弁護士コラム

未払残業代の時効が変わる?【2020年速報】

執筆者
弁護士 西村裕一

弁護士法人デイライト法律事務所 北九州オフィス所長、パートナー弁護士

所属 / 福岡県弁護士会

保有資格 / 弁護士・入国管理局申請取次者

民法の改正が2020年4月に施行されます。

民法は明治時代に作成されて、その都度少しずつ改正がなされてきましたが、制定以来120年ぶりの大改正といわれています。

その中で、注目を浴びているのが、残業代請求の時効の問題です。

以下、最新情報を弁護士が解説します(2020年1月1日時点)。

 

残業代請求のこれまでの時効

残業時効について規定している法律は先ほどの民法や商法といったものだけではありません。

従業員に対して支払うべき賃金については、労働基準法にルールが定められています。

すなわち、労働基準法115条は、
「この法律の規定による賃金(退職手当を除く。)、災害補償その他の請求権は2年間、この法律の規定による退職手当の請求権は5年間行わない場合においては、時効によって消滅する。」と規定しています。

ここから、現在の未払残業代の時効は、本来の給与の支払日から2年間となっています。

 

 

今回の改正内容

今回、民法は現在10年間の消滅時効について、一律に5年間に改正されることになっています。

これまで民法は、弁護士の報酬など特殊なものについて2年間といった短期間の時効を設定しつつ、一般の債権については10年間と定めていたのですが、これを5年間にまとめるというものです。

この改正を受けて、未払残業代を含めた賃金請求の時効についても、5年間に合わせるべきであるとして、議論が進められていました。

国会議事堂具体的には、厚生労働省内で検討会を設け、労使双方の有識者を集めて意見を集約してきました。

そして、2019年12月27日の労働政策審査会の分科会において、「当面3年間」とするという方向性が決定しました。

つまり、現在の2年間よりも1年間時効が伸びることになります。

当初、4月から5年間にすべきという議論もあり、労働者側は5年間を求めていましたが、経営者側の強い反対もあったため、3年間という折衷案に落ち着いた形といえそうです。

ただし、5年後(2025年)に5年間に伸ばすかどうかを議論し直すことになっています。

今後、労働基準法115条の改正案を国会で審議し、可決すれば、4月から3年間ということに正式になります。

 

 

企業に求められる対応

企業としては、これまで2年間で消滅していたものが1年間長くなるわけですので、5年にはならなかったとはいえ、3年間になること自体も影響が大きいといえます。

すなわち、未払残業代の特徴として、1人に未払いが発覚すれば、他の従業員にも波及するという点があります。

例えば、月額5万円の未払賃金が発生しているとすると、100人雇用している企業であれば、月額5万円 × 100人 = 500万円となります。

これが、1年間時効が伸びることで、500万円 × 12か月 = 6000万円もの違いが出てきます。

このように、1年間の時効延長は企業にとって大きなインパクトがあります。

以下では、企業に今後求められる対応を弁護士が解説します。

労務管理の徹底

そもそも未払賃金が発生していなければ、時効が1年間延長しても全く影響はありません。

その意味では、賃金を適切に支払っておくという当たり前の措置を取ることが重要です。

もっとも、この当たり前のことを行うことが実務上難しいため、未払残業代の問題が企業で多発しているのです。

会議したがって、企業としては、始業や終業時間を徹底的に管理する、残業を許可制にする、毎月の給与計算において時間外労働が長い従業員の上司に情報共有し、マネジメントを促すといった対応をとる必要があります。

また、運送業や営業といった、事業所の外にいることの多い従業員についても、デジタコ以外にもチャットなどを利用して、就労状況を把握する必要性が高いといえます。

このように、企業は労務管理の徹底をより加速させていかなければなりません。

 

証拠書類の保存

タイムカードのイラスト未払残業代の請求を受けた際に、重要な証拠となるのは、タイムカードや業務日報など、日々作成される書類です。

今回の時効延長により、こうした書類もすぐに廃棄することなく、少なくとも3年間は保存しておくことが必要になってきます。

なお、タイムカードについては、労基法でそもそも3年間の保存義務が課せられています。

請求に対応するという観点からすれば、3年間よりも少し長めに保存期間を設定するのが望ましいといえます。

 

専門家への相談

企業は未払残業代の請求を受けた場合には、適切な対応を行う必要があります。

すなわち、速やかに従業員側が要求している請求が過大なものになっていないか、事実に基づかない不当なものでないかを検証しなければなりません。

こうした対応を怠ったり、誤ったりすれば、他の従業員へも波及したり、裁判所の労働審判や訴訟において、付加金というペナルティーを課されるリスクも出てきます。

賃金台帳残業代を適切に計算するには、1日の所定労働時間、法定労働時間、週の所定労働時間、法定労働時間、休日労働、深夜労働など、様々な事情を考慮して行わなければなりません。

また、支払われている手当を計算基礎に含めるかどうかによって、未払残業代の金額も大きく変わってきます。

したがって、未払残業代の請求を受けたり、トラブルが生じそうであれば、できるだけ早い段階で専門家である弁護士に相談し、サポートを受けるべきでしょう。

 

 


   
執筆者
弁護士 西村裕一

弁護士法人デイライト法律事務所 北九州オフィス所長、パートナー弁護士

所属 / 福岡県弁護士会

保有資格 / 弁護士・入国管理局申請取次者

専門領域 / 法人分野:労務問題、外国人雇用トラブル、景品表示法問題 注力業種:小売業関連 個人分野:交通事故問題  

実績紹介 / 福岡県屈指の弁護士数を誇るデイライト法律事務所のパートナー弁護士であり、北九州オフィスの所長を務める。労働問題を中心に、多くの企業の顧問弁護士としてビジネスのサポートを行っている。労働問題以外には、商標や景表法をめぐる問題や顧客のクレーム対応に積極的に取り組んでいる。



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