弁護士コラム

たかの友梨がブラック!?パワハラと不当労働行為問題

執筆者
弁護士 西村裕一

弁護士法人デイライト法律事務所 北九州オフィス所長、パートナー弁護士

保有資格 / 弁護士・入国管理局申請取次者

先日、ニュースでたかの友梨ビューティークリニック(運営会社不二ビューティー)がブラック企業大賞にノミネートされたという記事を見ました。ニュースによれば、事の発端は、たかの友梨仙台店において、労働環境に問題があったというものです。すなわち、同店の女性従業員が加入するブラック企業対策ユニオンは、同店では、下記の労働問題があったと主張しています。

① 1カ月あたり平均80時間に及ぶ残業
② 休憩が取れず、昼食やトイレにも行けないことも
③ 定休日どおりに休めず、休日出勤への手当もない
④ 「誰も取っていない」などと説明され、有給休暇を取得できない
⑤ 残業代の未払い
⑥ 産休取得の妨害
⑦ 商品が売り上げ目標に届かないと、カードローンなどで自腹購入させられる
⑧ 研修費など会社が負担すべき経費が、給与から天引きされる
⑨ 配置転換をしない約束を無視するなどの不当な異動命令
⑩ 労使協定書の従業員側の署名・押印を、従業員本人に無断で作成

023823.jpgまた、ニュースによれば、仙台労働基準監督署がたかの友梨仙台店に対して、労働環境の改善を求めたところ、社長の高野友梨氏は、労基署に通報した従業員に「労働基準法にぴったりそろったら、絶対成り立たない。潰れるよ、うち。それで困らない?」などと詰問し、従業員が精神的ショックで出勤できなくなってしまったということです。

さらに、ブラック企業対策ユニオンは、先月28日、高野社長の上記行為が組合活動をしていることに対するパワーハラスメントにあたるとして、宮城県労働委員会に不当労働行為の救済を申し立てたようです。同ユニオンは、記者会見も開き、「パワハラ時の録音」とされる音声記録も公開しています。

上記①から⑩については、あくまでユニオン側の主張であり、事実であったかどうかは不明です(たかの友梨側は事実関係を否定しているようです。)。 ここでは、高野社長の上記発言をめぐる、パワハラと不当労働行為の問題について、考えたいと思います。

 

パワハラ問題

パワハラのイメージイラスト最近は、パワハラという言葉をよくニュース等でも聞くようになりましたが、パワハラの法律的な定義も存在しません。一般的には、上司が職務上の権限を濫用して嫌がらせを行うことを指すことが多いようです。

例えば、労働者に対するいじめ、暴力、暴言、叱責、差別など、パワハラには様々な類型があります。

このパワハラは、法的にどのような問題があるのでしょうか。

労働者が会社に対してパワハラを理由に損害賠償を請求する法的構成としては、①不法行為(使用者責任)の構成と、②債務不履行の構成が考えられます。

①不法行為(使用者責任)

例えば、上司から受けたパワハラが原因でうつ病となり、仕事が出来なくなってしまった場合には、パワハラを行った上司は不法行為責任を負います(民法709条)。また、上司の個人的な責任だけではなく、会社(法人)は、使用者責任も問われます(民法715条)。その結果、慰謝料や仕事ができなくなった期間の年収が請求される可能性も考えられます。

しかし、この不法行為の構成は、時効期間が「損害を知ったとき」から3年とされており(民法724条)、早期に請求権が消滅してしまいます。また、不法行為構成は、請求する労働者側に、使用者側の故意・過失の立証責任が課されており、賠償請求が容易ではありません。

 

②債務不履行

そこで、債務不履行(民法415条)構成での請求が考えられます。

すなわち、会社は、社員に対して良好な職場環境を維持する義務(安全配慮義務、職場環境配慮義務)を負っていると考えられています。そこで、かかる義務違反を主張して、賠償請求する構成です。

この債務不履行構成では、時効期間は、請求できるときから10年であり、長期間賠償請求が可能です。また、使用者側の故意過失の主張立証は必要となりません(ただし、安全配慮義務を立証する必要があると考えられます。)。

なお、パワハラ問題について、くわしくはこちらからどうぞ

 

 

不当労働行為

話し合いのイメージ画像近年、労働者が会社外部の労働組合(合同労組やユニオンと呼ばれています。)に駆け込むケースが急増しています。

このような外部の労働組合から団体交渉を求められた場合、応じなければならないのでしょうか。

見ず知らずの外部の団体に対して、交渉に応じる義務などないように感じられる経営者の方は少なくありません。

しかし、外部の団体であっても、それが雇用する労働者を代表する組合であれば、原則として団体交渉に応じなければならず、正当な理由無く応じない場合、それだけで労働組合法違反となり、不当労働行為となります(労働組合法第7条)。

また、下記の行為も不当労働行為に当たります。

不利益な取り扱い

労働者が労働組合の組合員であることや、労働組合に加入したこと等を理由として、その労働者を解雇したり、不利益な取扱いをすること等は原則として禁止されます。

団体交渉拒否

使用者が団体交渉をすることを拒むことは原則として禁止されます。

支配介入

使用者が労働者が労働組合を結成し、若しくは運営することを支配し、若しくはこれに介入すること、又は労働組合の運営のための経費の支払につき経理上の援助を与えること等も原則として禁止されます。

では、使用者がユニオンへ加入した労働者に対して、非難したり、脱退するように仕向けたりする行為は不当労働行為となるのでしょうか。使用者は、相手が外部の労働組合であっても、誠実に交渉しなければなりません。上記の行為は、不誠実交渉として、実質的な団体交渉拒否に該当するため、不当労働行為(労組法7条2号)となる可能性があります。

団体交渉について、くわしくはこちらをごらんください

なお、高野社長のケースは、ニュースによれば、その発言内容が録音されていたとのことです。

最近は、スマートフォンやICレコーダー等の普及によって、労働者が経営者との会話等を録音しており、後々裁判等では証拠として提出されることが多いです。使用者としては、相手が録音をしているか否かにかかわらず、紳士的な対応をすべきですが、威圧的な発言を行い、今回のようにそれが録音されている場合、後々マス・メディアに取り上げられ、社会的な信用を失墜するおそれがあることを肝に銘じておくべきでしょう。

 

 




  

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