労災の休業補償の期間はいつまで?弁護士がわかりやすく解説

労災は、従業員・会社の双方にとってとても重要な制度です。

しかし、労災の制度は複雑で一般の方には理解しにくい面があります。

このページでは、労災制度にくわしい弁護士が休業補償の期間、休業補償が打ち切りとなる場合、その他休業補償の期間に関してよくあるご相談内容について、わかりやすく解説しています。

労災事故にあわれた従業員の方はもちろん、その対応をされている会社の方にとって、重要となるポイントをまとめていますので、ぜひご覧ください。

 

 

労災の休業補償の期間はいつまで?

労災の休業補償に期間制限はありません。

原則として、補償の要件が満たされる限り補償期間が続きます。

以下で詳しく解説します。

休業時の補償金を受け取るための要件は以下の3点です。

  • 業務上の理由や、通勤によって負傷し、又は疾病にかかり、
  • 療養のために労働することができない場合で
  • 賃金をうけていない場合

この3点を満たす場合には、期間中ずっと、従業員の方は補償金を受け取ることができます。

具体的には、休業の4日目から、要件を満たす限りは、期間の上限なく、国から労災保険による休業補償給付を受け取ることができます(労働者災害補償保険法第14条第1項)。

休業補償給付を受け取れる期間

労働者災害補償保険法第14条第1項

第十四条

休業補償給付は、労働者が業務上の負傷又は疾病による療養のため労働することができないために賃金を受けない日の第四日目から支給するものとし、その額は、一日につき給付基礎日額の百分の六十に相当する額とする。

ただし、労働者が業務上の負傷又は疾病による療養のため所定労働時間のうちその一部分についてのみ労働する日若しくは賃金が支払われる休暇(以下この項において「部分算定日」という。)又は複数事業労働者の部分算定日に係る休業補償給付の額は、給付基礎日額(第八条の二第二項第二号に定める額(以下この項において「最高限度額」という。)を給付基礎日額とすることとされている場合にあつては、同号の規定の適用がないものとした場合における給付基礎日額)から部分算定日に対して支払われる賃金の額を控除して得た額(当該控除して得た額が最高限度額を超える場合にあつては、最高限度額に相当する額)の百分の六十に相当する額とする。

引用元:労働者災害補償保険法|e-Gov法令検索

労働基準法第75条、第76条第1項

(療養補償)
第七十五条 労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかつた場合においては、使用者は、その費用で必要な療養を行い、又は必要な療養の費用を負担しなければならない。

② 前項に規定する業務上の疾病及び療養の範囲は、厚生労働省令で定める。

(休業補償)
第七十六条 労働者が前条の規定による療養のため、労働することができないために賃金を受けない場合においては、使用者は、労働者の療養中平均賃金の百分の六十の休業補償を行わなければならない。

引用元:労働基準法|e-Gov法令検索

そして、負傷または疾病が治癒又は改善して、労働できる状態になれば、休業補償給付はそこで終了となります。

この場合、上記3要件の②が満たされないことになるためです。

 

 

労災とは

そもそも、労災とは何かについても簡単に確認しておきましょう。

労災とは、労災保険制度のことを指します。

労災保険とは、会社等で働く従業員が、業務や通勤のためにケガをしたり、病気にかかった場合に、治療費や休業時の生活費などに充てるために、国がお金を給付する制度です。

なお、この労災のための費用は、原則として会社などの事業主が負担する保険料によってまかなわれています。

そして、この労災における従業員(労働者)とは、「職業の種類を問わず、事業に使用される者で、賃金を支払われる者」をいい、 雇用形態の形式は問われません。

そのため、いわゆる正社員だけでなく、アルバイトやパートタイマー等の方であっても適用されるのが原則です。
合わせて読みたい

労災(労災保険制度)については、こちらのページでより詳しく解説しています。

 

 

休業補償とは?

休業補償とは、労災による補償の1つで、労災の対象となるケガや病気が原因となって休業せざるを得なくなった場合に、その期間の従業員の生活を支えるためになされる補償です。

前述の通り、休業補償を受けるための要件は以下の3点です。

  • 業務上の理由や、通勤によって負傷し、又は疾病にかかり、
  • 療養のために労働することができない場合で
  • 賃金をうけていない場合

この3つの要件が満たされる限り、休業の4日目から、期間の上限なく、国から労災保険による休業補償給付を受け取ることができます(労働者災害補償保険法第14条第1項)。

国から支払われる休業補償金の内容は、以下の通り計算される休業(補償)給付※と休業特別給付になります。

※休業補償給付は業務上の事故の場合、休業給付は通勤途中の事故の場合に給付されるお金であり、両者をまとめて休業(補償)給付といいます。

  • 休業(補償)給付 =(給付基礎日額の60%)× 休業日数
  • 休業特別支給金 =(給付基礎日額の20%)× 休業日数

ここでいう「給付基礎日額」とは、原則として、事故が起きた日や、病気が確定した日(診断された日)の直前の3か月間に、その従業員に対して支払われた給料の総額を日割にした平均の賃金額のことです。

これには残業手当などは含まれますが、ボーナス(賞与)や慶弔見舞などの臨時的な手当はこの給料には含まれないことに注意しましょう。

この給付基礎日額の60%相当額が休業(補償)給付として支払われ、さらに、休業特別支給金から20%が支払われることになります。

(したがって、大まかにいえば、合計して、事故当時の自分の給料の80%分の補償金が支払われると理解できます。)

参考資料
休業(補償)等給付傷病(補償)等年金の請求手続|厚生労働省他
労災保険給付の概要|厚生労働省他

なお、休業補償給付の対象にならない休業3日目までの期間は「待機期間」と呼ばれ、労災による休業補償の期間対象外とされています。

その代わり、この3日間に対しては、業務上の理由による傷害や疾病については、会社からの休業補償が出されます(労働基準法第76条第1項、同第75条)。

会社からの休業補償は、労働基準法上、平均賃金の60%が会社の義務とされていますが、会社によっては給与相当額が全額支払われることもあります。

ただし、通勤上の理由によるケガや病気については、法律上会社が補償する義務はありませんので、労災による休業補償とは対象が違うことに注意しましょう。

労働基準法第75条、第76条第1項

(療養補償)
第七十五条 労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかつた場合においては、使用者は、その費用で必要な療養を行い、又は必要な療養の費用を負担しなければならない。

② 前項に規定する業務上の疾病及び療養の範囲は、厚生労働省令で定める。

(休業補償)
第七十六条 労働者が前条の規定による療養のため、労働することができないために賃金を受けない場合においては、使用者は、労働者の療養中平均賃金の百分の六十の休業補償を行わなければならない。

引用元:労働基準法|e-Gov法令検索

休業補償の計算をされたい方はこちらをご覧ください。

休業補償自動計算ツール

 

 

 

労災ではその他にも様々な補償がある

労災には、休業補償の他にも様々な補償があります。

代表的なものは以下のとおりです。

(1)療養補償給付

業務上または通勤による傷病に対して、病院で療養を受けるために医療費等が支給される補償です。

(2)障害補償給付

業務上または通勤による傷病が治った場合に、身体に障害が残ってしまった場合には、障害補償給付が支給されます。

(3)遺族補償給付

業務上または通勤における傷病が原因で従業員の方が亡くなってしまった場合には、その遺族の方には遺族補償給付が行われます。

(4)その他

他にも、介護(補償)等給付、傷病(補償)等年金、葬祭給付などがあります。

労災の各補償についてより詳しくお知りになりたい方は、以下の参考ページも合わせてご覧ください。

参考資料:労災保険給付の概要|厚生労働省他

 

 

労災の休業補償が打ちきりになる場合とは?

労災の休業補償を受け取っている従業員の方であっても、休業補償が打ち切りになってしまう場合があります。

また、休業補償が終了し、代わりに別の補償に切り替わる場合もあります。

それぞれについて見ていきましょう。

打ちきりになる場合

休業補償を受け取っている場合でも、途中で休業補償の条件が満たされなくなった場合には補償が打ち切りになります。

休業補償の要件は、以下の3点です。

  • 業務上の理由や、通勤によって負傷し、又は疾病にかかり、
  • 療養のために労働することができない場合で
  • 賃金をうけていない場合

したがって、ケガや病気が治癒(これを「症状固定」といいます。)して、その結果、労働ができる状態になった場合には「②療養のために労働することができない場合」の要件を満たさなくなりますので、休業補償が打ち切られることになります。

 

障害補償に切り替わる場合

一方、傷病が治癒した場合でも、労災事故以前と同様の状態に戻っているとは限りません。

傷病が治癒した結果、障害等級で第1級から第7級に該当する障害が残ってしまった場合には、休業補償が障害(補償)給付※に切り替わって補償が続くことになります。

※障害補償給付は業務上の事故の場合、障害給付は通勤途中の事故の場合に給付されるお金であり、両者をまとめて障害(補償)給付といいます。

(なお、障害等級第8級から第14級に該当する場合には、障害(補償)給付を年金としては受け取れず、一時金だけが支払われます。)

 

傷病年金に切り替わる場合

休業補償を受けている方が、療養開始後1年6か月経過しても傷病が治癒しない場合で、かつ、傷病が傷病等級第1級から第3級に該当する場合には、休業補償が傷病(補償)年金※に切り替わります。

※傷病補償年金は業務上の事故の場合、傷病年金は通勤途中の事故のケースに適用される年金であり、両者をまとめて傷病(補償)年金といいます。

なお、療養開始後1年6か月経過しても傷病が治癒しない場合で、かつ、傷病が障害等級第1級から第3級に該当しない場合には、休業補償が継続することになります。

 

その他

症状が悪化して従業員の方がお亡くなりになってしまった場合には、一定の条件で遺族補償給付が発生します。

 

まとめ

以上をフローチャートにまとめていますのでご確認ください。

 

休業補償の支給についてのフローチャート

 

 

参考資料:労災保険給付の概要|厚生労働省他

 

 

労災手続きの流れ

労災手続きの代表的な流れについても簡単に見ていきましょう。

労災事故が発生した場合には、従業員の方は、速やかに会社などの事業者に報告した上で、労働基準監督署へ労災保険の申請書を提出します。

この際には、医師の診断書等の所定の書面を添付した申請をする必要があります。

これを受けた労働基準監督署では、その申請について、労災事故と認定できるかどうかの調査および判断を行い、労災保険の支給または不支給が決定されることになります。

仮に、支給が決定された場合には、指定した銀行口座などへ労災保険が振り込まれることになります。

労災の手続きの流れについては、以下のページでより詳しく解説しています。

 

 

休業補償期間に関するQ&A

最後に、休業補償期間についてよくある質問について解説いたします。

休業補償期間中に出勤したら打ち切り?

休業補償期間中に出勤したとしても、必ずしも打ち切りになるわけではありません。

休業補償は、以下の3つの要件が満たされる限りは基本的に支給が続きます。

  1. ① 業務上の理由や、通勤によって負傷し、又は疾病にかかり、
  2. ② 療養のために労働することができない場合で
  3. ③ 賃金をうけていない場合

休業補償期間中に出勤してその実働に応じて賃金が支払われた場合でも、それ以外の日については、休業補償の条件が満たされる限り休業補償が続きます。

 

リハビリのために短時間のみ出勤したときは?

リハビリなどのために短時間のみ出勤した場合であっても、必ずしも休業補償が打ち切りにはなりません。

リハビリのための出勤が、医師の指導等に基づき、治療の一環で行われることは珍しくありません。

このような場合でも、休業補償の要件である「②療養のために労働することができない」状態が続いているのであれば、休業補償は継続します。

具体的には、所定労働時間のうち、働いていない時間について引き続き休業扱いとなります。

ただし、働いていない時間に対しても、会社から一定の賃金が支払われている場合※には、休業補償の要件である「③賃金をうけていない場合」に当てはまらないことになるので注意しましょう。

※「給付基礎日額(平均賃金)」と「働いた時間に対して支払われる賃金」との差額の100分の60以上の賃金が支払われている場合

参考:労災保険に関するQ&A|厚生労働省

リハビリ通院で休業補償は打ち切り?

リハビリ通院の日には引き続き休職する必要がある場合であれば、働けなかった日については休業補償の要件を満たす限り、休業補償が継続します。

会社に出勤できるようになったとしても、治療やリハビリのための通院で出勤できない日があり、その日に対して賃金が支給されない場合には、それを補う形で一定の休業補償が支給されることになります。

休業補償の計算はどうなるの?

療養のために休職せざるを得ない日があった場合にはその日については休業補償を受けられることになります。

すなわち、休んだ日ごとに、給付基礎日額の80%(休業補償給付:60%、休業特別支給金:20%)が支払われます。

また、リハビリ通院などのために、短時間しか働けなかった場合には、働けなかった時間に相当する賃金を基礎として、一定割合が休業補償給付として支給されます。

具体的には、その日の「給付基礎日額」から実際に働いた時間に対して支払われる賃金の額を差し引いた額の80%(休業補償給付:60%、休業特別支給金:20%)に当たる額が支払われます。

参考:労働基準行政全般に関するQ&A|厚生労働省

 

休業補償期間中に解雇できる?

労災で休業している従業員に対しては、原則として会社から解雇はできません。

具体的には、休業期間及びその後の30日間は、会社はその従業員を解雇することができないとされています(労働基準法第19条第1項)。

(なお、一定の例外もあります(同項但書)。)

労働基準法第19条第1項

(解雇制限)

第十九条 使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後三十日間並びに産前産後の女性が第六十五条の規定によつて休業する期間及びその後三十日間は、解雇してはならない。

ただし、使用者が、第八十一条の規定によつて打切補償を支払う場合又は天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合においては、この限りでない。

② 前項但書後段の場合においては、その事由について行政官庁の認定を受けなければならない。

引用元:労働基準法|e-Gov法令検索

 

 

まとめ

本ページでは、労災の休業補償期間について詳しく解説してきました。

労災の休業補償は期間制限がなく補償を受けられるため、従業員の方にとっては大変ありがたい制度ですが、その分、理解するのがやや難しい制度になっています。

ぜひ、労災事故が発生した場合には、このページを参考に休業補償の理解を深めてください。

それでもなお、休業補償について不明な点があれば、早いうちに労働法に詳しい弁護士へ相談して、不安を解消することを強くお勧めします。

労災事故は、お立場が従業員か会社かによって、必要となるサポートが大きく異なります。

デイライト法律事務所では、トップクラスのサービスを提供するため、それぞれの立場に応じた専門チーム(従業員側は人身障害部、会社側は企業法務部)がご対応します。

ぜひ、お気軽にご相談ください。

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