弁護士コラム

賃金の引下げは慎重に!札幌大学事件(H29.10.4高裁判決)

執筆者
弁護士 西村裕一

弁護士法人デイライト法律事務所 北九州オフィス所長、パートナー弁護士

所属 / 福岡県弁護士会

保有資格 / 弁護士・入国管理局申請取次者

賃金の引下げを違法とする最新裁判例がでましたので、ご紹介いたします。

賃金の引き下げは違法となる?

この事案では、最大年俸800万円から年俸480万円への4割もの減俸の有効性が問題となっていました。

 

この点において、平成29年3月20日、札幌地裁は減俸を違法と判断しました。

この判断に対し、大学側は、控訴して争っていました。
しかし、平成29年10月4日、札幌高裁も大学側の主張を認めず、札幌地裁の判断を支持するという判断を行いました。

 

このコラムでは、当該裁判例を参考に、改めて賃金の引下げを行う場合の注意喚起を行いたいと思います。

 

 

賃金の引き下げを行う場合の注意点

賃金を引き下げる場合、多くは就業規則を変更することになります。

もっとも、就業規則の不利益変更には制約があります。

 

就業規則の不利益変更を行う際の制約

労働契約法9条及び10条は、労働者の同意がなく労働条件を不利益に変更する場合

変更後の就業規則を労働者に周知させること

就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等の交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的であること

が必要です。

 

そして、一口に労働条件といってもいろいろありますが、賃金、退職金など労働者にとって重要な権利、労働条件に関し実質的な不利益を及ぼす就業規則の変更については、当該変更が、そのような不利益を労働者に法的に受忍させることを許容することができるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものであることが必要というのが判例の立場です(第四銀行事件最高裁判決 平成9年2月28日)。

 

そのうえで、上記の札幌大学の裁判例では、年俸の減額に関し、データを参照したうえで、人件費削減の一定の必要性は認めました。

 

しかし、①最大4割もの減俸の不利益の程度を重大と評価したうえで、そのような重大な不利益を緩和するような経過措置や代償措置等が一切とられていなかった点を指摘し、

また、②教職員組合との交渉が適切かつ十分なものであったことを指摘したうえで、当該減俸(就業規則の不利益変更)を無効と判断しました。

 

賃金の引下げは慎重に

歩合このように、労働者の賃金の引下げに対しては、裁判所は厳しい判断をすることが多いです。

もっとも、労働者の賃金の引下げを行わなければ、会社が倒産してしまう等の高度の必要性がある場合もあると思われます。

本件においても、札幌地裁は、「変更の当時において、本件大学を運営する被告が、直ちに運営資金の調達に困難を生じたり、数年以内に破産する危機に瀕するほどに経営状況が逼迫していたとはいえない。」と判示していることから、

年俸の引下げを行わなければ会社が数年以内に倒産してしまう場合は、引下げを有効と認める可能性があります。

ともあれ、この裁判例からも分かる通り、会社が労働者の賃金を下げる場合は、慎重にならなければなりません。

会社としては、

チェック表①賃金引下げの高度の必要性を数字で説明できるようにしておくとともに、

②引下げ幅が大きいほど経過措置をとるなどの配慮を行い、

③組合や労働者と誠実に交渉した過程を記録に残しておくこと

 

が重要です。

 

労働者の賃金の引下げを検討中の経営者の方は、引下げを断行するまえに、この問題に詳しい弁護士に相談されることをおすすめいたします。

 

 


   
執筆者
弁護士 西村裕一

弁護士法人デイライト法律事務所 北九州オフィス所長、パートナー弁護士

所属 / 福岡県弁護士会

保有資格 / 弁護士・入国管理局申請取次者

専門領域 / 法人分野:労務問題、外国人雇用トラブル、景品表示法問題 注力業種:小売業関連 個人分野:交通事故問題  

実績紹介 / 福岡県屈指の弁護士数を誇るデイライト法律事務所のパートナー弁護士であり、北九州オフィスの所長を務める。労働問題を中心に、多くの企業の顧問弁護士としてビジネスのサポートを行っている。労働問題以外には、商標や景表法をめぐる問題や顧客のクレーム対応に積極的に取り組んでいる。



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