弁護士コラム

同一労働同一賃金の原則についての最新裁判例

執筆者
弁護士 木曽賢也

弁護士法人デイライト法律事務所 パートナー弁護士

保有資格 / 弁護士

同一労働同一賃金の判例

長澤運輸事件(最判平成30年6月1日民集第72巻2号202頁)

事案の概要

定年後に、嘱託従業員として1年契約で再雇用されたトラックの運転手らが、正社員と同一の仕事なのに賃金に2割前後の格差があるのは違法だと主張し、雇用主である運送会社を訴えていた事案です。

 

裁判所の判断

裁判所は、賃金の手当ごとに差異を設けることについて不合理であるかどうかを判断しています。

以下、賃金の手当ごとの判断です。

賃金の項目 正社員 定年後嘱託社員 最高裁の判断
能率給・職務給 あり なし 不合理ではない
精勤手当 あり なし 不合理
超勤手当(時間外手当) あり なし 不合理
住宅手当・家族手当 あり なし 不合理ではない

※その他にも、役付手当、賞与の支給に差異がありましたが、最高裁では不合理ではないと判断されました。

能率給・職務給については、定年後嘱託社員の基本給や歩合給が増額され、能率給や職務給の代わりの補填があることなどが考慮され、不合理ではないとされました。

精勤手当は、1日も欠かさずに出勤することを奨励する趣旨の支給であり、正社員と定年後嘱託社員の職務が同一である以上、皆勤を奨励する必要性に相違はないとされ、不合理なものと判断されました。

超勤手当(時間外手当)については、上記のとおり精勤手当を定年後嘱託社員に支給しないことが不合理とされたため、正社員の時間外手当の計算基礎には精勤手当が含まれる一方で、定年後嘱託社員には含まれないという差異が生じ、これが不合理であると判断されました。

住宅手当・家族手当については、正社員には幅広い世代の労働者がいて住宅費や家族の扶養に必要性がある一方で、定年後嘱託社員は老齢厚生年金の支給を受けることができるなどの理由から、差異は不合理ではないとしました。

参考判例:最判平成30年6月1日民集第72巻2号202頁|最高裁ホームページ

 

大阪医科薬科大学事件(最判令和2年10月13日労判第1229号77頁)

事案の概要

私立大学の教室事務を担当する正社員とアルバイト職員(有期雇用労働者)について、賞与、私傷病による欠勤中の賃金、夏季特別休暇の差異があった事案です。

裁判所の判断

裁判所は、差異のある項目ごとに不合理性を判断しました。

以下、項目ごとの判断です。

差異の項目 正社員 アルバイト職員 最高裁の判断
賞与 年2回の支給 なし 不合理ではない
私傷病による欠勤中の賃金 6ヶ月間は給与全額、その後2ヶ月間は2割の給与支給 なし 不合理ではない
夏季特別休暇 あり なし 不合理

賞与については、正社員とアルバイト職員の業務内容や責任の違い、配置転換の有無の違い、アルバイト職員には正社員登用制度が設けられていたことなどから、差異は不合理ではないとされました。

私傷病による欠勤中の賃金の違いについては、その支給する目的について、正社員が長期的に就労することによる生活保障の趣旨で、アルバイト職員はその趣旨が妥当しないことなどから、差異は不合理ではないとされました。

夏季特別休暇は、蒸し暑い夏において心身のリフレッシュをするためのものであり、正社員とアルバイト社員で差異を設ける必要性がないと判断した高裁判決を維持して、差異を不合理としました。

参考判例:最判令和2年10月13日労判第1229号77頁|最高裁ホームページ

 

 

同一労働同一賃金とは?

労働同一賃金とは?同一労働同一賃金とは、正社員と非正規社員(有期雇用社員、アルバイト・パート社員、嘱託社員、派遣労働者等)との間で、同一の職務を行う場合等には、不合理な待遇格差をなくすという考え方です。

同一労働同一賃金を定める法律としては、短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律(いわゆる「パートタイム・有期雇用労働法」)第8条、労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(いわゆる「派遣法」)第30条の2などがあります。

参考:短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律|e-Gov法令検索

参考:労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律|e-Gov法令検索

また、厚生労働省は、同一労働同一賃金に関するガイドラインを公表しています。

参考:同一労働同一賃金ガイドライン|厚生労働省

 

 

判決のポイント

長澤運輸事件や大阪医科薬科大学事件に共通していえることは、差異の項目の性質や支給目的を客観的に認定していることです。

また、業務内容や責任の程度の違いや、差異の理由についても検討されています。

そして、業務内容が同一の場合は、業務内容以外の理由で差異の合理的な説明ができるかどうかが判断のポイントになります(長澤運輸事件)。

他方で、業務内容や責任の違いがある場合には、その違いに対する支給であると認められれば不合理ではないとされ(大阪医科薬科大学事件の賞与・私傷病による欠勤中の賃金)。

逆に業務内容や責任の違いに対する支給とはいえず、差異を設ける具体的な理由を説明できない場合には不合理と判断されている印象です(大阪医科薬科大学事件の夏季特別休暇)。

正社員と有期雇用社員等の労働条件の格差が認められるかについては、上記の裁判例を意識しつつ、業務内容や責任の違いから当該格差を説明できるかどうか等が重要になります。

現代においての会社の人事設計は、同一労働同一賃金を度外視することはできません。

そして、裁判例を深く理解していなければ、適切な設計ができず、後々違法と判断されるリスクがあります。

同一労働同一賃金についてお困りの方は、労働に注力する弁護士にぜひ一度ご相談をされることをお勧めします。




  

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