労働審判で解雇の無効を請求されて解決した運送会社の事例

執筆者
弁護士 西村裕一

弁護士法人デイライト法律事務所 北九州オフィス所長、パートナー弁護士

保有資格 / 弁護士・入国管理局申請取次者

依頼者:運送会社
解決までの期間:約2か月

弁護士に依頼した結果

 

項目 労働者側の請求額 弁護士介入による結果 減額利益
解雇 無効 有効(退職で確定)
解決金 約650万円 200万円 約450万円

 

事業の概要

運送業S社は運送業を営む会社でしたが、経営難から、再生計画に基づき、会社の建て直しを行っていました。

そのような状況下で、ドライバーである従業員に対する未払残業問題が発覚しました。

このうち、従業員のAさんは、未払残業代をもらった上で自分は退職するとS社に告げ、これを受けて、S社は残業代を支払った上で、Aさんとの雇用契約を終了しました。

このとき、S社はAさんの失業保険受給に配慮して形式上解雇という形をとりました。

しかし、その後Aさんは弁護士を立てて、S社の解雇が不当解雇であると主張して、解雇の無効と解決金300万円、未払残業代350万円の支払を求めて新たに労働審判を申し立てました。

裁判所からの書類に戸惑い、驚いたS社は、この段階になって、弁護士に相談しました。

 

弁護士の関わり

相談を受けた弁護士は、労働審判については裁判所の手続であり、弁護士がサポートする必要性が高いため、S社の担当者の方からAさんの退職に至る経緯を確認し、解雇をした理由を失業保険のためとする主張を期日に先立って、答弁書として作成しました。

また、残業代についても一度精算済みである旨を支払の証拠とともに提出しました。

そのうえで、弁護士は代理人として労働審判に出席して合意退職が成立していること、また、残業代はすべて支払っており、Aさんの要求が不当であること等を主張しました。

他方で、Aさんは、労働審判において、「退職に応じた」ことを真っ向から否定してきました。

この事案では、退職合意書といった書類を取り付けていなかったため、合意が口頭ベースでなされていました。

しかしながら、事件を担当した労働審判委員が、退職に至る経緯に関するS社の言い分も一定程度考慮できる部分があると判断し、最終的には、Aさんの雇用契約の終了と解決金として200万円を支払うことで和解が成立しました。

当初のAさんの請求からは450万円の減額と退職したという事実が確定したことになります。

 

補足

▪️合意退職について

合意退職とは、従業員側と企業側とが双方合意により雇用契約を終了する方法です。

そのため、合意退職が成立したといえるためには、労使双方の合意が必要になります。

しかしながら、この事例でAさんは労働審判において、「退職に応じた」ことをそもそも否定し、不当解雇だと主張してきました。

そうすると、退職についての合意があったということを立証しなければなりませんが、その責任は原則として企業側つまりS社にあります。

この事案では、S社はAさんに配慮して形式上解雇の形をとっており、このときに退職合意書を作成しておらず、客観的な書面が存在しなかったため、弁護士は、それまでのAさんとのやりとりを中心に主張、立証をしていきました。

その結果、裁判所に会社の正当性を訴えることで、雇用契約の終了が認められ、相手の請求を大幅に減額できました。

もっとも、紛争予防の観点から検討すると、このような事案では、早い段階で弁護士に相談して、合意書をきちんと取り交わしておくことが必要でした。

実際、失業保険の関係で従業員側に配慮する場合でも、退職合意書を作成し、保険の関係上は会社都合とする旨を明記しておけば、そもそも解雇という方法を取る必要がなく、労働審判を起こされることもなかった可能性があります。

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残業代についても同様で、支払に当たって、Aさんからこれ以上残業代の未払いがないことを認める旨の書類を適切に取得していれば、さらなる残業代の請求というのは防げた可能性があります。

このように、従業員と少しでも退職を巡ってトラブルになりそうな状況であれば、弁護士に相談しておいたほうがリスク回避にとっては有益です。

▪️労働審判について

労働審判とは、裁判所の手続であるという点で通常の裁判(訴訟)とは共通していますが、通常の裁判(訴訟)と異なり、原則3回の手続において事件を終了するという独自のルールがあります。

そのため、労働審判の審理期間は通常3か月程度と短く、相手方となる企業は第1回期日までに必要な資料の準備と反論書面の作成のため、時間と労力をかなり割かなければなりません。

特に、労働審判は労働者から申立てがなされてから原則40日以内に第1回の期日を開催しなければならないという運用になっているため、準備期間まで1か月ないこともしばしばです。

したがって、労働審判を申し立てられた場合には、裁判所から書類を受け取ったらすぐに弁護士に相談して、適切な方針をスピーディーに立てて、準備を進めていくことが必要です。

なお、労働審判については、原則として本庁がある裁判所で実施できることになっていますが、福岡では、福岡市にある福岡地方裁判所の本庁と北九州市にある小倉支部でも労働審判を行うことが可能となっています。

 

 





  

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