弁護士コラム

新型コロナウイルスでレイオフや解雇はできる?【弁護士が解説】

執筆者
弁護士 西村裕一

弁護士法人デイライト法律事務所 北九州オフィス所長、パートナー弁護士

保有資格 / 弁護士・入国管理局申請取次者

新型コロナウイルスの影響で、業績が急速に悪化した場合、従業員の雇用を見直す必要がでてきます。

弁護士西村裕一しかし、アメリカのように日本ではレイオフといった一時的に解雇をするという方法は取れません。

したがって、解雇については慎重に判断しなければなりません。

 

 

 

新型コロナウイルスの影響

新型コロナウイルスが世界的に猛威をふるっています。

未知のウイルスでワクチンも抗体も備わっていないため、長期戦を覚悟しなければなりません。

すでに日本でもとりわけ3月後半から急速に感染者が増大し、日本全国で緊急事態宣言が出されるに至っています。

そして、感染者が多い7都府県を筆頭に企業や個人事業主に対して休業要請がなされています。

今回の新型コロナウイルスの感染拡大は、まさに未曾有の事態です。

多くの経営者が3か月前の新型コロナウイルスの最初の報道から今の事態を想定することはできなかったでしょう。

この非常事態を何とか乗り越えられるよう、弁護士として今回の情報発信も含めて、企業や個人事業主をはじめとする経営者のサポートをしていきます。

そのような中で、急速な売上減少に対応できない、雇用している従業員に対して給与を払うことができないといった影響がすでに生じている企業も出てきています。

ビル街また、今はそのような状態に至っていない場合でも、新型コロナウイルスによる影響が続けば、同じように従業員を抱えきれないという事態に至る可能性がある企業は多くなると予想されます。

今回は、従業員の解雇について、レイオフなどとあわせて解説いたします。

 

 

 

 

 

レイオフとは

レイオフとは、一時解雇という意味です。

今回の新型コロナウイルスの感染拡大のように企業の経営が急速に悪化した場合に、一時的に従業員を解雇し、企業の業績が回復した上で再度雇用契約をし直すというものです。

アメリカでは、このレイオフが比較的頻繁に行われています。

世界的企業といえるインテルやマイクロソフトでもこの5年間の間に5000人や1万人といった大規模なレイオフが実施されています。

このレイオフは、人件費を一時的に抑制しつつ、優秀な人材が他の企業へ流出してしまうことを防ぐというバランスを取りながら活用できる制度と考えられています。

解説する弁護士それでは、今回の新型コロナウイルスの関係で日本においてもレイオフを行うことができるでしょうか?答えはNOです。

日本の雇用契約について規定している労働契約法では、一時的な解雇という規定は設けられていません。

 

 

 

日本における雇用の終了方法

日本では、雇用契約を終了する方法として主に以下のものが想定されています。

  • 辞職
    従業員側が会社に辞めることを伝えて退職する
    合意
    退職従業員側と会社側が話合いの末互いに合意して退職する
  • 期間満了
    有期契約の労働者の期間が満了し、更新しない場合
    解雇(普通解雇)
  • 懲戒解雇
    有期契約の労働者の期間が満了し、更新しない場合
    従業員に非違行為があったことを理由とする懲戒処分の一つ
  • 従業員の死亡

このうち、辞職や従業員の死亡は従業員側の事情ですし、新型コロナウイルスの感染拡大は従業員の責任でもありません(もちろん会社側の責任でもありません。)ので懲戒解雇も関係がありません。

したがって、会社側から新型コロナウイルスの影響で雇用を終了させるとすれば、従業員側と話合いを行って退職してもらう合意退職か、契約期間の満了を理由とする雇用契約の終了か、普通解雇のいずれかを選択することになります。

このうち合意退職は従業員も合意することが前提ですので、会社側の意思で雇用を終了させることができるのは契約期間満了と普通解雇になります。

以下、それぞれの注意点を解説します。

期間満了による終了(雇止め)

正社員と異なり、契約期間を定めて雇用契約を結んでいた場合、約束していた期間が終了した時点で雇用契約は終了になるのが原則です。

したがって、今回の新型コロナウイルスの影響により業績が悪化した場合、契約期間が満了するタイミングで雇用を終了させるということは可能です。

もっとも注意すべき点もあります。

有期契約による期間満了については、労働契約法19条で一定のルールが定められています。

すなわち、有期契約を何度も更新していたり、更新が前提の契約であった場合には、従業員に契約が次も更新されるという期待が生じるため、解雇と同じように客観的・合理的な理由と相当性がなければ、期間満了で終了ということはできないというルールです。

特に、無期契約への転換が認められる5年間の契約期間に近づけば近づくほど、更新の期待が高まります。

したがって、従業員のこれまでの雇用期間も踏まえて、雇用を期間満了により終了させるかどうかを検討しなければなりません。

また、1年以上契約をしている従業員に対しては、遅くても1か月前に期間の満了により終了し、更新はしないということを伝えておかなければなりません。

雇止めについてのルールはこちらもご確認ください。

 

 

 

普通解雇(整理解雇)

解説する弁護士のイメージイラスト先ほど説明したとおり、日本ではレイオフという制度は現状認められていません。

会社側から雇用関係を終了するためには、解雇という方法を取ることになります。

この解雇という手続は、従業員との関係を一方的に終わらせるという手続に当たるため、日本では終身雇用制度が揺らいでいるといっても、依然として厳しく判断されます。

すなわち、労働契約法16条で、客観的・合理的な理由と社会的な相当性という要件が必要とされており、この要件を満たしていなければ解雇は無効になります。

今回の新型コロナウイルスの感染拡大による景気悪化を原因とする解雇の場合、整理解雇と呼ばれ、以下の4つの要件を満たしておかなければならいとされています。

  • ① 企業が客観的に高度の経営危機にあり、解雇による人員削減が必要やむを得ないこと(人員削減の必要性)
  • ② 解雇を回避するために具体的な措置を講ずる努力が十分になされたこと(解雇回避努力)
  • ③ 解雇の基準及びその適用(被解雇者の選定)が合理的であること(人選の合理性)
  • ④ 人員整理の必要性と内容について労働者に対し誠実に説明を行い、かつ十分に協議して納得を得るよう努力を尽くしたこと(労働者に対する説明協議)

したがって、新型コロナウイルスの拡大→売上減少→解雇と即断することはできないのです。

現時点で休業をしている企業であれば売上はない状態でしょうが、解雇を回避するために、

  • 銀行から融資を受けたり、リスケジュールをしたりといった資金繰りの努力はしたか
  • 雇用調整助成金といった国の支援を活用して従業員の雇用を維持する努力はしたか
  • 解雇の前に休業措置をどの程度とっていたか
  • 希望退職者を募集したかどうか
  • 正社員の前に非正規の社員の雇用を整理したのかどうか

など、一定の施策を行っておくことが重要になります。

 

 

 

まとめ

弁護士イメージ画像今回の新型コロナウイルスとの戦いは、ウイルスという見えない敵との戦いであるため、先がなかなか見通せない非常に難しい問題です。

その中でも企業の経営者や個人事業主の皆様は、経営判断をしていかなければなりません。

従業員の今後の処遇について、お困りのことがあれば労働問題を数多く取り扱う弁護士にご相談ください。

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