緊急事態宣言による休業要請にどう対応する?
目次
緊急事態宣言による休業要請
新型コロナウイルスが世界中、全国各地で猛威を奮っています。
スペイン風邪以来の100年に1度の世界的な危機といっても過言ではありません。
このような非常事態の中、日本でも4月7日に緊急事態宣言が7都府県に出されました。
この宣言を受け、各都府県知事が休業要請を企業や個人事業主に行うかどうかが注目されていましたが、11日に東京都が実施を開始し、その後これに追随する形で他の都府県でも要請が出されています。
弊所の所在する福岡県でも14日から休業要請が出されることになりました。
そこで、この休業要請にどのように対応すべきかどうか、弁護士として私見も交え、記載をしていきます。
刻一刻と変わる状況に対応している経営者の皆様や個人事業主の皆様に少しでもお役に立てれば幸いです。
なお、以下では弊所の所在する福岡県の要請内容を踏まえて記載をいたします。
休業要請の対象業種 ―自社が対象に含まれているか?
まず最初に確認しなければならないのが、自社が休業要請の対象業種に含まれているかどうかです。
福岡県が休業を要請する施設は主に以下のとおりです。
福岡県が休業を要請する施設
- 遊興施設(敷地面積を問わず)
キャバレー、ナイトクラブ、ダンスホール、バー、個室付浴場業に係る公衆浴場、ヌードスタジオ、のぞき劇場、ストリップ劇場、個室ビデオ店、ネットカフェ、漫画喫茶、カラオケボックス、射的場、勝馬投票券販売所、場外車券売場、競艇場外発売場、ライブハウス等 - 大学・学習塾等(敷地面積が100平方メートル以上)
大学、専修学校、各種学校などの教育施設、自動車教習所、学習塾等 - 2を除く学校(敷地面積を問わず)
幼稚園、小学校、中学校、義務教育学校、中等教育学校、特別支援学校
※預かり保育等の取組みは継続するよう要請 - 運動施設、遊戯施設(敷地面積を問わず)
体育館、水泳場、ボーリング場、スポーツクラブなどの運動施設、マージャン店、パチンコ店、ゲームセンターなどの遊技場等 - 劇場等(敷地面積を問わず)
劇場、観覧場、映画館又は演劇場 - 集会、展示施設1(敷地面積を問わず)
集会場、公会堂、展示場 - 集会、展示施設2(敷地面積1000平方メートル以上)
博物館、美術館又は図書館、ホテル又は旅館(集会の用に供する部分に限る) - 商業施設(敷地面積1000平方メートル以上)
生活必需物資の小売関係等以外の店舗、生活必需サービス以外のサービス業を営む店舗
自社の経営するビジネスが以上の業態に含まれていれば、感染拡大のリスクを回避するという点でも休業要請に応じる方向で検討すべきですし、そうせざるを得ないでしょう。
「要請」となっているため、要請に応じずに営業を続けることで直ちに刑事罰などが科されるわけでは決してありません。
しかしながら、要請に応じずに営業を続けたことで、感染者が発生したり、ましてクラスターを発生してしまった場合には、当該企業は行政から公表されることはもちろん、社会的な非難は免れません。
加えて、休業要請が出ているにも関わらず、営業を続けるために従業員を働かせていたという場合、企業や個人事業主は従業員の生命や健康に配慮すべきという安全配慮義務を負っていますので、この安全配慮義務違反として、従業員から損害賠償を請求されるリスクが高いといえます。
休業を要請されていない場合の対応
福岡県では、以下の施設については、基本的に休業を要請しないと公表されています。
福岡県では基本的に休業を要請しない施設
- 医療施設
病院、診療所、薬局等 - 社会福祉施設等
(1)保育所、放課後児童クラブ、放課後デイサービス
(2)高齢者、障害者など特に支援が必要な方々の居住や支援に関する事業を行う施設 - 生活必需物資、販売施設
卸売市場、食料品売場、百貨店・ホームセンター・スーパーマーケット等における生活必需物資売場、コンビニエンスストア等 - 食事提供施設
飲食店(居酒屋含む)、料理店、喫茶店等(宅配・テイクアウトサービスを含む) - 住宅、宿泊施設
ホテル又は旅館(集会の用に供する部分を除く)、共同住宅、寄宿舎又は下宿等 - 交通機関等
バス、タクシー、レンタカー、鉄道、船舶、航空機、物流サービス(宅配等)等 - 工場等
工場、作業場等 - 金融機関・官公署等
銀行、証券取引所、証券会社、保険、官公署、事務所等 - その他
メディア、葬儀場、銭湯、質屋、獣医、理美容、クリーニング・ランドリー、ごみ処理関係等
以上の業種の企業や個人事業主の方は、営業自体を直ちに休止し、休業に入る必要はありません。
しかしながら、何も対応をしなくてよいわけではありません。
個別の対応が要請されているケース
休業を要請されていない業種でも、以下の3業種については、個別に対応を要請されています。



この中で、特に居酒屋については、影響が大きいといえます。
すなわち、朝5時から夜8時までの営業を要請ということからすれば、通常居酒屋が空いている夕方から夜の時間帯の営業がほぼ困難になるといわざるを得ないためです。
通常ハッピーアワーの終わりとしている夜7時までしか酒類を提供しないように要請しているので、居酒屋については、休業要請が出ていると事実上考えざるを得ないともいえます。
感染予防措置の内容
これまでの説明に加えて、安全配慮義務を負っている企業や個人事業主の経営者は、従業員の就労にあたって、一般的な感染予防措置をできる範囲で検討しなければなりません。
時差出勤や公共交通機関の利用自粛
いわゆる通勤、帰宅ラッシュの時間帯が重なることで従業員の感染リスクが高まってしまいます。
従業員の中で一人でも感染者が出れば、職場内の他の従業員は濃厚接触者となる可能性も高く、企業としても施設全体の消毒はもちろん、営業を当面の間ストップせざるを得ない事態になります。
そこで、ラッシュの時間帯の公共交通機関の利用を控えるために、以下のような対応が必要です。
ラッシュの時間帯の公共交通機関の利用を控えるための対応策
- 対象者(公共交通機関利用)の勤務時間を一時的に変更
- 緊急事態宣言下の期間中だけ、自家用車での通勤を許可したり、自転車通勤を許可したりといった公共交通機関を利用しない通勤方法を促すといった対応
その際、当然交通事故のリスクが高まりますので、自転車保険も含めて保険の加入を条件に設定しておくこともポイントになります。
人数制限
安倍首相が7割の出勤者の削減を求めていますが、全企業でそれを実施するのは困難なケースも多いと考えられます。
もっとも、感染リスクを減らすという観点からは、これまで10名が一度にオフィスに常駐していた企業であれば、5名ずつのグループを形成して、交代勤務を行うなど、人数を制限するという方法も検討対象になります。
その際、上記の公共交通機関の利用者については、できる限り在宅勤務で調整したり、場合によっては優先的に休業してもらったりという方向で検討することも有益です。
在宅勤務
工場勤務の場合、工場で作業することが前提になってきますので、在宅勤務を行うとしても、そもそも何をさせるのか、家でさせる仕事がないということがほとんどでしょう。
しかしながら、パソコンやタブレットがあれば仕事ができるSEや事務職の場合、在宅勤務により仕事を行ってもらうこともできる可能性があります。
必要なときだけ、ZOOMやハングアウトといったWEB会議を実施しながら、マネジメントを行うことも検討事項の一つです。
在宅勤務のメリットやデメリットについてはこちらも参考にしてください。

有給休暇の利用を促す
これまでは人手不足を理由として、体調が少し悪くても、企業としても積極的に「休んでいいよ」とはいえない状況であったと思います。
もちろん、緊急事態宣言下でも看護師や医師といった医療従事者については、感染リスクと日々隣り合わせの状態の中、非常に限られた人員で新型コロナウイルスに対応していただいているので、早計なことはいえません。
しかしながら、他の多くの業種については、今体調不良を押してでも出勤してもらうことはかえって職場内での感染リスクを高める危険性が大いにあります。
10日以上有給休暇のある従業員については、5日以上の取得義務化が昨年より開始されていますので、現状では無理をさせず、有給休暇の利用を促すほうが得策といえるでしょう。
休業した場合の従業員への給与について
それでは、企業や個人事業主が休業した場合に、休業期間中従業員に対して給与を支払わなければならないのでしょうか?
この点、労働基準法26条は「使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければならない。」と定めています。
この法律からポイントは、「使用者の責に帰すべき事由による休業」といえるかどうかです。
今回の緊急事態宣言による休業要請は、企業から積極的に休業を従業員に対して求めたものではありません。
したがって、休業要請をされた業種については、直ちに「使用者の責に帰すべき事由」とはいえないものと考えられます。
他方で、休業要請に応じた = 休業補償が不要というわけではありません。
厚生労働大臣が先日会見の中で話していたように、テレワークなどができないかどうかという検討もした上で、ビジネスを休業して、従業員も休業してもらうほかないといえる状況かどうかをしっかりと検討しなければなりません。
また、休業を要請されなかった企業についても、必要に応じて、一律の、あるいは一部(正社員は休業させず、パートや有期契約社員は休業)の休業を実施する可能性が出てくることが予想されます。
その場合に、休業補償が法的に必要かどうかについても休業に至った理由、当該従業員の職務内容、テレワークや時差出勤などの導入の可否によって個別に判断せざるを得ません。
また、法的に休業補償が不要だからといって、休業補償をせず給与を支払わなければ、従業員は生活の糧となる給与が全く得られなくなるわけですから、法的な問題だけで支給しないと即断することもできない状況です。
例えば、緊急事態宣言下においては、例外的に100%の休業補償を行うといった対応も企業にとっては必要になってくるでしょう。
雇用調整助成金や子育て世帯への助成金も要件が随時見直されているため、最新の状況を確認しておくことが大切です。
小学校等の臨時休業に伴う保護者の休暇取得支援のための新たな助成金を創設します
雇用調整助成金
終わりに
今回の新型コロナウイルスの感染拡大は、まさに未曾有の事態です。
多くの経営者が3か月前の新型コロナウイルスの最初の報道から今の事態を想定することはできなかったでしょう。
この非常事態を何とか乗り越えられるよう、弁護士として今回の情報発信も含めて、企業や個人事業主をはじめとする経営者のサポートをしていきます。
休業要請への対応や従業員への休業補償の問題など、お困りのことがあればお気軽にご相談ください。
弊所では、WEB会議でのご相談にも対応しております。
詳しくはこちらをご覧ください。

福岡県の新型コロナウイルスの情報はこちらをご確認ください。
新型コロナウイルス感染症ポータルページ

弁護士法人デイライト法律事務所 北九州オフィス所長、パートナー弁護士
所属 / 福岡県弁護士会
保有資格 / 弁護士・入国管理局申請取次者
専門領域 / 法人分野:労務問題、外国人雇用トラブル、景品表示法問題 注力業種:小売業関連 個人分野:交通事故問題
実績紹介 / 福岡県屈指の弁護士数を誇るデイライト法律事務所のパートナー弁護士であり、北九州オフィスの所長を務める。労働問題を中心に、多くの企業の顧問弁護士としてビジネスのサポートを行っている。労働問題以外には、商標や景表法をめぐる問題や顧客のクレーム対応に積極的に取り組んでいる。
