労災の聞き取り調査|何を聞かれる?労基署対応を弁護士が解説

監修者
弁護士 宮崎晃

弁護士法人デイライト法律事務所 代表弁護士

保有資格 / 弁護士・MBA・税理士・エンジェル投資家

労災の聞き取り調査とは

労災の聞き取り調査とは、労災保険の請求が労働基準監督署に提出された後に、労働基準監督署が、実態調査のために必要に応じて従業員や会社へ事情聴取を行うことです。

労災保険とは、従業員が会社の業務や通勤のために負傷等した場合に、治療費などに充てるために国がお金を支払う制度です。

労災の調査は、労災認定すべきか否かを、労働基準監督署が判断するために必要に応じて実施されるもので、書類の提出を求める調査だけでなく、関係者への聞き取り調査が行われることもあります。

そして、これらの調査は、労働者災害補償保険法第46条を根拠として行われる法律上の調査で、労働基準監督署長等から文書による文書提出の命令や出頭命令が出されます(労働者災害補償保険法第46条、労働者災害補償保険法施行規則第51条の2)。

労働者災害補償保険法第46条
第四十六条
行政庁は、厚生労働省令で定めるところにより、労働者を使用する者、労働保険事務組合、第三十五条第一項に規定する団体、労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(昭和六十年法律第八十八号。第四十八条第一項において「労働者派遣法」という。)第四十四条第一項に規定する派遣先の事業主(以下「派遣先の事業主」という。)又は船員職業安定法(昭和二十三年法律第百三十号)第六条第十一項に規定する船員派遣(以下「船員派遣」という。)の役務の提供を受ける者に対して、この法律の施行に関し必要な報告、文書の提出又は出頭を命ずることができる。
労働者災害補償保険法施行規則第51条の2
(報告命令等)
第五十一条の二 法第四十六条から法第四十七条の二まで及び法第四十九条第一項の規定による命令は、所轄都道府県労働局長又は所轄労働基準監督署長が文書によって行うものとする。

以上の通り、労災の聞き取り調査は、法律に基づく重要な手続きですので、特に慎重な対応が必要になります。

本ページでは、会社が労災の聞き取り調査を受ける場合について、基本的知識や注意点をまとめていますので、ぜひ業務の参考にしてください。

 

 

労災の聞き取り調査では何を聞かれる?

具体的に、労災の聞き取り調査では何を聞かれるのでしょうか。

聞き取り調査は、労災認定できるケースか否かを確認するための調査なので、労災保険請求の原因となった事故の事実関係について聞かれます

どんな項目を聞かれるかについては、ケースによって異なります。

例えば、業務中の事故によって怪我をした、というような労働災害の典型的な場合には、調査項目は比較的シンプルです。

具体的には、以下のような事項を聞かれることになります。

  • 事故が発生した日時
  • 事故が発生した原因や経緯
  • 事故が発生した原因と業務との関連性
  • その他、会社から提出された書類で不明確な点

一方、通勤災害、従業員のメンタル不調(うつ病)等の場合には、業務との関連性の判断が難しいことが多いため、その点についてもより詳しく聞かれることになります。

特に、通勤災害の場合には、通勤途中に寄り道(子供を保育園に送る、朝食を買いにコンビニに立ち寄る等)をした場合に、業務との関連性の判断が難しくなるため、寄り道の経路や理由などを詳しく聞かれることになります。

メンタル不調(うつ病)については、ハラスメントや業務過多、プライベートの事情などが複合的に重なって原因になっていることも多く、また、それらの原因事実も長期間にわたっていることが多いため、過去にさかのぼって就業環境や業務内容、職場での人間関係等についても詳細な聞き取りが行われます

ケース 想定される聴取内容
通常の場合
  • 事故が発生した日時
  • 事故が発生した原因や経緯
  • 事故が発生した原因と業務との関連性
  • その他、会社から提出された書類で不明確な点
通勤災害(寄り道)
  • 寄り道の経路
  • 寄り道の理由
メンタル不調
  • 就業環境
  • 業務内容
  • 職場での人間関係

 

 

労災の聞き取り調査の流れ

労災の聞き取り調査はどのような流れで行われるのでしょうか。

聞き取り調査は、文書の提出命令とともになされることが一般ですが、それらを含めた全体的な手続きの流れは以下のようになります。

労災の聞き取り調査の流れ図

それぞれについて見ていきましょう。

(1)労基署から会社に使用者報告書および資料の提出要請が届く

労災申請が労働基準監督署に提出された場合、しばらくしてから労働基準監督署から「使用者報告書」および各種資料の提出要請が届きます。

 

提出を求められる資料はケースバイケースで異なりますが、例えば以下のような資料を求められることが多いです。

項目 具体例
①会社の基礎情報に関する資料 会社の組織図、就業規則
②事故当時の従業員の勤務状況がわかるような資料 タイムカード、出勤簿、過去の健康診断結果
③その他労災認定に参考となりそうな資料 事故の防止のための教育・研修記録や各種記録等

また、資料提出と合わせて、「使用者報告書」の提出も求められます。

「使用者報告書」については(3)で説明します。

 

(2)資料を提出する

(1)の要請(命令)を受けた会社は、その指示に従って資料を収集する必要があります。

労働基準監督署からの要請には、提出期限が設けられているのが通常ですので、その期限に余裕をもって各種資料を集め、期限内に労働基準監督署に提出する必要があります。

 

(3)使用者報告書を提出する

資料の収集と併行して、労働基準監督署から提出を求められる「使用者報告書」の作成にも取り掛かる必要があります

使用者報告書の書式は区々ですが、会社や事業所の概要、被災した従業員の状況などを記載することになります。

厚生労働省から、使用者報告書の一例の様式が公表されていますので、参考として以下をご覧ください。

引用:使用者報告書|厚生労働省福岡労働局

使用者報告書についても、資料の提出と同様に、労働基準監督署から示された提出期限内に必ず提出するようにしましょう

使用者報告書(あるいは、提出資料)については、労働基準監督署が労災認定を判断する際に大変参考にされるものです。

各書類を提出するにあたっては、その内容が労働基準監督署に誤解を与えないよう、慎重を期する必要があります。

場合によっては、会社の刑事事件に発展するきっかけになることも考えられます。

各書類を提出する前に、できるだけ労働法に詳しい弁護士に相談し、リーガルチェックを経ておくようにしましょう

 

(4)労基署からの聞き取り調査

労働基準監督署は、提出された資料等に基づく書面審査だけで労災認定の判断をすることもあります。

しかし、特に事実認定(どういう事実があったのか、事実関係はどうなっているか)が難しいケースについては、労働基準監督署が直接関係者に聞き取りを行うことになります。

具体的には、既に提出した各資料の内容や作成経緯、使用者報告書に記載した内容の詳細説明などを求められます。

聞き取り調査の対象は、被災した従業員の上司や同僚などが中心になります

聞き取り調査では、正直に労働基準監督署の説明に答えることが大前提です。

もっとも、自信を持てない曖昧な事実についてははっきり「わからない」と説明するなど、誤解を生まないように意識しましょう。

もし、聞き取り調査の準備に不安がある場合には、労働法に詳しい弁護士へ相談するなどし、十分な対策を講じるようにしましょう。

 

(5)労基署による判断

以上の調査を踏まえて、最終的に労働基準監督署が労災認定をするか否かを判断します

ただし、この判断結果は会社には通知されないのが通常です。

もっとも、 この判断結果は会社にとっても大事な情報になりますので、必ず被災した従業員に労災認定されたか否かを確認するようにしましょう

 

 

労災が認定された場合の会社への影響

労災認定がされた場合、会社には色々なデメリットがあります。

経済的なデメリット

まず、経済的な不利益が考えられます。

被災した従業員に振り込まれる保険料は国庫から支払われますので、このために会社が経済的な損失を受けるわけではありません。

もっとも、労災認定を受けた場合、それ以降会社が支払うべき労災保険料が値上がりする場合があります

また、労災認定を受けた場合、その事故の原因が会社にあることが明確になります。

そのため、従業員が会社に対して訴訟を起こして損害賠償請求をすることも考えられます。

特に、慰謝料については労災ではカバーされていません

そのため、会社が多額の賠償義務を負う可能性が懸念されます。

 

イメージダウン、人材損失

また、経済的な不利益だけではなく、重大な労災事件はマスコミで報道されることも多いです。

報道によって、世間的に会社の悪い印象が広まってしまうことが考えられ、客離れにもつながるおそれがあります

また、他の従業員が、「いつ自分も同じような事故にあうかわからない」という不安を覚えることも考えられます。

このように、業務上の危険性が従業員に意識されることで、離職する従業員が増えるなどの影響も考えられます。

 

会社への影響のまとめ

以上を表にまとめると以下のようになります。

デメリット 内容
経済的な影響
  • 労災保険料の値上がり
  • 労災認定事故について、従業員から会社に対して損害賠償請求をされる可能性がある
イメージダウンのおそれ
  • 労災認定されるような事故を起こしたことが報道され、会社のイメージダウンにつながるおそれがある
人材損失のおそれ
  • 業務上の危険が従業員に意識されることで離職者が増え、人材が流出してしまうおそれがある

労災認定によって会社が受けるデメリットについては、こちらのページでより詳しく解説しています。

ぜひ合わせてご覧ください。

 

 

労災の聞き取り調査で嘘をついた場合の罰則は?

では、労災の聞き取り調査に対して嘘をついた場合にはどのような罰則があるのでしょうか。

調査に応じなかったり、嘘の説明をした場合については、刑事罰が用意されており、「6月以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する」とされています。

もちろん、軽微な嘘や勘違いを含めたあらゆる場合について刑事罰を科されるわけではありませんが、その悪質度合いなどによっては重い罰を科されてしまう可能性があることには注意が必要です。

したがって、労働基準監督署からの調査に対しては必ず誠実に応じ、正直に話すようにしましょう

労働者災害補償保険法第51条
第七章 罰則
第五十一条
事業主、派遣先の事業主又は船員派遣の役務の提供を受ける者が次の各号のいずれかに該当するときは、六月以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。労働保険事務組合又は第三十五条第一項に規定する団体がこれらの各号のいずれかに該当する場合におけるその違反行為をした当該労働保険事務組合又は当該団体の代表者又は代理人、使用人その他の従業者も、同様とする。
一 第四十六条の規定による命令に違反して報告をせず、若しくは虚偽の報告をし、又は文書の提出をせず、若しくは虚偽の記載をした文書を提出した場合

 

 

労災の聞き取り調査で会社がとるべき対応とは?

以上を踏まえまして、労災の聞き取り調査について、会社はどのような対応をとるべきでしょうか。

ポイントは以下の3点です。

会社がとるべき対応のポイント

(1)事実関係について社内調査の徹底

労働基準監督署からの聞き取り調査に向けた最初のステップとして、社内関係者へのヒアリングや資料の確認を通じて、労災事件の事実関係をしっかり会社として把握することが重要です。

調査が甘い場合には、労働基準監督署に対して誤った報告をしてしまい、後日、隠ぺいや虚偽を疑われてしまいかねません

また、弁護士と対策を協議するためにも、ここで把握した事実関係が議論の重要な前提になります。

社内調査は徹底するようにしましょう。

 

(2)刑事事件や従業員からの損害賠償請求を見据えた対策

労働基準監督署の調査は、あくまで、労災認定できるか否かについての調査です。

もっとも、労災事件が発生した場合、会社について刑事責任(いわゆる、犯罪のこと)の問題が生じることもあります

また、上述の通り、従業員が会社に対して損害賠償請求をすることも考えられます。

したがって、労働基準監督署の調査への対応を考える場合には、これらの可能性を考えて慎重に対策を考える必要があります。

特に、被災した従業員が亡くなってしまった場合など、重大な事件については慎重な対応を要しますので、労働法に詳しい弁護士に速やかに相談し、弁護士と二人三脚で対策を考えるのがよいでしょう。

 

(3)労基署の調査に対する正直で明快な対応

労働基準監督署の聞き取り調査や報告書の提出に当たっては、正直な対応が不可欠です。

しかし、単に正直に受け答えをすればいいというわけではありません。

会社としては正しく受け答えしたつもりでも、行き当たりばったりの受け答えをするだけでは、労働基準監督署が事実関係を誤解してしまい、さらには、会社が虚偽の報告をしたと疑われてしまうことになりかねません。

例えば、あいまいな記憶しかない事実を、さも真実であるように発言することなどは避けましょう。

また、単に事実関係を並べるだけでなく、会社として、「会社にどのような責任があると考えているのか/いないのか」など、明確な意見をもって調査に応じるのがよいでしょう。

労働基準監督署に会社の考えをしっかり伝えることも調査において重要な目的だからです。

以上を表にまとめると以下の通りです。

聞き取り調査対応のポイント 内容
(1)社内調査の徹底
  • 社内関係者へのヒアリングや社内資料の確認を通じて、労災事件の事実関係をしっかり会社として把握する必要がある
  • 弁護士へ相談する場合にもこの点が重要
(2)刑事事件や従業員からの損害賠償請求を見据えた対策
  • 刑事事件や損害賠償請求についても意識して対策する
  • 早期に弁護士へ相談するのがよい
(3)正直で明快な対応
  • 曖昧な回答をしない
  • 会社としての意見をしっかり持つ

 

事例別の対応ポイント

労災の事例ごとに、会社がとるべき対応や注意点も異なります。

事例ごとに対応のポイントを見ておきましょう。

 

従業員が怪我を負った事例

まず、典型的な労災事故として、業務中の事故で従業員が怪我を負った場合を考えてみましょう。

この場合、事故に関する事実関係、例えば、どういう業務をしている最中に、何が原因で事故が発生したのか、というのが聞き取り調査における最重要テーマです。

事故現場が社屋内で、かつ防犯カメラ設置されているような場合であれば、その記録内容を丁寧に確認しましょう。

また、他の従業員などの目撃者がいれば、その証言を丁寧にヒアリングするようにしましょう。

他方で、被災した従業員以外に目撃者がいない場合、その従業員本人の証言が特に重要な資料となります。

もっとも、事故を受けた本人は事故当時混乱していることもあるので、正確な証言をしているかは慎重に判断する必要があります。

そこで、従業員の証言が、現場に残っている機材などの状況と矛盾していないか、等は可能な限り確認しましょう

以上のような観点で調査を行い、その結果は丁寧に労基署へ説明するように心がけましょう。

 

メンタル不調(うつ病)の事例

従業員がうつ病などを患ってしまった場合はどうでしょうか。

よく見られる原因としては、業務量の多さや、パワハラ、セクハラなどが見られます。

必ずしも原因は一つとは限りませんので、これらの事情が複合的に重なっていることも念頭に置いて、その従業員が対応していた業務量や業務時間を調べるとともに、上司や同僚などから勤務状況を確認して原因に関する見解を固めるようにしましょう。

上司や同僚へのヒアリングに当たっては、一人ひとり匿名で話を聞くなど、対象者が正直に話せるように工夫することが必要です。

 

過労死の事例

従業員が過労死と思われる状況で亡くなった場合については、特に慎重を期すべきです。

対応方針としては、メンタル不調(うつ病)の事例と同様に勤務状況を丁寧に調べることになります。

会社として、過労死であることを受けいれる選択肢もありますが、会社側の責任がない/小さいという事情がある場合には、そういった会社としての意見を整理して、しっかりと労働基準監督署に伝えることが必要です。

 

 

まとめ

労災の聞き取り調査について詳しく解説してきました。

労災の調査は、資料提出要請から始まり、使用者報告書の提出や聞き取り調査対応などの準備を立て続けにしていくことになり、あまり時間的に余裕がない場合も多いです。

それにもかかわらず、労災認定については様々なデメリットがありますし、刑事事件や損害賠償請求などに備える必要もあります。

そのため、早期に労働法に詳しい弁護士へ相談して二人三脚で対応を検討することを強くお勧めします。

デイライト法律事務所は、企業側の法律事務所として、労災に関する各種のお悩みについて、多くの解決実績を有しています。

労災に関するお悩みをお持ちの場合には、当事務所の弁護士までお気軽にご相談ください。

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