下請会社の事故を報告していない場合労災かくしに該当しますか?

質問 経営者先日、下請建設会社の作業現場で作業中に、下請会社の従業員が作業中に足を骨折する事故が発生しました。下請会社はその従業員に、いくばくかの見舞金を支払ったようですが、労基署への報告をしていないようです。

これは、いわゆる「労災かくし」にあたるのではないですか?

 

Answer

弁護士森内公彦イラスト労災かくしにあたる可能性が高いです。会社は、刑事責任リスク、風評リスク等、さまざまなリスクを負う可能性があります

 

労働災害・労災かくし

労働災害

労働安全衛生法第2条第1号は、労働災害について、「労働者の就業に係る建設物、設備、原材料、ガス、蒸気、粉じん等により、又は作業行動その他業務に起因して、労働者が負傷し、疾病にかかり、又は死亡することをいう。」と規定しています。

重要な点は、「業務に起因して」(業務起因性)、結果(負傷、疾病、死亡)が生じるということです。本設問でも、労働災害に該当する可能性があります。

 

労災かくし

報告書労働災害等により労働者が負傷等した場合、または被災等による傷病で4日以上の休業をした場合は、事業者は労働基準監督署長に、労働者死傷病報告書を提出しなければなりません(安衛法第100条、安衛則第97条)。

しかし、事業者がこれらの発生後、①労働者死傷病報告書を故意に提出しない、②報告書に虚偽の内容を記載して提出することを「労災かくし」といいます。

労災かくしをした場合、50万円以下の罰金に処せられることがあります(刑事責任、安衛法第120条第5号)。

また、労災かくしについては、厚生労働省が再三にわたって、通達等により厳しく対処することを呼びかけています。そのため、労基署は、この問題を非常に重視しているといえます。

 

 

元請・下請と労災かくし

解説する弁護士特に請負関係(例:建設業)においては、労災かくしを行う理由が強いと考えられます。

労災かくしを行う理由として、厚生労働省は、

① 事業者(元請業者)が、労働基準監督署長から調査や監督を受け、その結果、行政上の措置や処分が下されることを恐れてかくす

② 公共工事などの現場で労災事故が起きた場合、元請業者が、労災事故の発生を知った発注者から今後の受注に障害となるようなペナルティが科されることを恐れてかくす

③ 労災事故を起こした下請業者が、事故の発生を元請業者に知られると、今後の受注に悪影響を及ぼすと判断してかくす

④ 下請業者が、元請の現場所長や職員の評価にかかわるため、迷惑がかからないようにとかくす

⑤ 元請業者が、下請業者に対し災害補償責任を負わせるため虚偽の報告を行う

といったことを指摘しています(厚労省リーフレット「労災かくしは犯罪です」より抜粋)。

 

 

過去の送検事例

元請・下請関係下での労働災害、労災かくしにより送検されるケースは後を絶ちません。例えば、以下の事例があります。

【事案① 外装工事中に、下請個人事業主が墜落・死亡】

(事件の概要)

平成26年4月、東京都新宿区内の集合住宅建築工事現場で、外装工事を請け負った個人事業主(下請)が、3階床の開口部から1階の土間まで6.15メートル墜落、死亡した。

なお、元請工事現場責任者と下請の個人事業主は、いずれも当該開口部に法で定められた墜落防止措置を講じていなかった。

(労基署のとった対応)

新宿労働基準監督署は、元請の建設工事会社及び下請の個人事業主(被疑者死亡)を労働安全衛生法違反容疑で、東京地方検察庁に書類送検した。

 

【事案② 同一解体工事現場における2件の労災かくし】

解体工事(事件の概要)

・事件ⅰ

平成24年12月、東京都千代田区内の解体工事現場において、現場の一次下請業者と雇用関係のあった現場作業員1名が、建物天井部分に設置された配管ダクトを切断するため、床上高さ約3メートルの梁上で作業をしていたところ、バランスを崩し梁上から落下し、腰部を強打し腰椎の圧迫骨折した(労災に該当)。

しかし、一次下請業者は、現場所在地を所轄する中央労働基準監督署長に当該労働災害の報告書(労働者死傷病報告書)を遅滞なく提出しなかった(いわゆる「労災かくし」)。

・事件ⅱ

平成24年11月、東京都千代田区内の解体工事現場(事件ⅰと同じ現場)において、現場の二次下請業者と雇用関係にある作業員1名が、前記一次下請業者から請け負った建物階段部分の清掃作業で階段を移動中、着地時に足を捻り、左足の靭帯を損傷した(労働災害に該当)。

二次下請業者取締役社長は、現場所在地を所轄する中央労働基準監督署長に当該労働災害の報告書(労働者死傷病報告書)を遅滞なく提出しなければならなかったが、一次下請業者の代表取締役と共謀の上、これを行わなかった(いわゆる「労災かくし」)。

(労基署のとった対応)

中央労働基準監督署は、同一解体工事現場で発生した上記2件の労災かくし被疑事件について、下請業者を労働安全衛生法違反の容疑で、東京地方検察庁に書類送検した。

 

【事例③ ビル解体作業中に、下請労働者が墜落・死亡】

ビル 解体

(事件の概要)

平成24年8月、東京都港区内のビル解体工事現場において、ビル最上部の塔屋(高さ9メートルに相当)で、解体したコンクリート廃材を開口部から投下していたところ、二次下請の作業員1名が同開口部から25.6メートル下に墜落して死亡した。

その後の調査の結果、二次下請会社が墜落防止措置(開口部に手すり等を設置していない)をとらなかったこと、元請会社が墜落事故発生までの直近1か月間で3回しか作業現場を巡視していなかったことが判明した

(労基署のとった対応)

三田労働基準監督署長は、二次下請である建設工事業者及び同社社長を、また、元請の建設工事業者及び同社現場所長を労働安全衛生法違反の容疑で、東京地方検察庁に書類送検した。

 

 

労災かくしによる労働者への影響

労働者 意欲減退 イメージ労災かくしを行うことにより、労働者へ生じる影響として、以下の点が指摘されています。

① 労災保険制度による保障を受けることができない

② 労働意欲の減退

①について、労災かくしが行われることによって、労災保険請求をすれば受けられるはずの療養補償給付が受けられません。

そのため、怪我等をした労働者は、治療を自らの健康保険で自己負担しながら行わなければならなくなります。また、労災により一時的に就労できなくなることもありますが、労災保険請求をすれば受けられたはずの休業補償給付を受けることができません。

このように、労働者にとって、本来受けられるはずの手厚い労災補償が受けられず、経済的負担が増加するという影響があります。

②について、労災かくしが行われることによって、当該被災労働者のみならず、周囲の労働者の労働意欲減退という影響も考えられます。これは、会社にとっての不利益にもなります。

 

 

会社の負うリスク

労災かくしを行った場合、会社は、上記のとおり労働安全衛生法上の刑事責任リスク(50万円以下の罰金)を負うことになります。

もっとも、会社は風評リスクの存在を忘れてはいけません

労基署は、労災かくしに対して非常に厳しい姿勢で臨んでおり、送検事例が多く存在します。労基署による送検(司法処分)がなされると、業界内に噂が広まって、会社の存続そのものが危うくなることもあります。

上記のとおり労災問題は、会社にとって対応方法がとても重要になります。

デイライト法律事務所ロゴ労災問題については労働問題に精通した弁護士によるサポートが必要になることも少なくありません。こうした問題でお悩みの方は是非ご相談ください。

 

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