成立する解雇事由

解雇権濫用の禁止

解雇は使用者の判断だけで成立するものではありません。
解雇が有効とされるためには、解雇権を濫用したと判断されないような理由が必要です。

もし、解雇が客観的・合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合には、
解雇権を濫用したものと判断され、解雇が無効となります(労契法16条)。


すなわち、従業員を解雇する場合には、その従業員が解雇されるに足る
客観的・合理的理由があると認められるかどうかを十分に調査する必要があります。

以下では、どのような場合に解雇が有効と判断されるのか、具体的にご説明します。
 
 

(1)私傷病を理由とする解雇

労働契約は、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対する賃金を支払うという契約であり、労働者が業務外の私傷病により労務提供をすることができないということは、労働契約の債務不履行ですから、そのため労働契約の目的を達成することができないのであれば、労働者を解雇せざるを得ません。

したがって、私傷病による労務提供不能は解雇の客観的合理的理由になり得ます。

ただし、注意が必要なのは、解雇理由となるのは「労務提供が不能」であるということです。
すなわち、単に私傷病に罹患したというだけではなく、それにより労務を
提供することができないといえなければなりません。


また、この判断は、事柄の性質上、担当職務との関係で、医学的所見を基礎に行う必要があります。

多くの企業では、労働者の死傷病による欠勤が一定期間以上にわたる場合を休職とし、休職期間満了時点でも復職が困難な場合、解雇あるいは休職期間の満了をもって退職と扱う旨の就業規則を定めています。

つまり、数週間の入院で病気が治療可能な場合には解雇は原則として認められず、職場復帰時期が予測できない程の長期間を要するような場合に労務提供が不能であるとして解雇しうると考えられます。
 
このような就業規則に該当するか否かという形で、解雇(退職)の有効性が争われる場合が多いようです。

>> 参考事例
小学校の巡回指導を行う歯科衛生士が、頸椎症性脊髄症による長期間の休職後、就業規則所定の「身心の故障のため、職務の遂行に支障があり、又はこれに耐えない場合」に該当するとして解雇された事案
左上肢を一時的に持ち上げることができるものの、その姿勢を長く保持することが困難であり、左上肢を上げ下げする動作を繰り返すと左手に不随運動が生じてしまうおそれがあることが認められ、児童の口腔内の状況を迅速かつ的確に検査できる状態にはなかったとされ、解雇が有効と判断された(東京高判平17.1.19)。
 
 

(2)勤務態度の不良・適格性の欠如

勤務態度不良とは、会社や上司の指示命令に従わない、職場のルールを守らない、同僚との協調性がない、職務怠慢である、職場や取引先でトラブルばかり起こしているなどの行状をいい、適格性の欠如とは労働者の言動から、社員としての適格性を欠くと判断される場合をいいます。
 
解雇が解雇権の濫用として無効とされないためには、解雇がやむを得ないと考えられる客観的・合理的な理由と、社会通念上相当と認められる事が必要です(労契法16条)。

労働契約は、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対する賃金を支払うという契約であり、労働者の勤務態度不良や適格性欠如は、労働者の労働契約上の義務、すなわち会社の指示命令に従って労務を提供する義務の履行が不完全な場合といえますから、これにより労働契約の目的を達成することができないのであれば、解雇することができます。
 
勤務態度不良・適格性の欠如と評価される労働者の行状は、その内容が千差万別で、その程度も些細なものから重大なものまで様々です。

したがって、ケースバイケースの判断にならざるを得ませんが、解雇を検討するには、以下のような点に留意すべきでしょう。
 
●勤怠不良等の回数・程度・期間・やむを得ない理由の有無
●職務に及ぼした影響
●使用者からの注意・指導による改善の機会の付与
●当該従業員の過去の非行歴や勤務成績
●過去の先例の有無
 
>> 参考事例
ファーストフード店の店員が、業務上の指示に従わず、他の店員を大声で怒鳴りつけ、客の面前で店外に引きずり出そうとしたり、他の店員に対し、客の面前で激昂して食器を床に投げつけるなどし、わずか3か月間にアルバイト従業員が3名も辞めることとなったという事案
会社代表者が厳重に注意したにもかかわらず、その後もトラブルを起こしたこと、会社代表者と話し合い、再度、勤務状況の改善をみることになったにもかかわらず、あえてその翌日に30分遅刻してきたことなどから、解雇を有効と判断しました(大阪地決平13.9.25)。

 

(3)能力不足

労働契約は、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対する賃金を支払うという契約であり、労働者が業務を遂行する能力を十分に有しておらず、使用者の指示命令に従って労務を提供することができないことは、労働契約の債務不履行(不完全履行)です。

したがって、これにより労働契約の目的を達成することができないのであれば、解雇の客観的合理的理由になり得ます。

ただ、一概に能力不足といっても、その内容・程度は様々です。また、能力は入社後の教育や職務経験によって培われる面もありますので、解雇を検討するには以下の点に留意すべきでしょう。

●能力不足の程度が著しいこと
●教育・研修、改善の機会等の付与

>> 参考事例
能力不足の程度について、人事考課の結果が下位10パーセント未満であったという事案
就業規則の解雇事由である「労働能率が劣り、向上の見込みがないと認めたとき」に該当するというためには、平均的な水準に達していないというだけでは不十分であり、著しく労働能率が劣り、しかも向上の見込みがないときでなければならないとし、人事考課の結果が下位10パーセント未満であっても直ちに向上の見込みがないとまでいうことはできないとした裁判例があります(東京地決平11.10.15)。
 
 

(4)経歴詐称

経歴詐称とは、労働者が会社に採用応募の際に作成する履歴書や面接等において、学歴、職歴、犯罪歴などを偽り、また、真実をことさらに告げないことをいいます。

重大な経歴詐称があった場合には解雇しうると考えられますが、全ての場合に解雇できるわけではありません。

具体的には、その経歴詐称行為が重大な信義則違反に該当するかどうかを以下のような観点から総合的に判断し、信義則違反にあたると判断された場合には、解雇が許されるものと考えられます。
 
●就業規則に経歴詐称を解雇事由とする旨の有無
●経歴を詐称した態様
●意識的に詐称されたものであるか
●詐称された経歴の重要性の程度
●詐称部分と企業・詐称者が従事している業務内容との関連性
●使用者の提示していた求人条件に触れるものであるか
●使用者が労働契約締結前に真実の経歴を知っていれば採用していなかったと考えられるか

>> 参考事例
製鉄会社が新聞広告に、「中卒者又は高卒者、経験不問」として現場作業員を募集したところ、真実は、東京大学在学中(休学中)であるのに、中卒と申告し、その他職歴や家族関係についても虚偽の申告をして採用された者について、入社後1年8か月後に経歴詐称が発覚した事案
諭旨解雇が有効と判断された(東京高判昭56.11.25)。
 
 

(5)セクシュアル・ハラスメント

セクシュアル・ハラスメントには、様々な態様の行為があり、会社の対応としても、行為の内容・性質に照らして、厳罰に処すべきものから、注意・指導が適切なものがあります。

セクハラを理由に懲戒解雇を行う場合、労働契約法15条により、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない懲戒解雇は無効となります。

セクシュアル・ハラスメントに関する処分において、注意すべき点はセクハラ対策を参照して下さい。

>> 参考事例
観光バスの運転手が、自社の女性ガイドに対して、車中にいるときに脚や胸に触ったり、降車の際にいきなり後ろから抱きついて胸に触ったり、ホテルに誘うなどの行為があったこと、その他、取引先旅行会社からもセクハラの苦情があったこと等を理由として懲戒解雇を行った事案
懲戒解雇を有効と判断しました(大阪地判平12.4.28)。
 
 

解雇までの手続きも慎重に

解雇事由が正当なものだったとしても、解雇に至るまでの方法が慎重さを欠いている場合には、
解雇権の濫用と判断されることもありますので注意が必要です。


解雇権の濫用と判断されないためには、解雇される者の選定が合理的であるかどうか(被解雇者選定の合理性)の他に、
解雇を回避するための努力が尽くしたがどうか(解雇回避努力)、事前に説明・協力義務を尽くしたかどうか
(解雇手続の妥当性)が争点になってきます。

つまり、できるだけ解雇以外の方法によって解決しようとしたという経緯が必要になります。

例えば、無断欠勤の多い社員を解雇したい場合には、最初から懲戒解雇を行うのではなく、
まずは戒告・訓戒などの解雇以外の懲戒処分、それでも改まらない場合には諭旨解雇を試みる必要があります。

それも困難な場合に、最終手段として懲戒解雇を考えるというステップが重要です。
 
 

解雇のご相談は弁護士へ

解雇するに足る正当な理由があるか否かについては、具体的な事情によって結論が異なります。

事実関係をきちんと調査せずに不当解雇を行った場合、後ほど会社の損害賠償責任が
問われる可能性がありますので、安易な解雇判断は禁物です。


解雇する時点では、被解雇者が何の文句も言わず穏便に解雇できた場合でも、
その後、解雇の無効を訴えて争ってくる可能性も十分に考えられます。

したがって、解雇できるかどうかが不安なとき、あるいは、解雇する上での手続きが不安なときは、
弁護士に事実関係を詳しく説明して判断を仰ぐのが賢明でしょう。


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