の基本的な責任です。

労働契約法第5条では、「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」と規定されており、安全配慮義務について明文化されています。

安全配慮義務についてさらに詳しく知りたい方は、以下のページをご覧ください。

 

 

病気未発症でも慰謝料が認められた理由とは?

通常、従業員が会社に慰謝料を請求する場合、安全配慮義務の違反と、それによる損害の発生を主張する必要があります。

本件のように、長時間労働に対する慰謝料請求に関しては、長時間労働の結果、うつ病等の病気を発症してしまったことを主張して、慰謝料請求されることが多いです。

本件では、従業員側の具体的な主張は確認できていないので分かりませんが、おそらく、上記のように、長時間労働をさせられ病気を発症したので、慰謝料を請求するという構成で慰謝料請求したのではないかと思われます。

しかし、今回の判決では、病気の発症について認めていないのです。

判決文の中で、従業員の心身の不調を認める医学的証拠はないとして、従業員の病気の発症を否定しています。

にもかかわらず、慰謝料の請求を認めている点に、今回の判決の特殊性があります。

長崎地裁大村支部は、病気は発症していないものの、長時間労働を2年にわたり従事させたことにより、従業員の人格的利益を侵害したとして、慰謝料の請求を認めたのです。

人格的利益とは?
憲法13条に由来する権利利益のことであり、個人が生活を営む上で、保護されなければならない利益のこと

 

 

 

長時間労働はどこまで許される? 法改正と判決の関係

今回の判決は、長時間労働により病気が発症する前の段階でも人格的利益を侵害を認定し、慰謝料請求を認めるというもので、長時間労働を許さないという社会の流れに沿った判決になっています。

もっとも、残業をさせること自体が違法ということではなく、適切な手続きをとっていれば、従業員に残業をさせることは、当然可能です。

問題は残業をさせる程度の問題です。

長時間労働に関して法改正がなされ、2019年4月1日から、一部業種を除いて単月で100時間以上労働させることは禁止されています。

その他にも長時間労働の規制が設けられています。

ですから、単月で100時間を超えるような労働時間が続いているような場合には、今回の判決のように、病気が発症していなくても人格的利益を侵害しているとして慰謝料を認める判決が出る可能性はあるでしょう。

報道によれば、会社側は控訴する予定とのことであり、判決は確定しない可能性もあります。

控訴した場合は、高等裁判所で審理され何らかの判断がなされることになるので、今後の裁判所の判断に注目していく必要があるでしょう。

 

 




  

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