弁護士コラム

マタニティ・ハラスメントについての裁判例の考察

執筆者
弁護士 西村裕一

弁護士法人デイライト法律事務所 北九州オフィス所長、パートナー弁護士

保有資格 / 弁護士・入国管理局申請取次者

弁護士竹下龍之介マタニティ・ハラスメントについて、本稿では、裁判例をもとに考察したいと思います。

本稿でとりあげる裁判例(平成28年4月19日福岡地裁小倉支部)の事案の概要は、以下のとおりです。

 

マタニティ・ハラスメントについての裁判例

裁判官本件は、介護サービスを営む会社とその従業員の紛争になります。

原告である従業員女性は、営業所の所長と会社を共同被告としたうえで、以下のとおりの請求を行いました。

判例 マタハラ及びパワハラにおいて、500万円の損害賠償を求めた事案

すなわち、所長は、職場の管理者として、妊婦であった原告の健康に配慮し、良好な職場環境を整備する義務を負っていたが、原告から他の軽易な業務への転換を求められたにもかかわらず転換せず、また、時間給の原告の勤務時間を一方的に圧縮したり、原告を無視するなどのマタニティ・ハラスメント及びパワー・ハラスメントをして上記義務を怠り良好な職場で働く原告の権利を侵害したとして、営業所の所長と会社に対し、500万円の損害賠償を求めたものです。


この事案で、裁判所は、営業所の所長が、原告に対し面談時に、
「制服も入らんような状態でどうやって働く?」
「きついとか、そんなのもあるかもしれんけど、体調が悪いときは体調が悪いときで言ってくれて結構やし。やけど、もう、べつに私、妊婦として扱うつもりないんですよ。こういうところはもちろんね、そうやけど、人として、仕事しよう人としてちゃんとしてない人に仕事はないですから。」
等と発言したということを認定しました。

もっとも、その発言自体に、嫌がらせの目的があるとまでは認定しませんでした。

裁判例しかしながら、以下のように述べ、結論としては、少額ながら、原告の損賠賠償を認めたのです。

すなわち、かかる営業所長の発言は、嫌がらせの目的は認められないにしても、相当性を欠き、社会通念上許容される範囲を超えたものであって、妊産婦労働者の人格権を侵害するものと判示したうえで、会社が、職員の面談又は妊娠の報告後、早期に業務軽減に対応しなかったことは、従業員の職場環境を整え、妊婦であった職員の健康に配慮する義務又は労働契約上の就業環境整備義務に違反したと認定しました。

そのうで、損害賠償として35万円を認めました。

【平成28年4月19日福岡地裁小倉支部】

このように、妊娠中の従業員に対する発言がマタニティ・ハラスメントと認定されるのに、嫌がらせの目的があるかどうかは関係ありません。(関係ないというと語弊がありますが、嫌がらせの目的がないんだからマタニティ・ハラスメントにはあたらないというロジックは裁判所では通用しません。)

経営者の方は、妊娠中の女性従業員を指導する際には、自身に嫌がらせの目的がないにせよ、発言方法や内容には十分にご注意ください。

ハラスメントにおいては、発言者側の意図よりも、被害者とされる従業員側の捉え方が重要視される傾向にあります。

より詳しく知りたい方は、ハラスメントの問題に詳しい当事務所の弁護士にご相談されることをおすすめいたします。

 

 




  

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