変形労働時間制を採用した場合に時間外労働となる時間

執筆者
弁護士 西村裕一

弁護士法人デイライト法律事務所 北九州オフィス所長、パートナー弁護士

保有資格 / 弁護士・入国管理局申請取次者

は、一定期間内での法定労働時間の変形を認める制度です。

ですから、当該期間内において1週40時間または1日8時間をこえた労働時間が定められていても、超えた時間の部分は時間外労働とはならず、時間外労働手当を支払う必要はありません。

もっとも、変形労働時間制を採用していれば、常に時間外手当を支払わなくてよいのかというとそうではありません。

変形労働時間制を採用していたとしても、時間外労働手当(残業代)を支払わなければならない場合がありますので注意が必要です。

労基署が調査する変形労働時間制のポイントについてはこちらをご覧ください。

1ヶ月単位の変形労働時間の場合

1ヶ月単位の変形労働時間の場合、以下の時間が時間外労働時間となります(最一判平成14年2月28日民集56巻2号361頁、昭和63年1月1日基発1号)。

①1日について

  • 所定労働時間が8時間を越える日は、所定労働時間を超えた時間
  • それ以外の日は、8時間を越えた時間

②1週間について

  • 所定労働時間が40時間を越える週は、所定労働時間を超えた時間
  • それ以外の週は、40時間を超えた時間
    (①で時間外労働となる時間を除く)

③変形期間の全期間について

変形期間における法定労働時間の総枠(1週間の法定労働時間 × (変形期間の日数 ÷ 7日)を超えた時間(①、②で時間外労働となる時間を除く)

以上の時間が時間外労働時間ということになります。

したがって、この時間については時間外労働手当てを支払わなければなりません。

下記表は、それぞれ①~③の計算例です。(※各表や計算式は分かりやすくするために、それぞれ独立した例を用いており、連動しているものではありません)

①の計算

合計
所定労働時間 10 10 10 5 5 休日 休日 40
実労働時間 12 10 9 7 9 0 0 47
時間外労働 2 0 0 0 1 0 0 3

・月曜日 → 所定労働時間を上回っている2時間が時間外労働となります。
・火曜日 → 実労働時間が法定労働時間を上回っていますが、所定労働時間内に収まっているので、時間外労働は発生しません。
・水曜日 → 1日の法定労働時間(8時間)は上回っていますが、所定労働時間内に収まっているため時間外労働は発生しません。
・木曜日 → 実労働時間が所定労働時間を上回っていますが、法定労働時間(8時間)内に収まっているため時間外労働は発生しません。
・金曜日 → 法定労働時間(8時間)を上回っている1時間が時間外労働となります。

 

②の計算

第1週 第2週 第3週 第4週 合計
所定労働時間 50 30 30 50 160
実労働時間 45 45 35 55 180
時間外労働 0 5 0 5 10

第1週 → 所定労働時間内に収まっているため時間外労働は発生しません。
第2週 → 法定労働時間である週40時間を上回っている5時間が時間外労働です。
第3週 → 実労働時間が所定労働時間を上回っていますが、法定労働時間内に収まっているため時間外労働は発生しません。
第4週 → 所定労働時間を5時間上回っているので、その5時間が時間外労働です。

ここで算出された時間外労働時間から、①の計算で算出した時間外労働時間を差し引いた時間が②の計算における時間外労働時間となります。

 

③の計算方法

例えば、変形期間を4週間と定めた場合、

40(1週間の法定労働時間)×(28日(変形期間の総日数)÷7日)=160時間

この160時間が変形期間における法定労働時間の総枠となります。

したがって、この時間を越える実労働時間から、①と②で計算した時間を差し引いた時間が③の計算における時間外労働時間となります。

以上のように、①~③で算出された時間が時間外労働時間となりこの時間については、時間外労働手当を支払わなければなりません。

 

 

1年単位の変形労働時間の場合

1年単位の変形労働時間の場合、以下の時間が時間外労働時間となります(昭和63年1月1日基発1号、平成6年1月4日基発1号)。

① 1日について

  • 所定労働時間が8時間を越える日は、所定労働時間を超えた時間
  • それ以外の日は、8時間を越えた時間

② 1週間について

  • 所定労働時間が40時間を越える週は、所定労働時間を超えた時間
  • それ以外の週は、40時間を超えた時間
    (①で時間外労働となる時間を除く)

③ 変形期間の全期間について

変形期間における法定労働時間の総枠(1週間の法定労働時間 × (変形期間の日数 ÷ 7))を超えた時間(①、②で時間外労働となる時間を除く)

計算方法は、1カ月単位の変形労働時間の場合と同様です。

1年単位の変形労働時間制を採用した場合に注意しなければならないのは、対象期間中に採用された労働者や退職した労働者に対する手当の支払いについてです。

これらの労働者は、週40時間を超える枠が設定されている期間のみ就労して、週40時間未満の枠が設定されている期間において就労していないという場合が生じる可能性があります。

したがって、このような労働者については、実際に働いた期間の労働時間の平均が週40時間を超える場合には、単位期間内の総労働時間が法定労働時間を超えていない場合であっても、時間外手当を支払わなければなりません。

 

 

1週間単位の変形労働時間の場合

1週間単位の変形労働時間の場合、以下の時間が時間外労働時間となります。

① 1日について

  • 事前通知により所定労働時間が8時間を超える時間とされている日は、所定労働時間を超えた時間
  • 所定労働時間が8時間以内とされている日は、8時間を超えた時間

② 1週間について

40時間を超えた時間(①で時間外労働となる部分を除く)

 

以上のように、変形労働時間を採用した場合の時間外労働時間の算定は複雑な計算になることから、お困りの際には、専門家である弁護士にご相談下さい。

 




  

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