業務中の死亡事故に関して、調査を拒否することはできますか?
業務中に労働者が死亡する事故が発生しましたが、労基署に会社内部を見せたくありません。調査を拒否することはできますか?

労働基準監督官には事業場に立入調査する権限が法的に認められています。何ら正当な理由なく拒めば罰則が科される可能性もあり、企業にとってメリットはないので、労働基準監督官の調査に対しては誠実に対応すべきです。
労働災害の発生状況
昭和60年の労働災害による死傷者数は25万7240人でしたが、平成21年では、10万5718人と半分以下にまで減少しました。しかし、近年、死傷者数は増加傾向にあり、下表のとおり、平成28年における労働災害による死傷者数は11万5610人で、そのうち、894人の方が死亡災害で亡くなっています。
前年(平成27年)と比べると、死亡災害で亡くなった人数は932人から減少しているものの、死傷者は11万4292人と増加しています。
こうした現状も踏まえ、政府は、平成25年4月~平成30年3月までの5年間を計画期間とする「第12次労働災害防止計画」を実施するなど、労働災害を減少させるために様々な施策を打ち出しています。
計画の中には、各業種が持つ特性を踏まえた対策を盛り込むなど具体的な内容になっています。
そのため、労基署においても法令違反の可能性のある労働災害が発生した場合には、厳しい態度で臨んでいるようです。
平成28年の労働災害の死傷者数
業種 | 死傷者数 | 死亡者数 |
製造業 | 2万6035人 | 170人 |
鉱業 | 182人 | 6人 |
建設業 | 1万4786人 | 286人 |
交通運輸事業 | 3278人 | 15人 |
陸上貨物運送業 | 1万3741人 | 92人 |
港湾運送業 | 284人 | 10人 |
林業 | 1542人 | 41人 |
農業、畜産・水産業 | 2720人 | 35人 |
第三次産業 | 5万3042人 | 239人 |
全産業 | 11万5610人 | 894人 |
災害調査・災害時監督の法的根拠
労働災害を防止するためには、労働災害がどのようにして発生したのか原因を調査する必要があり、また、必要に応じて事業主に対して、指導・勧告などを実施し、同種の労働災害の発生を防止しなければなりません。
こうした調査をする権限が労働基準監督官には認められています。
労働基準法101条1項には「労働基準監督官は、事業場、寄宿舎その他の附属建物に臨検し、帳簿及び書類の提出を求め、又は使用者若しくは労働者に対して尋問を行うことができる」と規定されています。
また、労働安全衛生法91条1項には「労働基準監督官は、この法律を施行するため必要があると認めるときは、事業場に立ち入り、関係者に質問し、帳簿、書類その他の物件を検査し、若しくは作業環境測定を行い、又は検査に必要な限度において無償で製品、原材料若しくは器具を収去することができる」と規定されています。
災害調査・災害時監督の拒否
臨検監督は、裁判官の令状をもって行う強制捜査ではないため、使用者が拒んでいる場合には、強行して実施することはできません。
しかし、臨検に際して、「臨検を拒み、妨げ、若しくは忌避し、その尋問に対して陳述せず、若しくは虚偽の陳述をし、帳簿書類の提出をせず、又は虚偽の記載をした帳簿書類を提出した者」は労働基準法120条4号に該当し、罰金30万円以下の対象となります。
また、臨検の拒否を続けて、送検手続をされ、外部にその実態が露見するようなことになれば企業の信用も損なわれてしまうことになります。
したがって、正当な理由なく労働基準監督官の調査を拒否することは企業にとってリスクでしかありません。
万一、調査の日程などが合わず、どうしても調整できないなどのやむを得ない理由があるのであれば、そうした事情を労働基準監督官に事前に説明して、代替日を設定してもらうなど誠実に対応すべきです。
労働基準監督官の調査がどうしても不安であるのであれば、弁護士や社労士などの専門家に立ち会ってもらうなどすればよいので、調査自体には応じるべきです。
臨検調査などで不安がある経営者の方は、弊所までお気軽にご相談ください。労働法に精通した弁護士が対応させて頂きます。

弁護士法人デイライト法律事務所 北九州オフィス所長、パートナー弁護士
所属 / 福岡県弁護士会
保有資格 / 弁護士・入国管理局申請取次者
専門領域 / 法人分野:労務問題、外国人雇用トラブル、景品表示法問題 注力業種:小売業関連 個人分野:交通事故問題
実績紹介 / 福岡県屈指の弁護士数を誇るデイライト法律事務所のパートナー弁護士であり、北九州オフィスの所長を務める。労働問題を中心に、多くの企業の顧問弁護士としてビジネスのサポートを行っている。労働問題以外には、商標や景表法をめぐる問題や顧客のクレーム対応に積極的に取り組んでいる。
