休職者の社会保険料を立て替え。どうやって回収したらいい?

執筆者
弁護士 西村裕一

弁護士法人デイライト法律事務所 北九州オフィス所長、パートナー弁護士

保有資格 / 弁護士・入国管理局申請取次者


経営者のイメージイラスト会社に、うつ病(私傷病)で休職中の社員がいます。休職中も当該社員に社会保険料の納付義務が生じています。

勤務しているのであれば、毎月の賃金から、本人負担分の社会保険料を源泉徴収して、社会保険料を納付することが可能ですが、休職中は賃金が発生しないため、源泉徴収することができません。そのため、会社は社員に、社会保険料を納付するよう求めていますが、社員は全くこれに応じないため、回収できない本人負担分の社会保険料が高額に上っています。そこで、賞与や退職金から、一括して相殺し、社会保険料相当分を回収することを考えています。

この方法は法的に許されるでしょうか。

 

解説する弁護士のイメージイラスト賞与や退職金から社会保険料相当分を控除する労使協定が存在しなければ、一括して相殺することは困難です。

私傷病で休職中の社員の多くは、ノーワークノーペイの原則に従い無給です。そのため、高額な社会保険料を負担することができず、会社から請求が来ても支払わないため、会社が本人負担分を立て替えて支払っているケースは少なくありません。

会社としては当然、立て替えて支払った分を何とかして取り戻したいと考えると思いますが、賞与や退職金と相殺することは簡単ではありません。

なぜなら、法律上、賃金は原則として労働者に全額を支払わなければならないとされており、使用者が一方的に賃金と何かを相殺して、残りを支払うことは、原則として許されていないからです。

しかし、①法令に別段の定めがある場合、または②従業員の過半数を代表とする労働組合等との書面による労使協定がある場合には、賃金の一部を控除して支払うことができるとされています。

そこで、①②に該当する事情があるかを詳しくみていく必要があります。

給料のイメージ画像①について

社会保険料の労働者負担分の源泉徴収については、法律上、被保険者の負担すべき前月の標準報酬月額にかかる保険料を報酬から控除すること、及び、被保険者の負担すべき標準賞与額にかかる保険料に相当する額を賞与から控除することが認められています。

したがって、賞与から源泉徴収できるのは、あくまで、「被保険者の負担すべき標準賞与額にかかる保険料に相当する額」に限られるのであり、本件のように立て替えて支払った本人負担分の社会保険料を一括して源泉徴収することは法律上認められていません。

②について

そこで、労使協定で、賞与や退職金から公租公課等を控除することをあらかじめ労使協定で合意を結んでおけば、賞与や退職金から一括して控除できる余地があります。

したがって、労使協定でどのような内容を定めておくかは、とても大切です。

労働者負担分の社会保険料を立て替えて支払ったけれど、回収できずお悩みの方は、労使協約の見直しも含め、ぜひ一度、労働問題専門の弁護士にご相談されることをお勧めします。

 

 


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