通勤災害とは?必要書類や手続・記入例を弁護士が解説

通勤途中に交通事故が起きた場合等、通勤災害に見舞われた場合もいわゆる「労災」にあたります。

本記事では、通勤災害とは何か、必要な書類(記入例も含む)や手続きなどを解説していきます。

通勤災害とは?

通勤災害とは、労働者の通勤による負傷、疾病、障害又は死亡のことをいいます(労働災害補償保険法7条1項3号)。

引用:労働災害補償保険法|e−Gov法令検索

通勤災害の典型例は、出勤途中の交通事故です。

 

通勤災害が支給される条件

通勤災害で支給される条件については、労働災害補償保険法7条2項、3項に規定されています。

労働災害補償保険法7条2項、3項の要件をまとめると、以下のようになります。

【 通勤災害で支給される条件 】

  1. ① 就業に関するものであること
  2. ② 次のいずれかの移動であること
    (1)住居と就業の場所との往復
    (2)就業の場所と他の就業の場所への移動
    (3)住居と就業の場所との間の往復に先行し、または後続する住居間の移動(厚生労働省令で定める要件に該当するものに限る。)
  3. ③ 合理的な経路と方法によること
  4. ④ 業務の性質を有するものでないこと
  5. ⑤ 移動の途中で合理的な経路の逸脱・中断がないこと

参考:労働災害補償保険法|e−Gov法令検索

以下、それぞれ詳しく説明いたします。

 

①就業に関するものであること

「就業に関するものであること」とは、労働者の移動行為が業務に就くため、または業務を終えたために生じることが必要という意味です。

要するに、労働者の移動が業務に密接な関連を持っている場合を指します。

問題となるのは、会社の行事や飲み会への参加に前後する移動中の事故です。

基本的な考え方として、会社の行事や飲み会が

  • 強制参加であれば通勤災害となる
  • 任意参加であれば通勤災害とならない

というような枠組みです。

労働者の移動行為

 

②次のいずれかの移動であること

(1)住居と就業の場所との往復

ここでいう「住居」とは、労働者の就業の拠点となる日常生活の用に供している居住場所のことです。

具体例 住居にあたる例

  • 就業の必要上、家族が住む住居とは別の住居(単身のアパート等)に住んでいる場合
  • 早出出勤・長時間残業・台風等の自然現象のためやむを得ず泊まる会社近くのホテル

次に、「就業の場所」とは、業務を開始し、または終了する場所をいいます。

具体例 就業の場所にあたる例

  • 勤務先の作業場
  • 物品を得意先に届けてそこから直接帰宅する場合の物品の届け先
  • 会社の命令で参加した社外の勉強会の会場

通勤災害となるには、以上の「住居」と「就業の場所」の往復であることが必要です。

(2)就業の場所と他の就業の場所への移動

「就業の場所と他の就業の場所への移動」とは、複数の異なる会社で掛け持ち勤務している場合(副業等)に、1つめの会社から2つ目の会社に移動する場合のことです。

(3)住居と就業の場所との間の往復に先行し、または後続する住居間の移動(厚生労働省令で定める要件に該当するものに限る。)

「住居と就業の場所との間の往復に先行し、または後続する住居間の移動」とは、例えば、単身赴任者が赴任先住居から帰省先住居(家族が住む家等)へ移動することを指します。

ただし、原則、

  1. (1)帰省先→赴任先の移動の場合
    勤務日の当日またはその前日に行われる移動
  2. (2)赴任先→帰省先の移動の場合
    勤務日の当日またはその翌日に行われる移動

であることが必要です。

例外として、悪天候による交通状況によっては、前々日(帰省先→赴任先)や翌々日(赴任先→帰省先)の移動も通勤災害として扱われます。

引用元:平成18年3月31日基発0331042号|厚生労働省通達

 

③合理的な経路と方法によること

合理的な経路と方法とは、労働者が通勤のために通常利用する経路と手段のことをいいます。

合理的な経路

会社に届出をしている経路等は、合理的な経路といえます。

また、労働者が通勤のために通常利用する経路であれば、そのような経路が複数あってもいずれも合理的な経路となります。

さらに、当日の道路状況(道路工事、デモ行進等)等によって迂回する場合も基本的には合理的な経路となります。

具体例 合理的な経路にあたる例

  • タクシー等を利用する場合に、通常考えられる経路が複数あるケースのそのいずれも
  • 共働き労働者が保育園に子どもを預けるために利用する経路
合理的な方法

以下の場合に合理的な方法といえます。

  • 電車やバス等の公共交通機関→◯
  • 徒歩→◯
  • 自家用車や自転車→本来の用法に従っていれば◯

自家用車や自転車については、無免許運転や飲酒運転などを行った場合には合理的な方法とはいえません。

 

④業務の性質を有するものでないこと

業務の性質を有するものは、通勤災害ではなく、業務災害になります

具体例 通勤災害ではなく業務災害となる例

  • 会社が用意した車両で集合場所から実際の作業現場に向かう場合
  • 緊急用務のため、休日に会社から呼び出しを受けて緊急出勤する場合

業務災害について、詳しくはこちらをご覧ください。

合わせて読みたい
業務災害とは?

 

⑤移動の途中で合理的な経路の逸脱・中断がないこと

逸脱とは、就業や通勤とは無関係な目的で合理的な経路をそれることです。

中断とは、通勤の経路上で通勤と関係ない行為を行うことです。

もっとも、些細(ささい)な行為を行う場合には、逸脱・中断とはなりません。

具体例 逸脱や中断の例

  • ゲームセンターでゲームをする
  • 飲酒のため居酒屋に入る
  • 野球の試合を観戦するためスタジアムへ行く

具体例 些細(ささい)な行為として逸脱・中断とはならない例

  • 通勤経路上の店でジュースや新聞を買う
  • 公衆トイレの利用

逸脱・中断があった後は、逸脱・中断をしている間とその後の経路上(本来の通勤経路に戻ったとしても)、通勤とはならなくなります

逸脱・中断の例外〜日常生活上必要な行為〜

「日常生活上必要な行為であって、厚生労働省令で定めるものをやむを得ない事由により最小限度のものである場合」には、逸脱又は中断の間を除き、合理的な経路に戻った後は、再度通勤となります(労働災害補償保険法7条3項、労働災害補償保険法施行規則8条)。

参考:労働災害補償保険法|e−Gov法令検索

参考:労働災害補償保険法施行規則|e−Gov法令検索

【 日常生活上必要な行為に該当する場合 】

  • 日用品の購入その他これに準ずる行為
  • 職業訓練、学校教育法第1条に規定する学校において行われる教育その他これらに準ずる教育訓練であって職業能力の開発向上に資するものを受ける行為
  • 選挙権の行使その他これに準ずる行為
  • 病院又は診療所において診察又は治療を受けることその他これに準ずる行為
  • 要介護状態にある配偶者、子、父母、孫、祖父母及び兄弟姉妹並びに配偶者の父母の介護(継続的に又は反復して行われるものに限る)
逸脱・中断・日常生活上必要な行為のまとめ

逸脱・中断・日常生活上必要な行為

 

 

補償の種類

通勤災害の場合、以下のような補償を受けられる可能性があります。

  • 療養補償給付
  • 休業補償給付
  • 障害補償給付
  • 遺族補償給付
  • 葬祭料
  • 傷病補償年金
  • 介護補償給付
療養補償給付

怪我をした場合の診察代、薬代、手術代等の治療に関連する費用です。

休業補償給付

労働者が負傷等により労働できない場合、賃金を受けない日の4日目から支給される休業補償のことです。

障害補償給付

労働者が負傷等をして治ったが、一定の障害が残ってしまった場合(いわゆる後遺障害)に支給されるものです。

障害補償給付には、障害補償年金と障害補償一時金というものがあります。

遺族補償給付

労働者が死亡した場合に遺族に支給されるものです。

遺族補償給付には、遺族補償年金と遺族補償一時金というものがあります。

葬祭料

労働者が死亡した場合に葬祭に通常必要となる費用の支給のことです。

傷病補償年金

労働者が負傷等により、その療養開始後1年6ヶ月を経過した日またはその日以降に、次のいずれにも該当するときに支給されるものです。

  1. ① 傷病が治ゆ(症状固定)していないこと
  2. ② 傷病による障害の程度が「傷病等級」に該当すること
介護補償給付

障害補償年金または傷病補償年金を受け取る権利を有する労働者が、厚生労働省令で定める程度の常時介護または随時介護を要する状態にあって、実際に常時介護または随時介護を受けているときに支給されるものです。

補償の種類について、詳しくはこちらをご覧ください。

 

 

通勤災害の書類の入手先

通勤災害の必要書類の入手先は、大きく分けて以下の2つです。

①労働基準監督署で受け取る

労働基準監督署に置いてありますので、最寄りの労働基準監督署にお問合せいただき、入手することが可能です。

②厚生労働省のホームページからダウンロードする

以下の厚生労働省のホームページからダウンロードし入手することも可能です。

参加:ダウンロード用(OCR)様式|厚生労働省

 

 

通勤災害の記入例と書き方

以下では、通勤災害でよく提出することが多い書類の記入例や書き方を解説します。

療養給付たる療養の給付請求書(様式第16号の3)

記入例

 


 

書き方

書き方については、基本的に上記の記載例を参考にしていただければと思います。

以下では、ポイントを絞って解説します。

1ページ目
⑨の「労働者の生年月日」⑩の「負傷又は発病年月日」

先頭に、和暦の元号の所定の数字を記載してください。

明治は1、大正は3、昭和は5、平成は7、令和は9です。

また、年月日が1〜9の場合は、左は空白にして右に寄せてください。

 

⑰の「第三者行為災害」

第三者行為災害とは、第三者の行為によって労働者が負傷等をした場合の労災のことです。

典型例としては、交通事故です。

第三者行為災害の場合は「該当する」に◯を、そうではない場合は「該当しない」に◯をしてください。

なお、第三者行為災害の場合は、「第三者行為災害届」というものを所轄監督署に提出する必要があります。

第三者行為災害について、詳しくは以下の厚生労働省のホームページが参考になります。

参考:第三者行為災害のしおり|厚生労働省

2ページ目
(ハ)災害の発生場所

道路上での被災の場合は、現場の住所を記入します。

建物や施設での被災の場合は、その所在地に加え、建物名や施設名も記入します。

現認者の住所・氏名

災害の事実を目撃した方の住所と氏名を記入します。

目撃した方がいない場合には、災害発生の報告を受けた会社の職名と氏名を記入します。

 

休業補償給付の請求書(様式16号の6)

記入例


書き方

書き方については、基本的に上記の記載例を参考にしていただければと思います。

以下では、ポイントを絞って解説します。

1ページ目
診療担当者の証明

この欄については、全て医療機関に記載してもらう必要があります。

 

2ページ目
32労働者の職種

「会社員」などの記載ではなく、具体的な職種を記入する。

43災害の原因及び発生状況
  1. (あ)どのような場所を
  2. (い)どのような方法で移動している際に
  3. (う)どのような物で又はどのような状況において
  4. (え)どのようにして災害が発生したか
  5. (お)⑦と初診日が異なる場合はその理由を簡明に記載すること

を意識して記載します。

 

療養補償給付及び複数事業労働者療養給付たる療養の給付を受ける指定病院等(変更)届(様式第16号の4)

労災指定病院から他の労災指定病院へ転院する場合に提出する書類です。

記入例

提出方法

労働基準監督署(書類によっては、労災指定病院)に持参するか、郵送によって提出します。

 

 

通勤災害の手続き

通勤災害が起きた場合、請求する内容によって若干異なることもありますが、大枠の手続きは以下のとおりです。

①手続に必要な書類を集める

まずは、通勤災害に必要な書類を準備します。

準備の仕方は、上記のとおり、労働基準監督署の備え付けのものをもらうか、厚生労働省のホームページからダウンロードします。

 

②負傷した労働者本人または遺族が通勤災害の必要書類を労働基準監督署に提出

原則的には、労働者本人等が必要書類を労働基準監督署に提出することになります。

ただし、会社が手続きを代行してくれる場合もありますので、会社に相談してみてください。

 

③労働基準監督署の調査官による調査

必要書類が提出されると、請求の内容について労働基準監督署の調査官が労災認定すべきか、給付額をいくらにすべきか等の判断をします

 

④給付決定→給付・不支給決定

上記③の結果、給付が妥当と判断されれば給付決定が出され、給付されることになります。

他方、何らかの要件を欠いた場合等は、不支給決定が出されます。

 

 

通勤災害に関するQ&A

休業補償の金額の計算方法は?

休業補償の金額の計算方法は、以下のとおりです。

《休業補償給付》
(給付基礎日額×0.6)×休業日数

《休業特別支給金》
(給付基礎日額×0.2)×休業日数

休業補償の計算方法等について、詳しくはこちらをご覧ください。

 

通勤中の事故、労災・任意保険・自賠責保険のどれを選ぶべき?

被害者にも一定程度の過失がある事案では、労災を使うべきです。

前提として、通勤途中に交通事故に遭った方は、労災、任意保険、自賠責保険のどれを使うかを選ぶことができます。

そして、労災については、基本的に過失相殺がされないため、最終的な交通事故被害者の受け取り金額が、任意保険・自賠責保険を使った場合よりも多く受け取ることができます。

もっとも、労災には慰謝料がありません。

とはいっても、労災と、任意保険・自賠責保険を併用することは可能ですので、併用してカバーすることもできます(ただし、二重取りはできません)。

 

 

まとめ

  • 通勤災害とは、労働者の通勤による負傷、疾病、障害又は死亡のことをいいます。
  • 通勤災害で支給される条件は、大きく分けて5つあります。
  • 補償の種類には、療養補償給付、休業補償給付、障害補償給付、遺族補償給付、葬祭料、傷病補償年金、介護補償給付などがあります。
  • 通勤災害の書類の入手方法は、①労働基準監督署で受け取る、厚生労働省のホームページからダウンロードするというものです。
  • 通勤災害の手続きは、①手続に必要な書類を集める→②負傷した労働者本人または遺族が通勤災害の必要書類を労働基準監督署に提出→③労働基準監督署の調査官による調査→④給付・不支給の決定というものです。
  • 休業補償の金額の計算方法は、以下のとおりです。
    《休業補償給付》(給付基礎日額×0.6)×休業日数
    《休業特別支給金》(給付基礎日額×0.2)×休業日数
  • 通勤途中の交通事故は、被害者にも一定程度の過失がある事案では、労災を使うべきです。

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