年次有給休暇算定の基礎となる「全労働日」の取り扱いの改正

執筆者
弁護士 西村裕一

弁護士法人デイライト法律事務所 北九州オフィス所長、パートナー弁護士

保有資格 / 弁護士・入国管理局申請取次者

労基法の規定

有給休暇のイメージ画像労働基準法39条は、年次有給休暇の付与について、一定期間継続勤務し、かつ、「全労働日」の8割以上出勤した労働者に対して、一定日数の有給休暇を与えなければならないとしています。(注1:労基法39条は後記参照)

 

 

「全労働日」の意義についての従前の行政解釈

この「全労働日」の意義について、従前の行政解釈では、「使用者の責めに帰すべき休業日については、全労働日に参入されないと解釈されていました(基発150号昭和63年3月14日)。

 

 

最高裁判決

裁判所画像ところが、平静25年6月6日、最高裁は、使用者の責めに帰すべき休業日については、全労働日に含まれるとする判断を示しました。なお、この判決の事案は、解雇より2年以上にわたって就労を拒まれた従業員が会社に対して解雇無効を主張して勝訴し、復職した後、合計5日間の年次有給休暇を申請して就労しなかったところ、会社が解雇してから復職するまでの期間については、全労働日に含まれないとして、5日間を欠勤とし、賃金を支払わなかったという事案です。(注2:最高裁の判例については後記参照)

 

 

行政解釈の改正

この最高裁判決を受け、上記行政解釈も使用者の責めに帰すべき休業日については、全労働日に含まれると改正されました(基発0710第3号平成25年7月10日)。

注3 改正後の行政解釈については後記参照

 

 

実務への影響

労働条件通知書のイメージ画像最高裁判決が出されたことで、今後、使用者側の事情で就労させなかった場合でも、年次有給休暇の取り扱いに労働日として算定すべきこととなります。また、就業規則において、年休の出勤率の算定方法を具体的に定めている場合には、就業規則も改正も必要かと思われます。

以下、改正後の就業規則の例を示しますので参考にされてください。

就業規則の改正例はこちら

 

注1 労働基準法第三十九条

1 使用者は、その雇入れの日から起算して六箇月間継続勤務し全労働日の八割以上出勤した労働者に対して、継続し、又は分割した十労働日の有給休暇を与えなければならない。
2 使用者は、一年六箇月以上継続勤務した労働者に対しては、雇入れの日から起算して六箇月を超えて継続勤務する日(以下「六箇月経過日」という。)から起算した継続勤務年数一年ごとに、前項の日数に、次の表の上欄に掲げる六箇月経過日から起算した継続勤務年数の区分に応じ同表の下欄に掲げる労働日を加算した有給休暇を与えなければならない。
ただし、継続勤務した期間を六箇月経過日から一年ごとに区分した各期間(最後に一年未満の期間を生じたときは、当該期間)の初日の前日の属する期間において出勤した日数が全労働日の八割未満である者に対しては、当該初日以後の一年間においては有給休暇を与えることを要しない。(表略)

 

注2 最高裁の判旨抜粋

「法39条1項及び2項における前年度の全労働日に係る出勤率が8割以上であることという年次有給休暇権の成立要件は、法の制定時の状況等を踏まえ、労働者の責めに帰すべき事由による欠勤率が特に高い者をその対象から除外する趣旨で定められたものと解される。
このような同条1項及び2項の規定の趣旨に照らすと、前年度の総暦日の中で、就業規則や労働協約等に定められた休日以外の不就労日のうち、労働者の責めに帰すべき事由によるとはいえないものは、不可抗力や使用者側に起因する経営、管理上の障害による休業日等のように当事者間の衡平等の観点から出勤日数に算入するのが相当でなく全労働日から除かれるべきものは別として、上記出勤率の算定に当たっては、出勤日数に算入すべきものとして全労働日に含まれるものと解するのが相当である。
無効な解雇の場合のように労働者が使用者から正当な理由なく就労を拒まれたために就労することができなかった日は、労働者の責めに帰すべき事由によるとはいえない不就労日であり、このような日は使用者の責めに帰すべき事由による不就労日であっても当事者間の衡平等の観点から出勤日数に算入するのが相当でなく全労働日から除かれるべきものとはいえないから、法39条1項及び2項における出勤率の算定に当たっては、出勤日数に算入すべきものとして全労働日に含まれるものというべきである。」

 

注3 基発0710第3号平成25年7月10日

第1 法第39条関係<出勤率の基礎となる全労働日>を次のように改める。

<出勤率の基礎となる全労働日>

年次有給休暇の請求権の発生について、法第三十九条が全労働日の八割出勤を条件としているのは、労働者の勤怠の状況を勘案して、特に出勤率の低い者を除外する立法趣旨であることから、全労働日の取扱いについては、次のとおりとする。

1 年次有給休暇算定の基礎となる全労働日の日数は就業規則その他によって定められた所定休日を除いた日をいい、各労働者の職種が異なること等により異なることもあり得る。したがって、所定の休日に労働させた場合には、その日は、全労働日に含まれないものである。
2 労働者の責に帰すべき事由によるとはいえない不就労日は、3に該当する場合を除き、出勤率の算定に当たっては、出勤日数に算入すべきものとして全労働日に含まれるものとする。
例えば、裁判所の判決により解雇が無効と確定した場合や、労働委員による救済命令を受けて会社が解雇の取消しを行った場合の解雇日から復職日までの不就労日のように、労働者が使用者から正当な理由なく就労を拒まれたために就労することができなかった日が考えられる。
3 労働者の責に帰すべき事由によるとはいえない不就労日であっても、次に掲げる日のように、当事者間の衡平等の観点から出勤日数に算入するのが相当でないものは、全労働日に含まれないものとする。
(一) 不可抗力による休業日
(二) 使用者側に起因する経営、管理上の障害による休業日
(三) 正当な同盟罷業その他正当な争議行為により労務の提供が全くなされなかった日

 

 





  

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